演技を遥かに超越する特別な何かを瞳の中に感じさせた主演の2人
──主人公の若者2人を演じたガブリエーレ・ピッツーロとサムエーレ・セグレートはオーディションで決まったそうですね。
とても長い時間を掛けて何百人もオーディションをし、ガブリエーレ・ピッツーロとサムエーレ・セグレートに辿り着きました。2人とも演技を遥かに超越する特別な何かを瞳の中に感じさせたのです。彼らは会うやいなや、お互いを受け入れ、感情が一気に高まるのが見て取れました。
実は一旦、反対の役でテストしたこともありましたが、自分が最初に考えた設定の方がいいと感じて、今の設定に落ち着きました。家族も登場しますから、母親役の女性にどちらの方が似ているのかといったことも判断材料にしています。
──2人にはどのように演出をしましたか。
サムエーレは映画に少し出演していましたし、テレビドラマの経験がありました。ガブリエーレは映画の経験こそありませんが、舞台の経験はありました。2人とも人間としてとても純粋で、役に対して真摯に向き合い、一生懸命に演じてくれました。
彼らの世代は父親世代が経験した戦争などの問題を知らず、ネットなどを通じて世界の他の国々と近いですし、知識が豊富でいろんなことができます。その一方、とても繊細で、孤独感を味わっています。世界が近いようで、離れているような世代です。彼らのそういった世代特有の気質を保ちつつ、脚本の人物像の中に入りやすいように、1980年代のシチリアという状況に自分たちがいると感じさせる舞台を整えました。サムエーレはシチリア出身で、ガブリエーレ自身はローマっ子ですが、両親はシチリア出身なので、シチリアに対する知識はある。そういう点にかなり助けられました。
──最後に作品に対する思いをお聞かせください。
この作品は計算して生まれてきたものではありません。2人と彼らを取り巻く環境を考えて脚本を書きましたが、撮影しているうちに役者たちの演技の中から母親や父親との関係といった要素が浮かび上がってきたのです。編集しているときに自分が思っても見なかった感動が生まれてきていることに気がつきました。
映画を見てくれた映画評論家たちからはとても政治的な映画だと言われました。しかし、自分としてはそんなつもりはなく、自由に描きたかったので、この作品を通じて何らかのメッセージを伝えようという意図はありません。むしろ詩的な作品を撮るつもりでした。
母親の存在は男性にとって非常に大きなものなので、そういう結果に繋がったのだと思いますが、詩や文学は政治よりも強い主張になるということを改めて感じています。
<PROFILE>
ジュゼッペ・フィオレッロ監督
1969年3月12日、シチリア生まれ。90年代から劇映画、テレビ映画の多くの作品で活躍している。主な出演作に、マルコ・リージ監督『モニカ・ベルッチ ジュリア』(98)、ジュゼッペ・トルナトーレ監督『シチリア!シチリア!』(09)、ロベルタ・トッレ監督『キスを叶えて』(10)等。2012年に、エマヌエーレ・クリアレーゼ監督『海と大陸』でイタリア・ゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞、ナストロ・ダルジェント賞最優秀助演男優賞にノミネートされた。俳優・脚本家・監督・プロデューサーなどマルチに活躍している。本作が初の長編映画監督作。
『シチリア・サマー』公開中
<STORY>
1982年、初夏の日差しが降りそそぐイタリア・シチリア島。バイク同士でぶつかり、気絶して息もできなくなった17歳のジャンニに駆け寄ったのは、16歳のニーノ。育ちも性格もまるで異なる2人は一瞬で惹かれあい、友情は瞬く間に激しい恋へと変化していく。2人で打ち上げた花火、飛び込んだ冷たい泉、秘密の約束。だが、そんなかけがえのない時間は、ある日突然終わることに──。
<STAFF&CAST>
監督・脚本:ジュゼッペ・フィオレッロ
出演:ガブリエーレ・ピッツーロ、サムエーレ・セグレート
配給:松竹
2022年/イタリア語/134分/スコープ/カラー/5.1ch/原題:Stranizza d'Amuri/PG-12
日本語字幕:高橋彩/後援:イタリア大使館(ロゴ)
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