原作の空気感を大切にしたい
──本作のようにカラッとした明るさのある恋愛作品は監督の作品では珍しい気がします。監督オファーを受けたとき、ご自身のどんな部分がこの作品に活かせると思いましたか。
今までの作品は浮気や不倫などを扱ったものが多く、一見この作品とは反対に見えるかもしれません。でも、それらの登場人物たちも、器用でずる賢く生きているというよりも、正直に目の前の状況と向き合い、悩んでいる人たちのお話でした。今作も、好きな相手に堂々と好きと言える、みたいな人たちの話ではない。恋愛に対して真面目で、考えすぎてしまう辺りは、これまでの作品と共通するな、と思いました。
高木さんが西片を好きということは明白だけど、西片は自分が高木さんのことを好きなのかどうかはっきりとは分かっていない。高木さんは、自分の正直な想いを伝えたら今の関係性が壊れて、変に気まずくなったりするんじゃないかと考えている。そういう些細な悩みや葛藤にはずっと興味がありましたし、今までの作品との差はそこまで感じませんでした。
──10年が経過し、大人になった2人が再会するところから物語は始まります。
“どこを描くか”については脚本家チームやプロデューサー、みんなで話し合いました。原作は本当にピュアな中学生2人の物語で、映画でもその空気感を大切にしたいというのはもう絶対条件。そのうえで原作の関係のまま大人になった2人を描くのはどうかという話になりました。原作からあまり時間が経過していない高校時代ではなく、10年経過させることで純粋さがより際立ち、変わらない部分がある良さが見えてくる。その辺りを意識して、時間を設定しました。
そんな2人の周りには、結婚する同級生カップル、付き合っては別れてを繰り返している同級生カップル、告白したことをきっかけに少しだけ気まずい関係になっている教え子の中学生などを配置しました。恋愛においては、それらの登場人物たちは全員、告白すらしていない高木さんと西片の少し先を行く<先輩たち>になる。2人が様々な関係性のカップルから影響を受けて、自分たちの気持ちに向き合っていく流れになれば、と考えました。
また、原作には「からかい上手の(元)高木さん」というスピンオフ漫画が存在していて、そこにある設定はできるだけ生かしたいと思い、10年経ってはいるものの、その間、高木さんも西片も他に好きな人ができたり、他の人と付き合っていた経験などは一切ないことにしました。
24~25歳だとそれはけっこうなファンタジーだと捉える人もいるかもしれません。しかし、そこだけは遵守することで、逆に独自性というか、作品のオリジナリティが生まれて、なおかつ、ピュアさが保てた気がします。第三者を登場させて、その人を好きになって、で、一方が嫉妬して、みたいなことをすると物語は作りやすいのですが、ありきたりなものになるかもな、と。それはわざわざ、この原作の実写化でしなくていいことだと思いました。原作ファンの方々にも楽しんでもらえるよう、出版社の方も交えて丁寧に作っていきました。
──原作者の山本崇一朗さんの地元、香川県小豆島で撮影されました。
原作では舞台がどこか、具体的に描かれていませんが、アニメのときに小豆島が出てきて、実際に先生の故郷ということもあり、今回は小豆島で撮影をしました。
もし、都会で撮っていたら、大人であのピュアさでいるのがもっと嘘っぽくなってしまった気もします。小豆島の景色や空気に助けられながら撮影を進められて、本当に良かったです。