ブランドになりつつある斎藤工
──格之進の娘、お絹を清原果耶さんが演じています。清原さんとはどのようにお絹を作っていかれましたか。
脚本を読み込んでもらった上で、衣装合わせをしながら、いろんなことを話しました。お絹は父親のために自分の人生を捧げようとまで思っています。現在ではなかなか理解し難い精神性かもしれませんが、それが美しいと思われている時代があった。そんな強さを持ってほしいと伝えました。
──現場での清原さんはいかがでしたか。
格之進が武士としての覚悟を決めたとき、お絹が娘として必死に説得するという難易度の高いシーンがありました。清原さんはあの若さで凛としていて、自分の生き方をちゃんと持っている。そういうところって、芝居に出るんですよ。清原さんを見ていて、それを実感しました。もちろん、草彅さんが座長として自然体で導いているところもあるでしょう。普通はあの凛とした感じを草彅さんと芝居するときに簡単には出せませんからね。
──オリジナルキャラクターの柴田兵庫は格之進とは因縁がある役どころですが、悪人なのか、正義の人なのか、わからなくなります。演出で意識されたことはありますか。
悪い奴のようですが、主人公に気づきを与える役でもあります。ミステリアスにしたいという思いがあって、それを工くんには伝えました。でも囲碁に負けそうになると斬りかかるという直情型のキャラクターでもあるのですよねぇ(笑)。
嘘か本当かわからないけれど、兵庫が言っていることが本当なら、兵庫は兵庫で人のために生きているようにも感じる。それがこの話のいいところです。これまで自分のことしか考えていない奴らばかり登場する映画を撮り続けてきたので、登場人物みんなが人のために生きるって、悪くないんだなと感じました。
──ミステリアスなところがあるので、斎藤工さんをキャスティングされたのでしょうか。
それはありますね。あと、いい男にお願いしたいと思ったこともあります。斎藤工くんは日本を代表するいい男ですから。年齢を重ねて、色気も加わり、若い頃はたくさんいるイケメンの中の1人だったのが、頭一つも二つも抜け出して、どこか“斎藤工”というブランドになりつつある。どんな役を演じても、斎藤工にしかできない役だと思わせてくれる。そんな思いが最近、特に強くなってきました。
──格之進と碁を打っていたときにニヤッと笑った顔は可愛らしささえ感じます。
最初はもう少し抑制を効かせてやってくれていましたが、囲碁の勝敗状況がちゃんと伝わっているか、不安だったので、「顔芸を気持ち強めにしたい」と話したら、さらっとやってくれました。「さすが、工くん」と思ってしまいますね。
──本作のキャストの方々の俳優としての魅力をどうとらえていらっしゃいますか。
草彅さんは素晴らしすぎて、言うことありません。今度、樋口真嗣監督の『新幹線大爆破』をやることになり、「前作の主演の高倉健さんの気持ちを受け継ぎ、全力で挑みます」とコメントされていました。つまり、草彅さんは次の高倉健になっていくってことなんですよ。この作品はその最中の作品だったわけです。もう、「日本の映画をよろしくお願いします」というしかありません。
清原さんは頭のいい俳優ですから、自分の限界を決めずに、いろんなことにチャレンジして、どんどん大きな俳優になってほしい。きっとこれから大きな勝負になっていくと思うので、また機会があれば一緒に仕事がしたいです。
工くんは監督としても才能溢れる人ですし、日本映画のアンバサダーみたいな存在です。スタンスを変えずに、これからも監督をやったり、俳優をやったりしていくのでしょうね。僕としては斎藤工主演の映画は『麻雀放浪記2020』(2019)以来撮っていないので、また主演で撮りたいと思っています。
國村隼さん、小泉今日子さんと仕事ができたことも本当にうれしく思っています。人生の厚みが演技に出る。それはどんなに役作りしてもできないこと。お二人を見ていて、それがつくづくよくわかりました。