“演技って価値があるのだ”
──監督の奥様は活動家で、ご両親は医療ケアシステムの中で教師として働いているため、身の回りの人たちとご自身の仕事の意義を比べてしまい、葛藤を感じているとのこと。エヴリンとジギーで具現化した作品を撮ったことで、ご自身のそういった感情に変化はありましたか。
僕はもともと性格的にどっちつかずなところがあるので、何をしても葛藤を感じるのです。ですからこの作品を撮ったことで自分自身に変化はありません。
内向的な人は現実から逃避するために何かをすることが多いと思います。例えば想像力を使って何かアートを作ったりするわけです。しかし、そのアートが有名になってしまうと、自分が恐れている世界から注目されるというパラドックスに陥ってしまいます。
専門家ではないので、アートの価値に対して確実なことはいえませんが、少なくとも僕が言えるのは、この作品でのジュリアン・ムーアの演技は素晴らしかった。その演技はとても価値があると僕は思っています。
──今後も脚本を書いて、映画を作っていかれるのでしょうか。
来年公開予定の新作の編集がほとんど終わった段階で、今はミュージカルの脚本を書きつつ、音楽も作っています。
僕は毎日、何かを書いているのですが、映画を作る上での唯一の障害は周りの人がやらせてくれないということ。書いたものを誰かに見せて、10人に却下されても1人でも認めてくれる人がいれば次の映画ができます。
──プロデュースの仕事もされているのでしょうか。
デビッド・ゼルナー とネイサン・ゼルナーの作品でプロデュースをしたことがあります。しかし、僕はあまり得意ではありません。自分が出演することが決まっているのに、なかなか制作できずにいるときは、映画ができるようなお手伝いはしますが、あまり積極的にはやりたいことではありません。
僕が撮った作品は2作ともエマ・ストーンと彼女のパーティーのデイヴ・マッカリー、アリ・ハーティングというちゃんとしたプロデューサーのいる会社にプロデュースしてもらえたのでラッキーでした。
──今回、監督を経験したことは今後の俳優活動にどのような影響を与えると思いますか。
監督を経験したことで現場での居心地がよくなりました。以前は現場にいると監督に嫌われているのではないか、自分の演技はダメなんじゃないかといったことが気になって仕方なかったのです。しかし、自分が監督をやってみて、監督ってそんなことをいちいち考えていないことがわかりました。もしかすると考えている人もいるかもしれませんけれどね。僕が現場で監督から受けたいと思っていた承認みたいなものは必要ないことがわかったのです。今回、ジュリアン・ムーアが本当に素晴らしかったので、演技って価値があるのだと思ったことが大きかったと思います。
<PROFILE>
監督/脚本:ジェシー・アイゼンバーグ(Jesse Eisenberg)
米アカデミー賞ノミネート歴をもつ俳優。本作で長編映画監督デビューを飾った。本作は、アウディ賞最優秀オリジナル作品賞を受賞した同タイトルの Amazon のオーディオブックである Audible Original を基にしている。また、「The Spoils」「The Revisionist」「Asuncion」「Happy Talk」など数々の舞台脚本を手がけている。さらに、「ザ・ニューヨーカー」誌に度々寄稿している。著書に「Bream Gives Me Hiccups」がある
『僕らの世界が交わるまで』
2024年1月19日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国公開
<STORY>
DV被害に遭った人々のためのシェルターを運営する母・エヴリンと、ネットのライブ配信で人気の高校生ジギー。社会奉仕に身を捧げる母親と、自分のフォロワーのことしか頭にないZ世代の息子は、いまやお互いのことが分かり合えない。しかし彼らの日常にちょっとした変化が訪れる。それは、各々ないものねだりの相手に惹かれ、空回りの迷走を続ける"親子そっくり"の姿だった……!
<STAFF&CAST>
監督・脚本:ジェシー・アイゼンバーグ
製作:エマ・ストーン、デイヴ・マッカリー、アリ・ハーティング
出演:ジュリアン・ムーア、フィン・ウォルフハード、アリーシャ・ボー、ジェイ・O・サンダース、ビリー・ブリック、エレオノール・ヘンドリックス 他
北米配給&製作:A24
提供:カルチュア・エンタテインメント 配給:カルチュア・パブリッシャーズ
2022年/アメリカ/カラー/ビスタ/ドラマ/英語/88分/字幕翻訳:松浦美奈/原題:When You Finish Saving The World/映倫:G
公式サイト:https://culture-pub.jp/bokuranosekai/
© 2022 SAVING THE WORLD LLC. All Rights Reserved.