舞台は中国や日本、欧米各国の諜報部員が暗躍する1941年の上海。フランス諜報部員に女スパイとして育てられたユー・ジンは日本海軍少佐から太平洋戦争の奇襲作戦の場所を聞き出す任務についた。映画『サタデー・フィクション』はホン・インの小説「上海の死」を原作に、横光利一の「上海」を劇中劇として取り入れた二重構造を取った作品である。ユー・ジンを『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993/チェン・カイコー監督)で有名なコン・リー、日本海軍少佐をオダギリジョーが演じる。公開を機に来日したロウ・イエ監督に作品に対する思いを語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

様々な偶然が重なり、特別な作品に

──本作はアンドレ・マルローの小説を原作とした『人間の条件』の前哨戦として撮るつもりだったのが、『人間の条件』とは切り離した特別な作品になったと聞きました。それはどうしてでしょうか。

原作はホン・インの「上海の死」という小説ですが、僕が好きな横光利一の小説「上海」を劇中劇として取り入れています。また、両親が舞台俳優で、父が団長を務めていた劇団がこの作品の舞台となった蘭心大劇場を本拠地していたので、幼い頃、よくついていっていました。そういった様々な偶然が重なり、私にとって、この作品は特別な作品になったのです。

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──横光利一は現代の日本人には馴染みの少ない作家ですが、なぜ横光利一の「上海」を取り入れたのでしょうか。

作品内で上演される舞台はモー・ジーインが書いた「礼拝六小説」という設定ですが、「礼拝六」は作品の時代設定よりも10年以上前に発行された文芸誌の名前です。この雑誌に中国新感覚派の作家も寄稿することがあり、彼らは1920年代後半の横光利一を筆頭とする日本の新感覚派から大きな影響を受けていたのです。ですから、この作品には横光利一の「上海」が相応しいと思いました。

──劇中劇の形式を取っていることもあり、ユー・ジンと演出家で恋人のタン・ナーの会話は現実と劇のセリフが混在し、惑わされます。そういう形を取ったのはなぜでしょうか。

我々の日常生活においても、フィクションの部分が往々にしてある。だから現実とフィクションがミックスしている状態が我々の日常ではないかと考え、劇中劇と現実に線をきっちり引かず、わざと曖昧にぼかしています。

画像: 様々な偶然が重なり、特別な作品に

──森川久美さんのコミック「南京路に花吹雪」(白泉社)を参考にされたと聞きました。

森川久美さんの作品からは外の人が見る上海や、その視点そのものを感じることができるので、参考になりました。僕は日本語で読みましたが、一部では中国語に翻訳されたものが出回っていると聞いています。

──俳優の演出ではどのようなことを大事にしていますか。それは演劇人だったお父様の影響を受けていますか。

いちばん大事なのは、演技をしていることを忘れてしまうくらい役になりきっていること。役者によって役になり切るまでに掛かる時間は違いますが、そうなるように導いています。

父親の演出を見て学んだわけではありませんが、常に役者とコミュニケーションを取っていたことは覚えています。

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