誰もが好感を持ってしまうくらい魅力的で素敵なメルテム・カプタン


──ムラートさんの母であるラビエさんをメルテム・カプタンさんが演じています。本作がドイツ映画デビュー作で初主演作品とのことですが、彼女の役へのアプローチや現場での様子について、印象に残っていることがあったら教えてください。

ラビエを演じる役者さんを探すためにカメリハやオーディションをしました。ムラートの母親くらいの年齢で、当然、演技力も必要。しかもドイツ語とトルコ語の両方を話せなくてはいけない。絶対条件が厳しいうえにコロナ禍で大変でした。

それでも何人もの方がカメリハやオーディションに来てくださったのですが、ある時、メルテムがケルンからベルリンまで来てくれました。メルテムはコメディアンで、テレビのバラエティー番組によく出ていますが、役者としての教育も受けています。カメリハを3回くらいやりましたが、力強くて、バイタリティがある。何より人柄がいい。本当に魅力的で素敵な方で、どんどん彼女に魅了されていきました。多分、誰もが好感を持ってしまう人だと思います。

しかも非常に熱心に役作りに取り組んでくれ、ラビエやベルンハルトに何度も会いに行って話を聞き、ラビエの物語を自分の中に取り込んでいってくれました。

ラビエはドイツ語もトルコ語も話すときに特徴があるのですが、そういった言葉が帯びている色彩も自分のものにしてしまっていました。私たちは本物のラビエを知っているからこそ、彼女が演じたラビエを見ると素晴らしいと思ってしまいます。

画像: 誰もが好感を持ってしまうくらい魅力的で素敵なメルテム・カプタン


──弁護士のベルンハルト・ドッケさんをアレクサンダー・シェアーさんが演じています。エンドロールに映っていたベルンハルトさんご本人にそっくりで驚きました。彼についても教えてください。

アレクサンダーは前作『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』(2018)でも主人公のゲアハルト・グンダーマンを務めてくれたので、彼が成りきりタイプの役者であることは知っていました。実際のアレクサンダーはベルンハルトと全然キャラが違うのですが、背が高くてスリムな背格好は似ていました。自腹でブレーメンに行って何日もベルンハルトと過ごし、彼について本当によく研究して、がっつり寄せてきました。

その結果、私たちが戸惑ってしまうくらいベルンハルトに成りきって演じてくれました。撮影現場にベルンハルトが来てくれたことがありましたが、衣装を着たアレクサンダーと並ぶと、どちらが本物かわからないくらい似ていたのです。

メルテムと同じようにアレクサンダーもコメディアンなので、キャラクターの違う2人がやり合う場面や空気感は見ていて本当に楽しかったです。ラビエとベルンハルトは少しずつ近づいていき、やがて大きな力を生み出し、最終的には目標を達成するわけですが、その流れが魅力的でした。ラビエとベルンハルトは映画のままです。ドイツで公開されたとき、2人はトークイベントに登壇してくれたのですが、映画がまだ続いているのではないかと思うくらい、あの雰囲気のやり取りをずっとしていました。


──本作が公開されたことで、ドイツにおいてムラートの社会的な立場に変化がありましたか。

この映画はベルリン国際映画祭でプレミアを迎えて、大々的に取り上げていただきました。その後、メディアも当時のことを振り返り、ドイツ政府を批判的に捉えた映画評がかなり広範に見られました。

ただ、残念ながら政治家の心には届かず、いまだに政治家でムラートやラビエたち家族に謝罪をした人はいませんし、補償するという話も全くありません。しかし、この作品を見て、この家族が辿った運命に対して思いを寄せ、政治家に宛てて手紙で怒りを訴えるという行動を取った人はたくさんいました。

<PROFILE>
アンドレアス・ドレーゼン
1963年、東ドイツのテューリンゲン州ゲーラ生まれ。演劇一家の出身で、高校生だった1979年から自主映画を撮り始める。1984から、シュヴェリーン劇場で音響技師として働いた後、東ドイツの公式映画製作機関DEFA(デーファ)の劇映画スタジオの研修を経て、ギュンター・ライシュ監督の助監督を務める。1986年から91年まで、ポツダム=バーベルスベルクの名門コンラート・ヴォルフ映画TV大学で演出を学び、1992年よりフリーランスの作家、監督として活動。
1992年に『SILENT COUNTRY』で長編劇映画の監督デビュー。2002年に『GRILL POINT』でベルリン国際映画祭銀熊賞など数々の賞を受賞。2008年に『CLOUD 9』で第61回カンヌ国際映画祭ある視点部門の審査員特別賞などを受賞。2011年には『STOPPED ON TRACK』で第64回カンヌ国際映画祭ある視点部門グランプリを受賞。2015年には『AS WE WERE DREAMING』を映画化。
2018年には東ドイツに実在したシンガー・ソングライターのゲアハルト・グンダーマンを描いた『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』が大ヒットを記録。ドイツ映画賞で最優秀作品賞(金賞)、最優秀監督賞、最優秀脚本賞を含む6部門を受賞した。
最新作は、ナチス・ドイツに抗った実在の女性ヒルデ・コッピを描いた『From Hilde, With Love』。

『ミセス・クルナス vs. ジョージ・W・ブッシュ』5月3日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

画像: 映画『ミセス・クルナス vs. ジョージ・W・ブッシュ』予告編 youtu.be

映画『ミセス・クルナス vs. ジョージ・W・ブッシュ』予告編

youtu.be

<STORY>
2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロのひと月後。ドイツのブレーメンに暮らすトルコ移民のクルナス一家の長男ムラートが、旅先のパキスタンで“タリバン”の嫌疑をかけられ、キューバのグアンタナモ湾にある米軍基地の収容所に収監されてしまう。母ラビエは息子を救うため奔走するが、警察も行政も動いてくれない。藁にもすがる思いで、電話帳で見つけた人権派弁護士ベルンハルトの元を訪れたラビエは、アドバイスを受けアメリカ合衆国最高裁判所でブッシュ大統領を相手に訴訟を起こすことになる……。

<STAFF&CAST>
監督:アンドレアス・ドレーゼン
脚本:ライラ・シュティーラー
撮影監督:アンドレアス・フーファー
出演:メルテム・カプタン、アレクサンダー・シェアー、チャーリー・ヒュブナー
配給:ザジフィルムズ 
© 2022 Pandora Film Produktion GmbH, Iskremas Filmproduktion GmbH, Cinéma Defacto, Norddeutscher Rundfunk, Arte France Cinéma

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