セリフを言わなくても存在感がある錦戸亮
──主人公の兼三郎をリリー・フランキーさんが演じています。一緒に仕事をしてみたいとずっと思っていらしたとのことですが、作品に参加してもらっていかがでしたか。
人生最高の経験の1つでした。興奮しすぎて、どうやって撮っていたのか覚えていないくらいです。初めて会話したときから、兼三郎のことをちゃんと理解されていましたし、セリフの半分が英語でしたが、彼の身体的な表現も相まってちゃんと伝わってくる。ものすごい才能を持っていらっしゃる方だと思いました。
兼三郎が明子と喫茶店で話しているシーンがあります。リハーサルをやってみて、悪くはなかったのですが、何となく自分の中でしっくりこない。リリーさんと明子を演じた木村(多江)さんに自分たちが好きなようにセリフを書き替えてもらったのですが、素晴らしかったです。一晩掛けて訳して翌日撮影しましたが、パーフェクトでした。そのシーンで2人が食べるイチゴのショートケーキを念のため多めに用意していましたが、撮影がスムーズに進んだので、かなり余ってしまいました。彼らが脚本を書くとこんな感じで撮影が早く終わるかもしれないなどと思ったりしながら、みんなで余ったケーキを食べました(笑)。
──木村多江さんについてはどのような印象を持たれましたか。
初めてお会いしたときの部屋に入ってくる木村さんを鮮烈に覚えていますが、とても美しく、洗練されていました。この作品における男性のキャラクターと女性のキャラクターの違いをどう思うかとうかがったところ、英語で「男性は夢を見る、女性は計画をする」とおっしゃったんです。なんて素晴らしいんだろうと思いました。私よりも脚本の内容を理解されていると感じました。
リリーさんと夫婦として分かり合ってくださり、明子が書いたという手紙も木村さん自身に書いていただきました。
──息子の慧を錦戸亮さんが演じています。キャスティングの決め手と現場での様子についてお聞かせください。
セリフを言わなくても存在感がある。錦戸さんが出演された『羊の木』を見て、この人ならと思いました。
リハーサルをしているときも惹きつけるものがあって、見ずにはいられない。脚本に書いてあったセリフだけでなく、そのシーンで使う予定だった劇伴もかなりカットしました。存在そのもので表現してくれていたのです。しかも、とても謙虚で、すごく礼儀正しい。一緒に仕事をするのは喜びでした。
──兼三郎と明子が出掛けた寿司屋、喫茶店は大きな窓の外に自然の緑が見えるようになっていました。ロケーションにはかなりこだわられたのでしょうか。
かなりロケハンをしましたが、窓の外に緑があるのを見たときは映画の神様から「ここで撮影しなきゃダメだよ」と言われている気がしました。照明でもうっすら緑を加えています。ただ服には一切緑を使っていません。ほぼ絵コンテ通りに撮れたのは本当にラッキーでした。
<PROFILE>
パトリック・ディキンソン
イギリス出身。作家・監督。オックスフォード大学と早稲田大学で日本映画を学び、映画評論家・歴史家の故ドナルド・リチー氏の指導を受ける。2011年「SOON」、2012年「FATHER」、卒業制作「USAGI-SAN」(13)を含む、数多くの短編映画を撮影し、BAFTA US Special Jury Awardを受賞。世界30の映画祭で上映され、ヨーロッパで唯一の学生エミー賞(ドラマ部門)を受賞した。
2014年、京都フィルムメーカーズラボに参加し、東映京都撮影所と日本の短編映画「OKYO MONOGATARI」を監督。その後、BBCやNetflixでテレビシリーズのプロデューサー、エグゼクティブ・プロデューサーを務める。『コットンテール』は、日本とイギリス両国での、監督自身の物語に動機づけされた作品で、長編監督デビュー作となる。
『コットンテール』2024年3月1日(金)に新宿ピカデリーほかにて全国公開
<STORY>
長年人生を共に歩んできた妻・明子(木村多江)に先立たれた兼三郎(リリー・フランキー)は、明子の「イギリスのウィンダミア湖に遺灰を撒いて欲しい」という最後の願いを叶えるため、長らく疎遠だった息子の慧(錦戸亮)とその妻・さつき(高梨臨)たちとイギリスへと旅立つ。しかし、互いに長年のわだかまりを抱えた兼三郎と慧はことあるごとに衝突してしまう。さらに兼三郎には、慧に言えない明子とのもう一つの約束があった。
<STAFF&CAST>
出演:リリー・フランキー 錦戸亮 木村多江 高梨臨
監督・脚本:パトリック・ディキンソン
配給:ロングライド
2022年/イギリス・日本/日本語・英語/94分/2.39:1/カラー/原題:COTTONTAIL
©️2023 Magnolia Mae/ Office Shirous
公式サイト:https://longride.jp/cottontail/index.html