実話を基にした『ネクスト・ゴール・ウィンズ』。そのエピソードの数々に惹かれたというワイティティ監督がキーパーソンとなるジャイヤやポリネシア文化について語ってくれました。(文・よしひろまさみち/デジタル編集・スクリーン編集部)
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タイカ・ワイティティ プロフィール

1975年8月16日、ニュージーランド・ウェリントン生まれ。1999年に俳優として映画デビュー。2002年から短編を監督し、2007年に長編監督デビューした。自身の作品で二度ニュージーランドの興行記録を更新している。

2014年の『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』が評判を呼び、以降ハリウッドでも活躍。『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017)とその続編、アカデミー脚色賞を受賞した『ジョジョ・ラビット』(2019)などを手掛けた。

HBOのTVシリーズ「海賊になった貴族」(2022-)で製作総指揮(兼主演の一人兼エピソード監督)を務め、テリー・ギリアムの『バンデットQ』(1981)をドラマ化する「Time Bandits(原題)」など今後もプロデュース作が複数控えている。

“勝つのも負けるのも、家族一緒に”

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エピソード一つ一つが魅力的

──実際にあったことのひとつひとつが1本の映画にできるくらいに盛りだくさんのストーリーですよね。その中でも、監督にとって一番心惹かれたエピソードは?

ひとつに絞れないよ。全てに惹かれたからね。世界最弱のサッカーチーム、31対0という記録的な大敗、そこから這い上がって見事勝利を手にしたこと、トーマス(・ロンゲン)の人生における喪失の物語、そしてチームのなかでもとりわけ興味深い存在であるジャイヤ……などなど。

どれもこれも魅力的だから、どれかをピックアップすることはできないし、エピソードが盛りだくさんだから、この作品が面白くなったんだと思うよ。

──ドキュメンタリー映画版(2014年の『ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム0対31からの挑戦』)など、脚本にするにあたって、リサーチで知った新情報はありましたか?

ドキュメンタリー映画については、衣装や実在する選手らの容姿、トーマスがアメリカ領サモアにやって来たときの様子や、その後のチームとの交流、トレーニングなど、当時の様子を詳細にとらえていたから、そこを参考にさせてもらった。

それを土台に、オリジナルのキャラクターや僕ならではのユーモアを加えていったんだけど、初めて知った驚きの事実もたくさんあったよ。島にやって来たトーマスを空港で取材する『Who’s on the Plane?(飛行機に乗っているのは誰?)』が、実際に人気のローカル番組だったり、毎日決まった時間になると島の人々がみんな一斉にお祈りをしたり。

些細なこととはいえ、面白いと感じたものは、出来るだけ映画に盛り込むようにした。

画像: ジャイヤ本人とワイティティ監督 Photo by Tristar Media/Getty Images

ジャイヤ本人とワイティティ監督

Photo by Tristar Media/Getty Images

──サモアチームは、なんといってもジャイヤの存在が最大の個性となっていますよね。本作ではチームとジャイヤ、それに競技スポーツにおけるセクシュアルマイノリティのことも描かれていますが、実際にはFIFA自体を変えたのでは?

間違いなくそうだね。事実、彼女はFIFA平等親善大使(Ambassador of Equality)兼スポークスパーソンとして、FIFAという組織におけるLGBTQ+コミュニティーを代表し、不平等や地位向上といったことに働きかけている。

それに、なにせFIFAワールドカップの公式試合に正式に選手として出場した初のトランスジェンダーだったわけだから、FIFAに限らず、トランスジェンダーの選手が堂々と公式試合で活躍できるようになったのも、彼女の影響があったからこそだと思うよ。

現実の社会においても、映画のストーリーにおいても、非常に重要な存在であると同時に、おそらくほとんどの人が知らなかっただろう“ファファフィネ(Fa’afafine)”というポリネシア文化の伝統的でユニークな一面を教えてくれる。

何が素晴らしいって、それが何百年、何千年にもわたり、島文化の一部として受け入れられ、受け継がれてきた、島民にとってはごく自然なコンセプトだっていうこと。だから現実社会でもあえて語られることはないし、映画でも特に掘り下げる必要はないと感じたんだ。

画像: 『ネクスト・ゴール・ウィンズ』センスの塊タイカ・ワイティティ(監督・脚本)スペシャルインタビュー

──ポリネシア文化にふれるチャンスを与えてくれる作品でもありますよね。監督もそのルーツを持っていらっしゃいますが、本作で知った自分が知らなかったトピックは?

特にないかな(笑)。ほぼ全部知ってることだったから。僕はニュージーランドで生まれ、サモアやトンガ、フィジーといったポリネシアの島々の人たちに囲まれて育ったから、伝統や文化というものは自然と身についていたし、同胞意識も強かった。

もちろん、それぞれの島で多少の違いはあるものの、僕は皆ひとつの民族だと考えているし、“家族がすべて”というのも、紛れもない事実だよ。

家族のいない天涯孤独なトーマスが、何もないところにポツンと浮かぶ島にはるばるやって来て、その土地の伝統も文化も理解不能で、地元民に対する敬意も皆無だったのが、思いがけず大切な家族を見つけるというのが、この映画の物語のハートだと思っている。

勝つのも負けるのも、家族一緒に。とにかく大事なのは、家族が一緒にいることなんだ。

『ネクスト・ゴール・ウィンズ』
2024年2月23日(金・祝)公開
2023/イギリス=アメリカ/1時間44分/配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
監督:タイカ・ワイティティ
出演:マイケル・ファスベンダー、オスカー・ナイトリー、カイマナ、エリザベス・モス

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