【OSCAR 2025 CUTTING－EDGE】大混戦！ 第97回アカデミー賞のゆくえを探る

例年になく絶対的な本命が存在しないままレース終盤戦に突入

昨年の『オッペンハイマー』のような絶対的本命が存在しないまま、いよいよレース終盤となって来た本年度のアカデミー賞。ロサンゼルス大火事のため、ノミネーション発表が1月23日まで再度延期となっているが、前哨戦といわれるゴールデングローブ賞が発表となった現時点での最新状況を探ってみよう。

今回予想がとても難しい状況になっている作品賞部門。ゴールデングローブ賞で株を上げたと言われているのが、まず作品賞（コメディ／ミュージカル部門）『エミリア・ペレス』だ。カンヌで審査員特別賞と女優賞をW受賞して以来、賞レースでも注目を集めて来た本作は、メキシコの麻薬王が女性となって全く新しい人生を始めるところからスタートする予測不能の物語。この筋書きを用意した弁護士リタと、過去を葬ってエミリア・ぺレスという女性となり新たな生き方を求める元麻薬王の数奇な運命がミュージカル演出も挟んで描かれるフランスの名匠ジャック・オーディアール監督作。国際長編映画賞部門でも最有力と噂されている本作が両部門で受賞すれば史上初のサプライズになる。

またゴールデングローブでドラマ部門作品賞を受賞した『ブルータリスト』も他作品を一歩リードした形に。第二次大戦下のホロコーストを生き延び、自由の地アメリカに渡ったハンガリー系ユダヤ人建築家の半生を3時間半に渡って描き出す力作で、俳優出身のブラディ・コーベットが本作でGG監督賞も受賞している。監督賞受賞が作品賞受賞と重なることが多いことを考えると、このまま賞レースの流れに乗れば、ライバルたちより一つ優位に立っている気もする。

この2作に待ったをかけそうな作品も少なくない。まず大ヒット・エンタテインメント系作品では、現在も全米でヒットを続けているミュージカル『ウィキッド ふたりの魔女』。本作はGG賞でシネマティック・ボックスオフィス・アチーブメント賞（いわば興行成績賞）を受賞。ジョン・M・チュウ監督の意気込みが感じられる演出で、シンシア・エリヴォとアリアナ・グランデの熱演・熱唱が見る者の心をつかむ。もうひとつ『西部戦線異状なし』で注目を浴びたドイツのエドワード・ベルガー監督による『教皇選挙』を推す声もある。GG賞では脚本賞を受賞した本作は、ローマ教皇の逝去によって新たな教皇を選出する「コンクラーベ（教皇選挙）」を舞台に、極上の密室ミステリーが展開する話題作で、結末の付け方など映画通を唸らせる味わいになっている。またGG賞では無冠に終わったが、それまで賞レースのトップを走っていたのがカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞したショーン・ベイカー監督の『ANORA アノーラ』で、本作の人気も侮れない。GG賞は以前と変わって米国内だけでなく国外も含めた映画ジャーナリスト数百人が選ぶ賞になったが、アカデミー賞は1万人もの会員（その多くは米国内で活動する実際の映画業界関係者）が選出するアワードなので、全く違う結果が出ることも考えうるが、『ANORA…』が好きという業界人は意外に多いのだ。ナイトクラブで働くストリッパーとロシアの富豪の息子が結婚したことで巻き起こる騒動を描いたコミカルで予測不能なドラマ。逆転の可能性も大。