「スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー」
主人公キャシアン・アンドーは、旧三部作第1作『スター・ウォーズ/新たなる希望(エピソード4)』の“ヤヴィンの戦い”の前、後にルークたちが加わる反乱軍の元に、帝国軍の究極兵器デス・スターの設計図を送信した男。彼がその任務を果たした経緯は『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』で描かれた。時間を遡り、彼がなぜその任務を引き受けたのか、彼はどんな人間なのかを描くのが本作。シーズン2は、ヤヴィンの戦いの4年前からスタートし、『ローグ・ワン~』直前までが描かれる。
REASON1 陰謀とスリル絡み合う緊迫のスパイ・サスペンス

キャシアン・アンドー、モン・モスマらが物語の中心に
キャシアン・アンドーが初登場した映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』も、これまでの「スター・ウォーズ」とは違う、現実的で写実的な世界観がユニークな魅力だったが、本作はその方向性がさらに深化。善と悪と戦いを描くのではなく、2つの対立する勢力が水面下で策略を張り巡らせ、陰謀と政治のドラマが繰り広げられて、大人の観客も唸らせてくれる。
この時代は、銀河帝国の独裁的支配下で、あちこちに帝国に抵抗する小規模の反乱組織はあるが、まだ反乱軍としてまとまっていない。帝国内も一枚岩ではなく、保安局上層部は、デス・スターの建造計画を帝国内でも隠しており、元老院議会や地元住民には虚偽の報告をしている。
一方、反乱分子側は、帝国の監視を避けるため、すべてが極秘行動。活動家ルーセンは表向きは骨董商を装い、元老院議員モン・モスマは家族にも活動を隠すが、それでもスパイは身近にいる。ルーセンのように、反乱分子全体のためには、ある程度の犠牲者はやむを得ないと考える人々もいて、反乱組織陣営内にも駆け引きがある。
また、帝国側の情報を探る中で、キャシアンがスパイとしての能力も発揮。職業を偽装して地元民から情報を探ったり、ある場所から重要人物を逃すために芝居をしたりするのも見もの。陰謀劇の中に、スパイ・サスペンスの面白さもたっぷり詰まっている。
REASON2 敵方もじっくり描く濃密な人間ドラマ性

帝国サイドの人間にもスポットが当たる
それぞれの人間たちの人物像が、深く描かれるのも、このシリーズならではの魅力。しかも、反乱軍のメンバーたちだけでなく、帝国側の人々もじっくり描くところが新鮮だ。
シーズン1に続いて、最初は帝国の末端の職員だったシリル・カーンが、組織内の地位をどのように登っていくのかが描かれ、さらに、彼がどんな家庭で育ち、何を求めているのかが掘り下げられていく。また、帝国保安局監査官デドラ・ミーロは、反乱分子の執拗な追跡は止めないが、意外な変貌ぶりも見せていく。
もう一つ、このシリーズの特徴は、キャシアンやルーセン、モン・モスマなどの主要登場人物だけでなく、大多数のドラマなら背景まで描かれないだろう、サブキャラクターたちが丁寧に描写されること。例えば、シーズン1でキャシアンと共に帝国軍からの強盗作戦に参加したヴェルとシンタが再登場し、別の側面を見せる。また、ルーセンの骨董品店の寡黙な販売員クレヤには、ドラマチックな過去があることが分かる。すべての人間たちに奥行きがありドラマがある、濃密な群像劇になっているのだ。
ここにこのドラマの真髄がある。本作は、これまで描かれなかった、反乱軍の名もなき英雄たち、そして、方向こそ違うがやはり懸命に生きた帝国軍の名もなき兵士たちに、名前と顔を与える物語なのだ。
REASON3 「スター・ウォーズ」を知らずとも単体で深く没入できる物語

『ローグ・ワン』に繋がっていく要素も随所に
もう一つ、本作がユニークな点は、これまでの「スター・ウォーズ」を詳しく知っておく必要がないことだ。他のスピンオフ・ドラマは、従来の「スター・ウォーズ」の登場人物や種族、アイテムなどをカメオ的に登場させ、従来のファンを喜ばせるのが定番だが、このシリーズには、その要素がほとんどない。このドラマの面白さは、「スター・ウォーズ」知識の有無に左右されないのだ。
これまでの「スター・ウォーズ」との関連で、知っておきたいことは2つだけ。まず、キャシアンはこれからデス・スターの設計図を反乱軍にもたらすということ。もう一つは、モン・モスマは後に反乱軍のリーダーになるということ。これだけ知っておけば、他の知識は不要。本作には、レイアの育ての親ベイル・オーガナや、『ローグ・ワン〜』の2人、帝国軍のオーソン・クレニック長官と、反乱組織の戦士ソウ・ゲレラも出てくるが、彼らの素性は本作中の説明だけで十分だ。
もちろん本作は、旧三部作でルークが参加した反乱軍が、どのようにして誕生したのかを描くドラマであり、それはたっぷり描かれている。しかし、そうした「スター・ウォーズ」の歴史から独立した、登場人物の人間ドラマとしても楽しめるのが、本作の魅力。本作は、キャシアンとビッグスの愛の物語であり、ルーセンの物語、シリルの物語、デドラの物語にもなっていて、それぞれの物語が深い感動を与えてくれるのだ。