団結し、支え合う女性たちの物語に心を揺さぶられた
──本作に出演することにしたのはどうしてでしょうか。
脚本を読んで初めてジェーンのことを知りました。「ロー対ウェイド判決」(※)が出る前、私はまだ大学に通っていましたが、判決以前の約20年間に何十万人もの女性が違法な中絶で亡くなりました。女性にはとんでもない大惨事です。あの悪しき時代の記憶がよみがえり、団結し、支え合う女性たちの物語に心を揺さぶられました。「苦しむ女性を助けることが違法だとは思わない」「自分が望むことを他人にも」「法には従うけど理不尽だと思えば行動を起こす」という理由に共感したのです。
実は今、ロー対ウェイド判決が危うくなっています。この時代にもタイムリーなテーマだから私は本作に関わりたかったのです。
※1973年アメリカ連邦最高裁が女性の人工妊娠中絶の権利を合法とした歴史的判決
──ジェーンについて教えてください。
ジェーンはある大学生同士の助け合いから始まった中絶支援を提供するグループです。中絶したくても他に頼れるところがないけれど、切実な問題だから、参加する女性は増えていき、組織は大きくなっていきました。腕のいい医者の情報はとても貴重で、大事なことでした。
ジェーンは女性への労りと尊重の心に満ちていました。当時、そうした気遣いは一般的ではありませんでしたけれどね。
そのうちに彼女たちは無資格の医師を雇い、彼から中絶手術の技法を学んで、約1万2000人もの女性に中絶処置を施しました。でも、ある時点で警察の捜査のメスが入ってしまったのです。幸運にも裁判前にロー対ウェイド判決が出て、有罪判決は下されず、無罪放免となりました。
女性は望むタイミングで子を持ち、人数も選べるという権利がある
──あなたが演じたバージニアはどのような人物でしょうか。
バージニアはジェーン発足当初からのメンバーです。メンバーの活動を指揮し、助けを求め訪ねてきた女性たちが癒しを感じられるように処置後のケアに気を配ります。処置が終わった女性たちに食事と休養を提供し、電話でその後の体調を確認します。共同体とはいえ バージニアが運営していたようなもの。彼女の仕事はとても多かった。だからみんなが助け合ったのだと思います。愛情あふれる団体でした。
彼女は金策にも奔走します。意義に賛同してくれる裕福な知人を訪ね回って、資金援助を頼んだのではないかと思います。
しかも、重責にも負けず、とてもユーモアがある。エリザベス・バンクス演じるジョイとも真の友情を築いていました。私はバージニアが大好き。こんな役は初めてです。
──バージニアの原動力は何だと思いますか。
女性が自分の体をコントロールできないのは不条理です。議論の焦点は女性が主体であるべきなのに、胎児へと移されています。バージニアにはこの状況が耐え難く、それが原動力になったのだと思います。
この映画が軌道修正のきっかけとなり、女性の命が尊重されることを願っています。子どもの数が多過ぎる家庭や、教育が受けらず、苦しい状況の人々が大勢います。ジェーンが主張しているのは、全女性が望むタイミングで子を持て、人数も選べるという権利があるということです。
以前の状態に戻ることは絶対に許容できない
──60年代後期から70年代初頭のアメリカにおいて誰が女性医療の運命を決定していたのでしょうか。
医療関係者を含め男性全般です。この作品では、医師たちがジョイの目の前で彼女の体について話い合い、命を救うための正当な処置であるにも関わらず中絶を願う彼女を拒否しました。
この場面を脚本で読んで衝撃を受けました。女性がいかに軽んじられていたか。本当に信じられない。イリノイ州の委員会は彼女を全く知らないのに。聞いた情報だけで判断を下しました。
女性の存在は完全に無視され、耳を傾けてもらえることはなく、常に蚊帳の外。妊娠して苦境に陥っても、女性だけが責任を負わされて、罪に問われることすらありました。医学界にはこのような処置への支援体制が存在しないからです。
──ひどいですね。
相手は人間なのに、まったく人間味が感じられません。女性の置かれていた状況が分かります。あのひどい医者たちの他に頼れる所がないのに…。その結果、体内に洗浄剤を注入して中絶するなど、死や大きなダメージに繋がることもありました。
改善された現状は喜ばしいけれど、それをひっくり返そうとする州があります。以前の状態に戻ることは絶対に許容できない。私たちはアメリカ国民であり、二等市民のような立場に追いやられることは断じてあってはならないことです。とても耐えられません。
女性の身の安全と個性の尊重を願うフィリス・ナジー監督
──この力作に関わったすばらしいキャスト陣についてお話しください。
