現代アメリカの文学界でも重要な作家のひとりに数えられ、ハリウッドとの長い関係でも知られるスティーヴン・キング。 そのキングが作家デビューしてから今年で50年となりました。これまで彼の小説は他の作家に比較しても 群を抜いた数で映像化されていることは多くのファンにも知られていますが、その中には映画史に残るような名作も含まれています。稀代の大作家の道のりを振り返ると共に必見作をピックアップしましょう。(文・米崎明宏/デジタル編集・スクリーン編集部)
カバー画像:Photo by François Sechet/Leemage/Corbis via Getty Images

キングとハリウッド映画界の親和性

画像: Photo by François Sechet/Leemage/Corbis via Getty Images

Photo by François Sechet/Leemage/Corbis via Getty Images

モダンホラーの開拓者と呼ばれ、デビュー以来その第一線をトップランナーとして走り続けるアメリカの作家、スティーヴン・キング。これまでの書籍の世界での売り上げは4億冊以上とも言われている。その歴史は今年でちょうど半世紀となった。処女作品となったのは1974年出版の「キャリー」。念動能力を持つ少女キャリーが、学校でのいじめや母親からの虐待によって精神的に不安定になり、パワーを発揮。その力で街中を破滅に導くというストーリーは、2年後ハリウッドで映画化される。当時のオカルト・ブームに乗って大ヒットした『キャリー』は、気鋭のブライアン・デ・パルマ監督によるスタイリッシュな演出と、シシー・スペイセク、ジョン・トラヴォルタ、エイミー・アーヴィング、ナンシー・アレン、ウィリアム・カットといったフレッシュスターたちの熱演で新たなホラー・クラシックとなり、キャリーを演じたシシーと狂信的な母親に扮したパイパー・ローリーがアカデミー賞候補になる大成功を収めた。キング自身も本作の出来栄え気に入っていって、彼の小説は次々映像化されていくようになる。

ここでキングの作風に触れておくと、「キャリー」でもそうなのだが、おもに米国の地方都市(架空のものから実在の街まで)を舞台に展開する物語が多く、超常現象や怪奇譚を扱ったホラー系作品がメイン。物語の中に具体的な固有名詞が数多く登場してリアルな日常性を醸しながら、容赦のない恐怖を描いていく。時には人間の良い面に触れ、感動的なドラマも創作するが、救いのないエンディングに向かう壮大な作品が大半というイメージも。クオリティーは高いのに多作家で大長編も多い。

そんなキング作品の名をますます世に広めたのはスタンリー・キューブリック監督によるホラーの名作『シャイニング』。雪に閉ざされたオフシーズンの大ホテルを舞台に呪縛霊に取りつかれるアルコール中毒の作家志望の男、超能力を持つ幼い子供を中心に恐るべき事態が加速していく。キング自身はこの作品を評価していないが、ホラー映画史的には重要な一作となり、キングの“モダンホラーの帝王”という名声も高まった。

80年代はこの『シャイニング』を皮切りに『デッドゾーン』『クジョー』『クリスティーン』『チルドレン・オブ・ザ・コーン』『炎の少女チャーリー』などが次々映画化され、キング・ブランドが確立した。これらはホラーだが、86年に公開されたロブ・ライナー監督による『スタンド・バイ・ミー』は少年たちのひと夏の冒険を描く感動作で、それまでのキング作品のイメージを一新した。90年代に映画化された『ショーシャンクの空に』や『グリーンマイル』はそうしたキングの別の一面を象徴する人間ドラマで、キングは単なる流行のホラー作家ではなく、現代アメリカ文学を代表する小説家の一人と目されるように。世界幻想文学大賞や、ヒューゴー賞、ブラム・ストーカー賞などの他に、96年には優れた短編小説に対して贈られるO・ヘンリー賞を受賞していることでもキングの非凡な才能がわかるというもの。ほかに90年代には『ミザリー』(キャシー・ベイツがアカデミー主演女優賞受賞)はじめ、『ニードフル・シングス』『黙秘』『ゴールデンボーイ』など多数が映画化されているが、秀作は少なくなっている。

それでも21世紀に入ってもキングとハリウッドの濃厚な関係は続いていく。00年代には『ドリームキャッチャー』『シークレット ウインドウ』『ミスト』などが毎年のように作られている。これはキングの生み出す世界観が一貫してエンタテインメント性があり、映像化することに適している表れだろう。10年代以降は『キャリー』「IT/イット」シリーズ(90年代にTVドラマ化)『ペット・セメタリー』『炎の少女チャーリー』などリメイク作品が目立ってくるが、この後も『クリスティーン』『バトルランナー』などの再映画化が予定されている。このように時代が変わっても、キング小説の内包する普遍的な魅力は次世代の映画界に重宝されていきそうだ。

スティーヴン・キング プロフィール

1947年9月21日アメリカのメイン州ポートランド生れ。2歳の時に父親が突然失踪し、母親一人の手で育てられた。メイン大学時代は教員の資格を目指しながら雑誌に小説を投稿。70年に卒業し、翌年妻タビサと結婚。なかなか教師の働き口が見つからず最初はアルバイトをしながら執筆活動をしていたが、地元高校の教師に。74年に「キャリー」が大手から出版され、76年には映画化され大ヒット。一躍注目の新人作家となる。続いて「シャイニング」「デッドゾーン」などの話題作を次々発表してベストセラー作家に。これらも映画化されヒットを記録。自らの映像化作品にカメオ出演したり(『ペット・セメタリー』ほか)、時には監督したり(『地獄のデビルトラック』)、製作を担当することも(「スティーヴン・キングのキングダム・ホスピタル」)。またリチャード・バックマンという別名義で『バトルランナー』『痩せゆく男』などを発表している。

This article is a sponsored article by
''.