クリストファー・ノーラン監督の作品らしく、時代が行き来し、登場人物も多く、濃密な三時間の物語が展開する『オッペンハイマー』。映画への理解をより深めるため、人物の背景や制作秘話を紹介。またオッペンハイマーの人生を時系列で追っていきます。

ポイント2:制作秘話

画像: ポイント2:制作秘話

ノーラン監督はなぜ『オッペンハイマー』を撮ったのか

画像: 前作『TENET』の撮影が本作の構想の出発点となった

前作『TENET』の撮影が本作の構想の出発点となった

前作『TENET テネット』の台詞の中にすでにオッペンハイマーという言葉を登場させていたノーラン監督。本作制作のきっかけの一つは、その撮影終了時に出演者のロバート・パティンソンからオッペンハイマーのスピーチ集の本を送られたことだった。さらに「アメリカン・プロメテウス」(本作の原作伝記の原題)を読むよう勧められたノーランは、この人物を映画にすることに魅せられたという。

「私がしたかったのは、歴史の大転換期の絶対的中心にいた人物の、魂と経験の中に観客を導くことだ。好むと好まざるとにかかわらず、オッペンハイマーは未だかつてない最重要人物だ。彼は良くも悪くも私たちが生きる今のこの世界を作り出した。彼の物語を信じるには、それを目にするしかない」。

ノーラン作品常連のキリアンがついに初主演

画像: ノーラン作品初主演となったキリアン・マーフィー

ノーラン作品初主演となったキリアン・マーフィー

キリアン・マーフィーはこれまでクリストファー・ノーラン監督作品に5回出演しているが主演を務めるのは今回が初めて。当初から彼の才能にほれ込んでいたというノーラン監督は「キリアンと一緒に出来ることはないかずっと探していたんだ。だから電話を取って彼に『君が主役になる時が来たんだ』と言えたときは嬉しかった」と当時を振り返る。

「ノーランの頼みならそれがどんな小さな役でも駆けつける」と監督に心酔しているキリアンも、「監督が僕に電話をくれて、オッペンハイマーを演じてくれと頼んでくるなんて予想もしませんでした。電話を切ったときは、喜びというよりむしろ茫然として座っているだけでした。自分は幸運だと感じました」と回顧している。

ロスアラモスに現存するオッペンハイマー邸も登場

画像: マンハッタン計画の拠点となるロスアラモスを再現

マンハッタン計画の拠点となるロスアラモスを再現

本作の撮影における最大のポイントとなったのはマンハッタン計画の拠点となるロスアラモスでのロケ。当初は実際のロスアラモスで撮影することも検討されたが、現在ではスターバックスなどを含むモダンな建物が並び、当時の面影はほぼなく、デジタル技術で現在の建築物を消すのは困難を極めた。

そこで撮影チームはニューメキシコ北部のゴースト・ランチにロスアラモスの外観を作り、内観を実際のロスアラモスで撮影することに。オッペンハイマーと妻キティが家族を育てたオッペンハイマー邸はロスアラモスに現存しており、その実際の建物が映画の撮影にも使用されている。この建物は一般公開されていないが、家の外を見学することができるという。

ポイント3:オッペンハイマーの歩み

画像: 実際のロバート・オッペンハイマー ©Bettmann

実際のロバート・オッペンハイマー

©Bettmann

1904年4月22日

ドイツからのユダヤ系移民の子としてニューヨークで誕生。

1925年|21歳

ハーバード大学を3年で卒業、イギリスのケンブリッジ大学に留学。師と仰ぐ理論物理学者のニールス・ボーアと出会う。

1936年|32歳

カリフォルニア州立大学バークレー校で准教授から教授に昇進。この頃、共産主義者のジーン・タトロックと出会い、交際に至る。

1939年8月|35歳

キティ(キャサリン)と出会い、この翌年に結婚。

1939年9月|35歳

第二次世界大戦が勃発。

1942年|38歳

核兵器開発プロジェクト「マンハッタン計画」が始動。オッペンハイマーはロスアラモス国立研究所の初代所長に任命され、開発チームのリーダーを務める。

1945年7月16日|41歳

アメリカで人類史上初の核実験「トリニティ実験」が行われる。

1945年8月6日|41歳

広島に原子爆弾(通称リトルボーイ)が投下される。

1945年8月9日|41歳

長崎に原子爆弾(通称ファットマン)が投下される。この惨状を目の当たりにしたオッペンハイマーは激しい後悔と自責の念に駆られ、核兵器の開発に懐疑的な姿勢を示すように。

1947年夏|43歳

プリンストン高等研究所の3代目所長となる。その後、原子力委員会(AEC)のアドバイザーとして、核兵器の国際的な管理を呼びかけ、水爆をはじめとする核開発に反対の意を示す。

1954年|50歳

ソ連のスパイ容疑をかけられ、オッペンハイマー公聴会が開かれる。オッペンハイマーに「共産主義者」のレッテル貼りが進み、危険人物として晩年まで厳しい監視下に置かれる。

1961年|57歳

ジョン・F・ケネディが大統領に就任。オッペンハイマー支持者たちがケネディの側近となり、オッペンハイマーの公的名誉を回復させようとする動きが出始める。

1965年|61歳

喉頭癌が見つかる。

1967年2月18日|62歳

ニュージャージー州プリンストンの自宅にて死去。

2022年12月16日

米エネルギー省のグランホルム長官が、オッペンハイマーを公職から追放した54年の処分は「偏見に基づく不公正な手続きだった」として取り消したと発表。オッペンハイマーにスパイ容疑の罪を着せて責任逃れをしたことを公的に謝罪した。

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『オッペンハイマー』
2024年3月29日(金)公開
アメリカ/2023/3時間/配給:ビターズ・エンド
監督:クリストファー・ノーラン
出演:キリアン・マーフィー、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニーJr.、フローレンス・ピュー

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