若い女性がガソリンを掛けられた後、火を放たれて焼死体として発見された。警察は被害者の男性関係を中心に捜査を進めるが、容疑者を特定することができないまま、捜査班は解散となってしまう。『12日の殺人』は事件の発生から追い、未解決案件となっていく過程を映し出すとともに、事件にのめり込むうちに、いつしか私生活にも影響を受けていく捜査員たちの日常も丁寧に掬い取っていく。フランスのアカデミー賞に相当するセザール賞(2023)で、最優秀作品賞、最優秀監督賞をはじめ、最多の6冠に輝いた。脚本も担当したドミニク・モル監督に作品への思いや演出について聞いた。(取材・文/ほりきみき)

男性の女性に対する暴力について描くことが必要と感じた

──本作の原案はポーリーヌ・ゲナの500ページ以上あるノンフィクション小説「18.3. Une année passée à la PJ(刑事訴訟法18.3条:司法警察での1年)」(2020)で、30~40ページほどを抜粋して脚色したとのことですが、なぜこの事件の部分を選んだのでしょうか。

原作者のポーリーヌが「どの捜査員にも他の事件より辛く感じる事件がある」と小説の中で書いていますが、この事件の主任捜査員にとってはまさにそれにあたるものでした。しかも未解決事件。まずはそこに惹かれました。ちなみに、この事件は原案となったノンフィクション小説でいちばん最後に書かれていたものです。

脚本家のジル・マルシャンと脚本開発を進めていくうちに、若い女性が殺された事件なので、女性に対する男性からの暴力というテーマに触れることが必要であると感じました。それを全面的に押し出すつもりはありませんでしたが、自然と脚本に反映していったのです。

原案小説は捜査官たちの日々の仕事ぶりを描いています。クライムものといえば、一般的に犯人を劇的に追い詰めるといった、雄々しい行動が描かれることが多い。しかし、原案小説に描かれた普段の地味な仕事がかえって興味深く、この事件以外のところからもそういった内容を抽出して作品内に入れ込んであります。

ドミニク・モル

──女性に対する男性からの暴力というテーマに関して、主任捜査員のヨアンは被害者の親友ナニー、女性の判事、後から加わった女性捜査員ナディアと話すことで発想の違いに気づきました。これは原作にも書かれていたことでしょうか。

原作に合ったものではなく、僕とジルが加えました。例えば、ヨアンとナニーの会話は原作にもありましたが、映画ほど詳しくは書かれておらず、3年後に再捜査を命じた判事は実際にいましたが、ヨアンとの間に映画のような会話があったわけではありません。ナディアに関しては存在自体がフィクションです。テーマを掘り下げていく中で自分たちが盛り込みました。

男性であることと、女性であること。その狭間に何があるのか。企画の段階では考えていませんでしたが、脚本開発を進めていくうちに、伝えたいメッセージの1つになりました。

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