ドニー・イェンが宙を飛び交い、武術に於いて最高峰と言われる達人技を次々と繰り出していく。映画『シャクラ』は中華圏を代表する小説家・金庸の長編武侠小説「天龍八部」をドニー・イェンが監督・主演・製作として壮大な世界観で映像化した超絶武侠アクション作品である。物語を支えるスケールの大きなアクションを監督したのは盟友・谷垣健治氏。『るろうに剣心』シリーズで有名な谷垣氏は1993年単身香港に渡り、ドニー・イェンの作品をはじめとする香港映画にスタントマンとして多数参加してきた。SCREEN ONLINEでは本作の公開を機に谷垣氏にインタビューを敢行。作品やドニー・イェンについて語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

ドニー・イェンの時代の先見性に驚く

──谷垣さんが95年のTVドラマ「精武門」にスタントマンとして現場にはいったことをきっかけにドニーがアクション監督を担当するドラマや映画の多くに日本人スタントチームを率いてアクション指導として参加するようになったそうですね。30年近くご一緒されて改めて思う、ドニー・イェンのすごいところを教えてください。

ドニーがすごいのは時代の流れに合わせて、自分をブラッシュアップしているところですね。その時代、その時代に求められているものをしっかりアンテナを張ってキャッチして、それをちゃんと活かしています。

今は普通の役者さんがキックボクシングをやったりしますが、以前はアクション映画に出ること自体がジャンル俳優の専売特許みたいなところがありました。しかしドニーが「これからは普通の役者もアクションをする時代がくる」と言っていたのです。今だとそんなの当たり前ですが、それを聞いて、僕は「まさか」と思って。ほんの20数年前は誰もがそんな感覚だったと思います。でもその後すぐに『マトリックス』や『チャーリーズエンジェル』といった、いわゆる普通のスターが時間を掛けて格闘技を習得して映画を撮る時代が来たわけです。そういったドニーの時代を見る先見性ってすごいなと思いました。

画像: ドニー・イェンの時代の先見性に驚く

柔術的なものに対しても「これは面白いから、将来、きっと流行る」といって、かなり早い段階からアプローチを始めているんです。2003年の『ツインズ・エフェクト』、2005年の『SPL 狼よ静かに死ね』あたりから取り組み始め、それがちゃんと形になったのが2007年の『導火線 FLASH POINT』(日本公開は2011年)です。

MMA(総合格闘技:打撃技、投げ技、寝技、締め技、関節技などの色々な技を使って戦う格闘技)を映画的に表現したらどうなるかをやっています。「ジョン・ウィック」シリーズのチャド・スタエルスキ監督のチームが「『導火線 FLASH POINT』は現代アクションの教科書みたいな映画だ」と言ってくれているのですが、ドニーはアクションに関して各時代の代表作をちゃんと作っていて、それが自分のセルフコピーになっていない。時代に応じたアプローチをしているところがすごいと思います。

そしてなにより拳の説得力ですね。時代劇でイケメンの俳優が形だけやっているのとは違い、本当にドニーから光線が出ているように見える(笑)。そこにエフェクトを載せてしまうのがもったいないくらい、何かを感じさせるときがあるので、その辺の説得力の強さを感じます。

また、役者として主観的にも客観的にも作品を見られるところも素晴らしいところですね。まず、主観的なところでこう表現したい、でも客観的に見たらこうだから変えるといったことができるのです。これはなかなかできることではありません。今ってカメラが役者に合わせて動くので、役者は自由に演技をします。しかしドニーは昔の訓練を受けた人なので、カメラに向けて芝居をするのが上手い。しかもカメラが広角なのか望遠なのかを把握した上で、それに合わせて芝居をすることもできる。こういう総合的に映画を理解している役者が今は少なくなったと思います。

――続編を感じさせるラストでした。

原作は続きがありますし、ドニーとしては中国版MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)という位置付けで考えていた部分もあったと思います。

なによりドニー自身が喬峰にかなり思い入れがあり、現場も充実していたので、またその姿が見られる機会があるかもしれません。

<PROFILE>
アクション監督/谷垣健治

1970年10月13日生まれ。奈良県出身。1989年に倉田アクションクラブに入り、1993年単身香港に渡る。香港スタントマン協会(香港動作特技演員公會)のメンバーとなり、ドニー・イェンの作品をはじめとする香港映画にスタントマンとして多数参加。2001年に香港映画『金魚のしずく』でアクション監督デビュー。その後、アクション監督として『るろうに剣心』(12)、『るろうに剣心 京都大火編』(14)、『るろうに剣心 伝説の最期編』(14)等を手掛けた。『邪不圧正』(18・未)において日本人として初めて台湾の第55回金馬奨最優秀アクション監督賞を受賞。近年では『レイジング・ファイア』(21)、『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』(21)、『るろうに剣心 最終章The Beginning/The Final』(21)などを担当し、世界的に活躍している。

『シャクラ』2024年1月5日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

画像: 『シャクラ』本予告 youtu.be

『シャクラ』本予告

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<STORY>
宋代の中国。丐幇(かいほう)の幇主・喬峯(きょうほう)(ドニー・イェン)は誰からも慕われる英雄的な存在だった。だがある日、何者かに副幇の馬が殺害され、その犯人に仕立て上げられてしまう。しかも自分が漢民族ではなく契丹人であるという出自まで明かされ丐幇を追放される。自らを陥れた人間を探し出し、さらに自身の出生の真実をつきとめるため喬峯は旅にでる。しかし、彼の行く手には更なる罠が仕掛けられていた!武林最強の技、「降龍十八掌」を使い、襲い来る刺客たちをなぎ倒す喬峯。果たして彼は黒幕を突き止め復讐を果たすことが出来るのか!?

<STAFF&CAST>
製作・監督・主演:ドニー・イェン 
アクション監督:谷垣健治
出演:チェン・ユーチー、リウ・ヤースー、ウー・ユエ、チョン・シウファイ
2023年/香港・中国/広東語/130分/シネスコ/5.1ch/原題:天龍八部之喬峰傳/日本語字幕:小木曽三希子
配給:ツイン  
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公式サイト:https://sakramovie.com/

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