作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。(デジタル編集・スクリーン編集部)

〜今月の3人〜

斉藤博昭
映画ライター。2月に一緒に写真撮った95歳のジューン・スキッブさんを4月にZoom取材。6月公開の主演作も最高!

松坂克己
映画ライター・編集。GWはリアル試写をやってないから嫌いだ。その分、読書が進むのはいいことだけど。

渡辺麻紀
映画ライター。「キャシアン・アンドー」の2ndシーズンも大変面白かった。

斉藤博昭 オススメ作品
『サブスタンス』

画像1: 斉藤博昭 オススメ作品 『サブスタンス』

映画的刺激の強烈さとシビアな人生のテーマが究極で合体した大傑作!

評価点:演出5/演技5/脚本5/映像5/音楽5

あらすじ・概要
元人気女優エリザベスは、50歳を迎えてレギュラーのテレビ番組の降板も決定。ある再生医療によって、若くて美しいもう一人の自分を体内から出現させる。その若い自分はスーという名で新番組のスターとなるが……。

俳優のキャリアと、演じた役どころが信じがたいレベルで一致し、奇跡が起こることがある。本作のデミ・ムーアは、そのレアケースを鮮やかに体現することに成功し、彼女の復活を期待した人たちを歓喜させることに……。おぞましいほどの“生まれ変わり”プロセスから、目を疑う終盤の変容まで、「もはや恐れるものは何もなし!」と果敢に攻める姿はもちろんだが、学生時代の知人とのデートで、時間ギリギリまで鏡の中の自分と葛藤するシーンにこそ、過去の栄光に浴した俳優の切実さがシンクロし、ことのほか切ない。

画像2: 斉藤博昭 オススメ作品 『サブスタンス』

そんなデミを中心に観てしまう本作だが、マーガレット・クアリーのほぼ人工物のような名演も映画賞でもっと評価されるべきだったし、美しさと不快さがハイブリッドで融合されたビジュアル設計、いい意味で耳障りな音楽の使い方など映画アートとしてハイクオリティ。クローネンバーグや、『シャイニング』、『キャリー』など監督の愛のあるオマージュを発見しながら観るのも楽しい。映画的刺激の強烈さと、シビアな人生のテーマが究極で合体した、怪作にして大傑作。

公開中、ギャガ配給
© 2024 UNVERSAL STUDIOS

松坂克己 オススメ作品
『政党大会 陰謀のタイムループ』

タイムループ物に新機軸を取り入れたインド発のSFポリティカル・アクション

画像1: 松坂克己 オススメ作品 『政党大会 陰謀のタイムループ』

評価点:演出4/演技4/脚本5/映像4/音楽3

あらすじ・概要
友人の結婚式のためインドに帰ってきた青年カーリクは、偶然出会った警察官ダヌシュコディに政党大会で暗殺テロを起こすよう強要される。その現場で射殺されるカーリクだが、気づけばその日の朝に戻っていた……。

タイムループ物には結構な名作がある。日本のライトノベルを原作にしたトム・クルーズ主演の『オール・ユー・ニード・イズ・キル』や誕生日に殺され続けるビッチなティーンが主人公の『ハッピー・デス・デイ』、最近の作品では以前このコーナーで取り上げた『パーム・スプリングス』、殺される度に強くなる男のSFアクション『コンティニュー』など。そういった作品群にまた新たな傑作が加わった。しかも新機軸が加えられて、だ。その新機軸は見てのお楽しみということにしておこう。

画像2: 松坂克己 オススメ作品 『政党大会 陰謀のタイムループ』

主演、監督共に、本国インドでは人気者だが日本には初登場。映画界の層の厚さを感じさせてくれる。長年タミル語映画界のスターだという主演のシランバラサンはかなり濃いめの風貌だが、アクションも踊りもなかなかのもの。ヒロイン役のカリヤーニ・プリヤダルシャンはテルグ語、タミル語、マラヤーラム語とマルチ言語で活躍中とか。インド映画だから、知らないスターだからと敬遠しないで見て欲しいかなりの拾い物のタイムループ・アクションだ。

公開中、SPACEBOX配給
©V House Productions

渡辺麻紀 オススメ作品
『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』

製作も兼ねてヒロインの真実に迫ろうとするケイト・ウィンスレットの女優魂に拍手を

画像1: 渡辺麻紀 オススメ作品 『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』

評価点:演出3/演技5/脚本3/映像4/音楽3

あらすじ・概要
第二次大戦前夜の南仏で出会った英国人アーティストのローランドと結婚したリー。英国版「ヴォーグ」のカメラマンになった彼女は第二次大戦の真実を伝えるべくカメラをもって西部戦線へと赴く。

南仏で仲間たちとバケーションを楽しむモデルであり写真家のリー・ミラーは「本気になれる何かをまだ見つけてない」と遠い目をして言う。本作は、そういう彼女が見つけた本気、ありのままの戦場を伝える報道写真を撮ることに文字通り命を捧げたその生きざまを描いた伝記映画だ。

画像2: 渡辺麻紀 オススメ作品 『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』

興味深いのは、彼女の求める真実が時間の経過と戦況の変化とともに徐々に深くなって行くところ。友人たちとの他愛ない遊び、ロンドンで出会った女性軍人、前線に赴いてからは負傷した兵士たち、戦火の真っただ中での戦闘と、どんどん戦争の核心へと近づいて行く。そして、最終的に彼女がそのカメラに収めたのは終戦直後のドイツのありさま。ヒトラーが生んでしまった悲劇と殺戮の数々を、恐怖や吐き気と闘いながら切り取り続ける。ミラーが目撃するその地獄の凄まじさに、改めて驚かされてしまうのはそれが紛れもない真実だからだろう。製作総指揮も担当し、ミラーの真実に迫ろうとする演技をみせるウィンスレットの女優魂にも拍手を送りたくなる。

公開中、カルチュア・パブリッシャーズ配給
© BROUHAHA LEE LIMITED 2023

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