舞台は中国や日本、欧米各国の諜報部員が暗躍する1941年の上海。フランス諜報部員に女スパイとして育てられたユー・ジンは日本海軍少佐から太平洋戦争の奇襲作戦の場所を聞き出す任務についた。映画『サタデー・フィクション』はホン・インの小説「上海の死」を原作に、横光利一の「上海」を劇中劇として取り入れた二重構造を取った作品である。ユー・ジンを『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993/チェン・カイコー監督)で有名なコン・リー、日本海軍少佐をオダギリジョーが演じる。公開を機に来日したロウ・イエ監督に作品に対する思いを語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

オダギリジョーに寄せて脚本を調整

──古谷三郎を演じたオダギリジョーさんは最初から決めていたとのこと。なぜオダギリジョーさんだったのでしょうか。

中国にはオダギリジョーさんのファンが多いのです。もちろん、私もその1人です。

画像1: オダギリジョーに寄せて脚本を調整

原作小説の中に描かれている古谷三郎とこの作品の古谷三郎はかなり違います。しかし、核となる人物なので、まずはオダギリジョーさんが演じる古谷三郎、パスカル・グレゴリーが演じるフレデリック・ヒューバート、この2人のキャスティングを決め、そこから構成を作っていったのです。

ただ、オダギリジョーさんはスケジュールの関係でずっと上海にいるわけにはいかず、頻繁に日本と上海を往復してもらいました。

──古谷三郎はオダギリジョーさんに寄せて作ったということでしょうか。

はい、オダギリジョーさんに寄せて脚本を調整していきました。そこにユー・ジンを演じるコン・リーが加わったことで作品としての構成が確かなものになりました。

──オダギリジョーさんに古谷三郎を演じてもらうことで、どのような話をしましたか。

1回目の衣装合わせのときにオダギリジョーさんから「少し白髪が出てきていますが、どうしましょうか」と聞かれました。私は「古谷という人物は妻がいなくなり、かなり苦しみ、悩んでいる。白髪はそのままの方がいい」と伝えました。

──梶原を演じた中島歩さんが印象に残りました。

人間には2つの面があります。それはマジックミラーみたいなもの。梶原という人物は古谷のもう一つの面として配置しています。

画像2: オダギリジョーに寄せて脚本を調整

ただ初めて中島さんに会ったとき、優しくて紳士的な雰囲気を感じたので、梶原のような影のある役は難しいのではないかと心配になりました。それで梶原の役どころを説明して、それでもやる意思があるかと確認したところ、「やらせていただきます」とおっしゃったのです。

それから衣装合わせやメイクをしたところ、まさにこの梶原になりました。当初の予想と違って、素晴しく演じてくれたので満足しています。

──モノクロで1本撮るのが夢だったとのこと。モノクロの作品を撮り上げた今の気持ちをお聞かせください。

やっと夢が実現できた気がします。他の監督はどうかわかりませんが、恐らく監督をする人は16mmフィルムで撮ってみたいとか、モノクロで撮ってみたいといった夢を持っているものだと思います。

──監督の次の夢はどのような撮り方でしょうか。

フィルムは『天安門、恋人たち』(2006)でクリアしていますから、次はスマホで撮ることですね(笑)。

──公開を機に来日されましたが、日本人に特に伝えたいことはありますか。

日本で公開されることになり、とてもうれしく思っています。この作品は日本と関係が深いので、ぜひ多くの方にご覧いただきたいと思います。

<PROFILE>
ロウ・イエ

1965年生まれ。中国の脚本家、監督、プロデューサー。1994年、『デッド・エンド/最後の恋人』で監督デビュー。2000年、『ふたりの人魚』は当局の許可なしにロッテルダム国際映画祭に出品したため中国では上映禁止となった。2003年、チャン・ツィイーを主演に1930年代の中国と日本の間の対立を描いた『パープル・バタフライ』は、カンヌ国際映画祭の公式コンペティション部門に選出。2006年、天安門事件にまつわる出来事を扱った『天安門、恋人たち』はカンヌ国際映画祭で上映された結果、再び5年間の映画制作・上映禁止処分となる。

禁止処分の最中、検閲を避けるためフランスと香港合作で作られた『スプリング・フィーバー』は2009年カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞。その2年後、2011年タハール・ラヒム主演で『パリ、ただよう花』をフランスで撮影。2012年、カンヌ国際映画祭“ある視点部門”オープニング作品に選ばれた『二重生活』は、映画制作禁止後に、ロウ・イエが公式に復活を果たした作品。

2013年、『ブラインド・マッサージ』はベルリン国際映画祭にコンペティション部門に選出され、台湾のアカデミー賞金馬奨で作品賞を含む6冠を受賞。2018年、広州・香港・台北を舞台にしたクライムサスペンス『シャドウプレイ』は金馬奨で4部門ノミネート。本作『サタデー・フィクション』はコン・リー主演、オダギリジョー共演による、1941年の太平洋戦争開戦前夜の上海租界を舞台としたスパイ映画で、第 76 回ベネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品した。最新作は、『少年の君』のイー・ヤンチェンシー(易烊千璽)と『象は静かに座っている』のチャン・ユー(章宇)が出演する『三文字(原題:三個字)」(公開未定)と、日本及び欧米でも有名なバンド「重塑雕像的權利(Re-TROS)」のドキュメンタリー(公開未定)。

『サタデー・フィクション』全国公開中

画像: 11月3日(祝・金)公開決定『サタデーフィクション』60秒本予告解禁 youtu.be

11月3日(祝・金)公開決定『サタデーフィクション』60秒本予告解禁

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<STORY>
1941年、日本軍の占領を免れた上海の英仏租界は、当時「孤島」と称されていた。魔都と呼ばれるこの上海では、日中欧の諜報部員が暗躍し、機密情報の行き交う緊迫したスパイ合戦が繰り広げられていた。

日本が真珠湾攻撃をする7日前の12月1日、魔都上海に、人気女優のユー・ジン(コン・リー)が現れる。新作の舞台「サタデー・フィクション」で主役を演じるためだ。一方、この大女優ユー・ジンには、幼い頃、フランスの諜報部員ヒューバート(パスカル・グレゴリー)に孤児院から救われ、諜報部員として訓練を受けた過去があり、銃器の扱いに長けた「女スパイ」という裏の顔があった。

そして2日後の12月3日、日本から海軍少佐の古谷三郎(オダギリジョー)が海軍特務機関に属する梶原(中島歩)と共に、暗号更新のため上海にやってくる。ヒューバートはユー・ジンに告げる。「古谷の日本で亡くなった妻は君にそっくりだ」と。それは、古谷から太平洋戦争開戦の奇襲情報を得るためにフランス諜報部員が仕掛けた“マジックミラー計画”の始まりだった……。

<STAFF&CAST>
監督:ロウ・イエ(婁燁)
脚本:マー・インリー(馬英力)
撮影:ツォン・ジエン(曾劍)
出演:コン・リー(鞏俐)/マーク・チャオ(趙又廷)、中島歩、 パスカル・グレゴリー(Pascal Greggory)、トム・ヴラシア(Tom Wlaschiha)、ホァン・シャンリー(黄湘麗、)ワン・チュアンジュン(王傳君)、チャン・ソンウェン(張頌文)/オダギリジョー
配給:アップリンク

© YINGFILMS 2019

公式サイト:https://www.uplink.co.jp/saturdayfiction/

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