夏休みに特別補習としてプール掃除をする女子高生たちが何気ない会話を交わすうちに抱えている葛藤が現れてくる。『水深ゼロメートルから』は第44回四国地区高等学校演劇研究大会で文部科学大臣賞(最優秀賞)を受賞した徳島市立高等学校の同名舞台劇の映画化である。『リンダ リンダ リンダ』(2005)で女子高生が奮闘する姿を描いた山下敦弘監督が高校演劇リブート企画2弾としてメガホンを取った。山下監督に作品に対する思いを語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

あまり力まず、いい意味で力が抜けて撮れた

──本作は『アルプススタンドのはしの方』(2020)に続く高校演劇リブート企画2弾で、2019年に開催された第44回四国地区高等学校演劇研究大会にて「文部科学大臣賞(最優秀賞)」を受賞した徳島市立高等学校の「水深ゼロメートルから」(原作:中田夢花)を原作としています。2021年に「劇」小劇場で上演もされました。監督をオファーされたとき、どんなことを思いましたか。

“城定さんの次か!”ということを意識しましたね。

城定さんはすごく好きだし、『アルプススタンドのはしの方』を見て、さすがだなと思っていたので、作品の内容もさることながら、まずは城定さんの次を俺がやるというプレッシャーと興味がありました。

──脚本開発は原作者の中田夢花さんとどのようにされましたか。

初めは「高校演劇リブート企画」として舞台版の演出をされた小沢道成さんと進めていました。しかし小沢さんも僕も忙しくなってしまい、途中から当時、大学生になっていた中田さんにお願いしました。

小沢さんと作っていた脚本は僕の感覚ではかなり長くて、2時間半くらいの尺になってしまうものでした。小沢さんとしてはそれが90~120分に収まるという感覚だったようです。きっと小沢さんの舞台の時間軸と僕の映画の時間軸が違ったのでしょう。

もう少し短くした段階で中田さんにバトンタッチしたのですが、僕の映画の感覚でいうとまだまだ長かった。もう少し精度を上げ、密度を濃くするというか、枝葉の部分の残すところは残しつつ、皮をめくって芯だけを残すようなイメージで、とにかく短くしてほしいと伝えた気がします。

──エンドロールを見るまで、この作品はミクが主人公だと思っていました。

実は俺も脚本を読んだときに“ミクの話だ”と思いました。でも中田さんと話をしていたら、“ココロの話”だと。そうだったんだ!と思いつつ、でも、結果として誰が主人公というわけではありません。

映画はミクが1人で踊りの練習をしているところから始まるので、ミクで終わってもいいのかなと思いました。もちろん、ココロはすごく中心的なキャラクターではありますが、結果、ミクで終わっても誰が主人公というわけではない。最後に一歩踏み出すミクが力強かったので、それで終わることとしました。

画像: あまり力まず、いい意味で力が抜けて撮れた

──ミクだけでなく、ほかのみんなもこの補習をきっかけに一歩を踏み出していったのでしょうか。

僕が2005年に撮った『リンダ リンダ リンダ』は高校三年生で最後の文化祭というちょっと特別な時間。この作品はまだ高校二年生。彼女たちは特別な一日と思っていないだろうし、普段つるまないメンバーが集められた偶然な一日。中途半端ですが、むしろ、それが俺にはいいなと思えました。彼女たちにとって特別だったとか、すごく成長したとか、そういうことはあんまり考えていません。僕はそういう映画は好きでないというか、描けないので…。

最後に雨を降らしたことで、ミクが力強くなってしまいました。現場で「こんなにも熱い映画だったっけ?」と感じ、もっとさらっと終わってもよかったのかなと思ったりもしました。正直に言うと彼女たちを美化したくないし、それ以上でなければ、それ以下でもないような一日にしたいと思ってやっていました。ただ雨ってカタルシス効果があるし、ドラマチックになる。ラストだからそのくらいやってもいいかなと思ってやりました。

そういったところでいうと、最初にプレッシャーとか言っていましたが、今回はあまり力まず、余計なことはしていません。いい意味で力が抜けて撮れた気がします。

──強いメッセージがある作品というわけではないのですね。

彼女たちがちゃんとそこに存在していればいい。そのくらいの気持ちで撮っていましたから、メッセージは考えていません。もちろん彼女たちそれぞれに言い分はあるのでしょうけれど、それを映画として、観客へのメッセージとして伝えたいとは1㎜も思っていません。彼女たちがキャラクターとして、そこにちゃんと存在すればいい。演じる彼女たちが無理なくというか、ちゃんと演じられればいいくらいしか思っていませんでした。

This article is a sponsored article by
''.