見せ方や時間配分などで緊迫感を出す
──サスペンス作品は初めてかと思いますが、監督オファーを受けたときのお気持ちからお聞かせください。
最初は私も「なぜ自分なんだろう」と思ったのです。しかし、プロデューサーの大畑(利久)さんと脚本家の加藤(良太)くんが作った初稿か2稿くらいの脚本を読ませていただいて、わかった気がしました。この作品は劇団員の話であり、私は舞台演出もやっているので、会話劇というか、1シチュエーションものに長けていると思ってくださっていたようです。
──作っていくに辺り、苦労されたのはどのようなところでしたか。
登場人物は全員俳優で、オーディションを兼ねた合宿という設定ですから、俳優部にとって“演じることを演じる”状態です。本音で語り合う瞬間や相手の思惑を探り合う駆け引きなどがあり、非常にややこしい。俳優の中でノッキングが起きていたみたいです。いつもよりも大袈裟にやってもいいけれど、それを悟られるわけにはいきません。その塩梅がそれぞれの時間軸のときにどれくらいなのかをすごく気をつけました。
もう一つは1シチュエーションでも観客を飽きさせないためにはどうしたらいいのかということでした。殺人事件を扱った作品は「この人は怪しい」というのを明確にしてカットを積んでいけば、それだけでハラハラさせられますが、この作品はそれができない。しかも、ここは寄りなんだよというところも寄るとバレるから寄れません。せいぜいバストアップくらいで、基本的には寄りを入れず、それでも見せ方や時間配分などで緊迫感を出すよう、試行錯誤しました。
──舞台となっている建物の間取り図のような線だけが掛かれた空間で俳優全員が演技するのを俯瞰でとらえたシーンがありましたが、面白い見せ方ですね。
骨格でややこしいことをしている作品なので、一枚絵で全員が見られる状態を作れば、整理できるかなと思ったんです。観客が怪しいと思っている人を見ているときに、対角線上にいる人は何をしているのか。「この人はこのときにこんなことをしていた」ということが一目瞭然です。脚本の段階で思いつき、何ヶ所か入れました。画変わりにもなりますからね。確かに間取り図ですが、どこの劇場でも舞台のセットを吊り天井から見るとあのように見えます。抽象美術にするならば、壁がなくてもいいわけです。
──どのように撮影したのでしょうか。
天井がすごく高い倉庫を制作部が見つけてくれたので、そこに黒パンチカーペットを敷いて、テープを貼っただけです。
半分ずつ撮って、合成するやり方でないと撮れない場所が多かったのですが、それをやると演出的に難しい。一枚絵にみんながいて、わーっと動線をつけた方がやりやすいですからね。それができるところが見つかって本当に助かりました。