柳田格之進は身に覚えのない罪によって藩を追われ、娘と二人で江戸の貧乏長屋で暮らしている。嗜む囲碁にも実直な人柄が表れ、嘘偽りない勝負を心掛けていた。ある日、格之進は冤罪事件の真相を知り、復讐を決意する。映画『碁盤斬り』は古典落語の演目「柳田格之進」を基に、武士が誇りをかけて復讐に臨む姿を描く。主人公の柳田格之進を演じるのは草彅剛。娘のお絹を清原果耶が演じ、斎藤工、小泉今日子、國村隼が脇を支える。初めて時代劇に挑んだ白石和彌監督に企画のきっかけや草彅剛の役へのアプローチ、作品への思いを語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

京都撮影所で時代劇を撮ることの意味


──五十両紛失事件が起こる前に、源兵衛が五十両を持つ手をアップで映していました。本作は監督のこれまでの作品に比べるとわかりやすい寄りが多かった気がします。

落語だからです。落語は同じ演目をいろんな人が取り上げ、みんなも話の展開を知っている上で聞いていますから、ミステリーにする必要がないと思ったのです。「こうなんだよ」ということをあえて分かりやすく撮り、2回目を見たときに「そうそう、これがね…」と自分の中で楽しめるように仕掛けたいと思ったこともあります。

お金の流れに関しては、ちゃんと見ていれば、“実はあそこに隠していました”というオチがわかります。しかし、そこだけ切り取って「何やねん、それ」と思われるのが怖い。ある程度、思わせぶりに見せていく方が今回はいいかもしれないと考えました。


──物語の最後で格之進は落語とは違う方向性に進んでいきますが、そこにはどんな思いが込められているのでしょうか。

柳田格之進は落語だけでなく、講談もあるのですが、演じる人によって結末が違います。お聴きになったのはその中の1つで、たまたまこの作品とは違うラストだったのでしょう。

僕はバッドエンド好きですから、加藤さんに何度も「ビターにしてくれ」と頼んだのですが、加藤さんとしては「どうしてもビターにしたくない」と。コロナ禍に暗い話を提示したくないという思いが加藤さんの中にあったのだと思います。

今になってみるとそれは大正解でした。この世の中で凛とした生き方をする人たちが希望を感じながら生きていける。ラストの在り方は僕というよりも加藤さんの考えですね。

とはいえ、少しだけ抵抗して、ラストのラストで空を少し鈍よりさせました。人生、そう簡単にうまくいかない。これからも谷あり山ありの人生になるだろうから、空は少し鈍よりしていてもいいかなと思ったのです。それでも格之進は大きな意志を持って進んでいくというのを表現できたのかなと思っています。

画像1: 京都撮影所で時代劇を撮ることの意味


──念願の時代劇を撮ってみていかがでしたか。

昔の人たちはどうやって生活していたのか。スマホも電気もないから、今と比べると不便な気がしますが、調べてみると生活していく上で必要なものはほとんどある。しかも精巧に作られていました。そういうことを知るのは楽しいし、それを再現するのも楽しい。そういったことをいろいろと積み上げていくのですが、結局、誰も本当の江戸時代の生活を見たことがありません。“これは作品だからデフォルメして嘘ついちゃいましょう”ということができるところが楽しいですね。

この作品は京都撮影所で撮りました。東京の撮影所は地面がコンクリートですが、京都は土のまま。「音の跳ね返りがリアルで、東京で録るのとは違う」と録音技師の方が喜んでいました。僕が聴いても、そこまでの違いは判りませんでしたけれどね(笑)。

エキストラの方に入っていただくシーンでは京都撮影所の俳優の方々も参加してくださり、「こういう風に撮りたい」と伝えると、すぐにこちらの意図を理解してくれました。例えば、冒頭でお絹の後姿をカメラが追いますが、途中で、カメラの直前を通行人が横切ります。ギリギリのタイミングなので、ボランティアエキストラの方だと躊躇してしまってできません。京都撮影所で時代劇を撮る最大の利点はこういったことができる俳優が大勢いることですね。さすがに1度では撮れませんでしたが、「もっと攻めてくれ」と何度もやってもらって、本編のシーンになりました。

囲碁の話ということで、四方木口の碁盤が出てきます。四方木口は四方の側面が木口となる木取りによる盤のこと。通常よりもすごく贅沢に木を使いますが、今はそれができるような大きい木がないので、もう作れません。日本棋院にあった江戸時代の碁盤と碁石を借りて撮りました。その辺りにもかなり拘りましたから、囲碁好きの方にも楽しんでいただけるのではないかと思います。

<PROFILE>
白石和彌
1974年生まれ、北海道出身。1995年、中村幻児監督主催の映画塾に参加した後、若松孝二監督に師事。助監督時代を経て、ノンフィクションベストセラー小説を実写化した『凶悪』(2013)で第37回日本アカデミー賞優秀作品賞・監督賞ほか各映画賞を総なめした。近年の主な監督作に『日本で一番悪い奴ら』(2016)、『牝猫たち』(2017)、Netflixドラマ『火花』(2016)、ブルーリボン賞監督賞など数々の賞を受賞した『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)、『サニー/32』(2018)、『孤狼の血』(2018)、『凪待ち』(2019)、『ひとよ』(2019)、『孤狼の血 LEVEL2』(2021)、『死刑にいたる病』(2022)、さらに2022年にAmazon Prime Videoにて全10話一挙世界配信された話題作「仮面ライダーBLACK SUN」などがある。

画像2: 京都撮影所で時代劇を撮ることの意味

『碁盤斬り』5月17日(金)全国公開

<STORY>
浪人・柳田格之進は身に覚えのない罪をきせられた上に妻も喪い、故郷の彦根藩を追われ、娘のお絹とふたり、江戸の貧乏長屋で暮らしている。しかし、かねてから嗜む囲碁にもその実直な人柄が表れ、嘘偽りない勝負を心掛けている。ある日、旧知の藩士により、悲劇の冤罪事件の真相を知らされた格之進とお絹は、復讐を決意する。お絹は仇討ち決行のために、自らが犠牲になる道を選び……。父と娘の、誇りをかけた闘いが始まる!

<STAFF&CAST>
出演:草彅剛、清原果耶、中川大志、奥野瑛太、音尾琢真 / 市村正親、斎藤工、小泉今日子 / 國村隼
監督:白石和彌
脚本:加藤正人
音楽:阿部海太郎
配給:キノフィルムズ
©2024「碁盤斬り」製作委員会

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