『岸辺露伴は動かない 懺悔室』が公開中だ。原作は荒木飛呂彦の大人気コミック「ジョジョの奇妙な冒険」から生まれたスピンオフ「岸辺露伴は動かない」の原点。短編である原作に映画オリジナルのエピソードを加え、ヴェネツィアで邦画初となるオールロケを敢行し、実写化された。公開を前に、ドラマシリーズや映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(23)に引き続き、メガホンを執った渡辺一貴監督に作品への思いを語ってもらった。(取材:SCREEN編集部、文:ほりきみき)

遂にたどり着いた原点「懺悔室」。物語のハードルはどう超えたか

――どのようにして「懺悔室」の映画化が実現したのでしょうか。

「岸辺露伴は動かない」のファーストエピソードですし、人気もあります。僕自身も大好きでした。ただ、イタリアが舞台ですから、気軽に撮影に行けません。そもそも「懺悔室」での露伴は狂言回し的な立ち位置で、動いていない。露伴を主人公とする作品として成立するのだろうかという不安もあり、実現は難しいだろうというのが当初の見解でした。

2023年に公開された『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』はパリで撮影をしましたが、露伴先生がヨーロッパの空間に立っている様が本当にかっこよく、撮影している我々も楽しくて、手応えもあったんです。その頃から「次はイタリアかな」という話が雑談レベルで出ていました。テレビドラマシリーズが始まってから3年経っていて、我々にも少しずつノウハウができてきていましたから。もしかしたら、映像化は難しいと感じていた「懺悔室」にも手が届くかも?といった空気が自然と醸成されていきました。

渡辺一貴監督と岸辺露伴役の高橋一生

──様々な積み重ねを経て、原点にたどり着いたのですね。いざ映画化するとなって、どんなお気持ちでしたか。

次に映画をやるなら「懺悔室」だという気持ちはありました。しかし、ヴェネツィアロケができるとしても、“露伴が動かないのをどうするのか”、“そもそもポップコーン対決を映像化できるのか”といったことを検証しなくてはいけないんです。毎回なんですが、問題が山積しているというか、超えなくてはいけないハードルが高すぎて、最初は途方に暮れるところから始まります(笑)。

画像: 遂にたどり着いた原点「懺悔室」。物語のハードルはどう超えたか

――短編の物語を膨らませて長編映画にするというのも大きなハードルですよね。オリジナル部分はどのように肉付けされたのでしょうか。

常識的な展開なら物語のクライマックスにポップコーン対決を持ってくると思いますが、原作の構成が完璧なので、あの物語自体を分解して引き延ばすことはできない。突破口は原作の最後にありました。懺悔した男の“この『恨み』は だんな様の娘が「幸せの絶頂」の時 必ず あんたを迎えにきます”というセリフがあって、露伴も“また彼に会いに 取材に来てみるのもいいかもしれない”と興味を持ったまま終わります。ならば、映画の前半では原作のエピソードをしっかりやり、後半は「その後、彼はどうなったのか?」という後日談を広げていこうということになり、脚本家の(小林)靖子さんとオリジナルパートを作っていきました。

─荒木飛呂彦先生から何か要望はありましたか。

「原作を崩さずに描いてください」ということは編集部の方を通していただいていましたが、オリジナルで肉付けした部分について、細かくおっしゃることはありませんでした。そこはこれまでと同じです。

──荒木先生のセリフ回しは独特だと思いますが、脚本家の小林靖子さんにはセリフ周りで何かリクエストはされましたか。

靖子さんはアニメシリーズも手掛けていらっしゃって、荒木先生の世界観を把握されています。なので、こちらから特別なリクエストはしていません。なかでも(泉)京香のキャラクターは靖子さんでなければここまで膨らむことはなかったと思います。原作だと出てくる話も少ないですし。靖子さんは京香が大好きで、“京香ちゃんのセリフだったらいつでも書ける!”という感じで(笑)、その辺りは靖子さんにお任せです。

――そうして魅力的な京香のセリフが生まれていったのですね。映画の話とは少しズレますが、原作ものを手掛けられる際にどんなことを大切にされていますか。本作はコミックが原作で、監督としての前作『ショウタイムセブン』(2025)は韓国映画の翻案でした。

原作者の方に喜んでいただけるようにしたいとは思っています。いろんな方に作品の感想をいただきますが、「撮って良かったな」と一番思う瞬間は、原作者の方や脚本家の方に「面白かった」と言っていただけたときですね。もちろん、原作者の方だけを見て作っているわけではありませんが、原作や脚本を集中して読んで、「なぜ、ここでこういうことを言っているんだろう」と一つひとつの意図はしっかり汲み取ろうと努めています。

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