AIが発達した近未来のニューヨーク。最新テクノロジーによって持ち運び可能な卵型の《ポッド》で赤ちゃんを育てることが可能になり、ハイテク企業に勤めるレイチェルは新しい出産方法に心惹かれる。映画『ポッド・ジェネレーション』はポッド妊娠を選択したあるカップルの変化を描いている。主人公のレイチェルを演じるのは、世界的人気ドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」でエミー賞4度ノミネート経験のあるエミリア・クラーク。本作には製作総指揮としても参加している。「商品化に最もそぐわないものをテーマに据えようと考えた」というソフィー・バーセス監督に話を聞いた。(取材・文/ほりきみき)

出資者が集まったのはエミリア・クラークのおかげ

──主人公のレイチェルを演じたのはエミリア・クラークです。なぜエミリアにお願いしたのでしょうか。

テレビドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」は一度も見たことがなかったのですが、私と彼女のエージェントが同じだったので、エージェントが脚本を読んで、エミリアを勧めてくれました。コロナ禍にzoomで彼女と会って、話をしたところ、カリスマ性があり、とても活き活きとしていると同時に弱い部分もある。二律背反的なところを持っていらっしゃる方なので、彼女が適任だと思いました。

画像: レイチェル(エミリア・クラーク)

レイチェル(エミリア・クラーク)

──エミリアは製作総指揮も兼ねていますね。

エミリアの方からやりたいと言ってくれました。一種の代理出産の話ですが、これってまだまだ理解を得られていないところがある。インディペンデント映画として出資者を募りましたが、手を挙げてくれる人がなかなか見つからない。エミリアが入って強いメッセージを発してくれたことで、何とかヨーロッパで出資者が現れました。

──レイチェルのキャラクターをエミリアとどのように作っていったのでしょうか。

完璧な母でありながら仕事も完璧にこなすことを求められる時代ですが、実際にそんなことができるわけではありません。世界中の女性たちが「これでいいのだろうか」と不安や猜疑心を持ち、多くのプレッシャーを感じながらも、できるだけ期待に応えようとして生きていると思います。しかし、そんなことは続けていられない。

イギリスの小児科医で、精神分析医のドナルド・ウィニコットは「good enough mother」という言葉を残しています。「完璧でなくていい、ほどほどくらいのお母さんであればいい」という意味ですが、まさにその通りだと思います。

時代の流れの中で、母親に求められるものがどんどん変化してきている。そんな話も含めて、エミリアとは母親であること、女性であることなど、いろいろなことを話しました。

画像: アルヴィー(キウェテル・イジョフォー)

アルヴィー(キウェテル・イジョフォー)

──現場でのことで印象に残っていることがあったら教えてください。

2つあるのですが、1つはレイチェルのパートナーであるアルヴィーを演じたキウェテル・イジョフォーが撮影期間中に本当のお父さんになったことです。ポッドを抱えるシーンは本当に絆を育んでいるように見えました。育児休暇的に1カ月撮影現場から離れたのですが、戻ってきてからは感情がものすごくリアルでしたね。現場のみんなにとってもエモーショナルな体験になりました。

もう1つはベルギーで出産シーンを撮影したときのことですが、本当に生まれて4日くらいの新生児の赤ちゃんが出てくれたのです。目を開いて、エミリアの方に手を伸ばしたりするなど、こちらが望むことをすべてやってくれました。一流の役者かと思うくらいに見事な役者ぶりでした。

──この作品を撮ったことで、人間とテクノロジー、自然の関係についての考え方に変化はありましたか。

変わりましたね。4~5年前にこの作品を考え始めたときはあくまでも未来を想像して、遊び心を持って脚本を書いていましたが、今は本当に人工知能があふれている。自分たちが生きているうちに人工子宮があり得るかもしれない。ある意味、ドキュメンタリー映画になってしまった気がします。しかし、そうなったときに人類は受け入れる準備ができているのか。ペンギンのように卵で子どもを生む準備はできているのか。

警鐘を鳴らすつもりで書いた物語が実際に起きていて、それが倫理的な部分に関わってくる。遊び心とは言えなくなってしまった。怖いですね。

──これからご覧になる方に向けてひとことお願いします。

映画はすごくパーソナルな体験なので、こう見てほしいとは言えないのですが、ご覧いただけたのであれば、自分たちの利便性のために自分たち自身を手放してしまっていいのか、それは2度と取り返すことができないのではないかを問いかけてほしいと思います。ある種の遊び心を持って描いていますが、大事なことだと思っています。多くの方に劇場でご覧いただけるとうれしいです。

<PROFILE>
ソフィー・バーセス

コロンビア大学出身で、映画制作に携わるフランス系アメリカ人。監督デビュー作の『COLD SOULS(原題)』(09・未)はポール・ジアマッティとエミリー・ワトソンをキャストに迎え、サミュエル・ゴールドウィン・フィルムズが配給を担当した。同作はサンダンス映画祭にも出品されている。バーセスはサンダンス・インスティテュートで脚本と監督の講習を受けていた。長編2作目はミア・ワシコウスカ主演の『ボヴァリー夫人』だ。同作はテルライド映画祭でのプレミア公開を経て、2014年に一般公開された。

『ポッド・ジェネレーション』2023年12月1日(金)よりTOHO シネマズ シャンテ、渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開

画像: 12/1(金)「映画の日」公開『ポッド・ジェネレーション』予告編_90秒 www.youtube.com

12/1(金)「映画の日」公開『ポッド・ジェネレーション』予告編_90秒

www.youtube.com

<STORY>
近未来のニューヨークで暮らすレイチェルとアルヴィー。

大企業のペガサス社は、持ち運び可能な卵型の《ポッド》を使った気軽な妊娠を提案する。ハイテク企業に勤めるレイチェルは新しい妊娠方法に心惹かれる。一方、植物学者のアルヴィーは自然な妊娠を望む。

そんな二人が、出産までの10ヶ月の間、《ポッド》で赤ちゃんを育てることを選択したー

<STAFF&CAST>
監督:ソフィー・バーセス
出演:エミリア・クラーク、キウェテル・イジョフォー
配給:パルコ
© 2023 YZE – SCOPE PICTURES – POD GENERATION
公式サイト:https://pod-generation.jp/

This article is a sponsored article by
''.