あらゆる年代の情熱的な女性たちが、本作に魅了されて参加を望みました。エリザベス・バンクスはすばらしい俳優です。共演できて、とても幸せでした。ウンミ・モサクとは初対面でしたが、素敵な人。その他にエヴァンジェリンとレベッカにアイダ、何て言ったらいいか…、みんなでジェーンになった気分です。ずっとこの作品に関わっていたいと思ってしまうのは、フィリスの集めた精鋭チームのおかげです。
──フィリス監督についてどう思いますか。
最高のキャスト陣を集めてくれた。本当にそう思っています。フィリスはとても真摯に女性たちの思いを描き出し、全てをきちんとコントロールできているように感じました。撮影の詳細は知らないけれど、彼女は監督として適任でした。仕事への愛が感じられます。愛というより…、女性の身の安全と個性の尊重を願う、激しいまでに強い献身の心と言えるかもしれません。キャストもクルーもフィリスの元で団結し、最大限のエネルギーをチャージして献身的なひたむきさで、この語られるべき物語を紡ぎました。
──これからご覧になる方にどんなことを望みますか。
私がこの作品を見てジェーンの存在を知って感じたように、みなさんにも多くのことを学んでほしいと思います。反戦運動が描かれていますが、女性たち自身は声を上げられなかった。それがいかに性差別的だったか。私たちも話題にしていますが、女性運動はそうして始まったのです。ジェーンがよりパワーを得たのはそれが理由です。
女性の個人的な人権が守られないという残酷な時代に戻ろうと州当局が画策しています。状況が逆行しつつある現在の事態に気づいたら、観客は愕然とするでしょう。この作品が大きな前進をもたらした「ロー対ウェイド判決」の意義を見つめ直す契機になることを願います。
大切なのは女性自身の権利として、自分の体に対する決定権があるべきです。救われるべき赤ちゃんを守る対策が全くとられていないという事実も忘れてはいけません。生まれてもいない赤ちゃんに重点を置くわりには、出生後に住む場所や食べる物が保障されていない。この問題に無頓着で、いざ生まれたら興味が失せる。実に偽善的です。
中絶は女性にとってとても難しい決断です。簡単に決められないし、それぞれ事情もある。でも切羽詰まっていて、話を聞いてほしいと思っているはず。
この作品は女性たちが“姉妹”の声に耳を傾け、とても難しい決断をし、処置を受けることを全力で支える姿を描いています。
<PROFILE>
シガニー・ウィーヴァー
1949年、ニューヨーク出身。高校・大学で演技を学び、舞台俳優としてキャリアをスタートさせる。映画デビューは『アニー・ホール』(77/ウディ・アレン監督)の小さな役だった。その後、1979年に自身の代表作となる『エイリアン』(リドリー・スコット監督)に出演。シリーズ4作をとおして主人公エレン・リプリーを演じた。『エイリアン2』(86)ではアカデミー賞とゴールデングローブ賞の主演女優賞にノミネートされる。1988年には『愛は霧のかなたに』と『ワーキング・ガール」でゴールデングローブ賞の主演・助演女優賞をダブル受賞。ほか主な出演作は、『ゴーストバスターズ』シリーズ(84/89)、『アバター』(09/ジェームズ・キャメロン監督)、『エクソダス 神と王』(14/リドリー・スコット監督)、『チャッピー』(15/ニール・ブロムカンプ監督)、『怪物はささやく』(16)、『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』(20)など。
『コール・ジェーン -女性たちの秘密の電話-』全国公開中
<STORY>
中絶が法律的に許されていない時代のシカゴで、2人目の子供を妊娠した主人公のジョイ。しかし、妊娠によって心臓の病気が発覚する。担当医から緊急に中絶を勧められるが、病院の男性責任者たちからは、あっさりと中絶を拒否されてしまうのだった。
なぜ本人の意志で中絶は決められないのか?なぜ命の危険が分かっていながらも本人の身体を優先できないのか?ジョイは正規ルートではない方法で中絶を試みる。たどり着いたのは、違法だが安全な中絶手術を提供する女性主導の活動団体「ジェーン」だった。「ジェーン」を率いるのは、威厳あるフェミニストのバージニア。彼女に誘われて、ジョイも「ジェーン」に深く関わるようになる──。
<STAFF&CAST>
監督・脚本:フィリス・ナジー
プロデューサー:ロビー・ブレナー
出演:エリザベス・バンクス、シガニー・ウィーヴァー
2022年/ アメリカ /原題:Call Jane
配給:プレシディオ
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公式サイト:https://www.call-jane.jp