幼い娘を亡くした夫婦が骨董市で見つけた愛らしい人形に心を癒されるが、その人形にはある秘密が隠されていた…。長澤まさみ主演『ドールハウス』は110 分の間、怒涛の展開を見せるノンストップの“ドールミステリー”。「いつかオリジナル脚本でミステリーを撮りたい」とアイデアを温めてきた矢口史靖監督の念願の作品である。公開を前にSCREEN ONLINEでは矢口監督にインタビューを敢行。作品への熱い思いを語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

少しずつ表情が違う人形のアヤ


──もう1人の主人公ともいえる人形のアヤを『WOOD JOB! 〜神去なあなあ日常〜』でもご一緒された藤原カクセイさんが制作されましたが、どのようにオーダーされたのでしょうか。

オーディションで芽衣ちゃん役に決まった都々花ちゃんに似せて、アヤちゃんを作っていただきました。

人形は1体あれば撮影できますが、子役の子が持ち歩くことができる、軽めで柔らかいアヤちゃんだけでなく、あえてもう1体、アップに耐えうる精巧なアヤちゃんも作っていただきました。そちらは女優さんのような側面があり、日々メイク直しをしていました。ですから少しずつ表情が違います。


──アヤちゃんを撮るときに何か意識されましたか。

とにかくかわいく撮りたい。カメラの位置やアングルを決めるのはアヤちゃんを撮るときにいちばん時間を掛けていました。特に後半はアヤちゃんの顔がどんどん変わっていくので、目がどこを向いているのか、歯がどのくらい見えるのかといったこともかなり細かく調整して撮影しました。

画像1: 少しずつ表情が違う人形のアヤ


──アヤちゃんの撮影にはかなりこだわったのですね。本作とこれまでの作品ではカメラワークにも違いがあるのでしょうか。

撮影をお願いした高木風太さんとは今回が初めてだったので、カメラマンが変わったせいかもしれませんが、いつもと大分違います。

下敷きみたいな素材で鏡になっているものがあるのですが、それを畳一畳くらいの大きさで用意し、その鏡に写った芝居を撮影するシーンがありました。そうすると像が揺れて見えるのです。他にも外で雨が降っているときに雨だれが部屋の中に垂れてくるように見せるなど、今までやったことがない手法をいろいろ試してみました。

お客さんが100人いたら1人か2人が気付くくらいの特殊な撮り方もしています。ぜひ、それがどこなのか、探してみてください。


──映像もさることながら音響効果でゾクゾク感が盛り上げられていたように思います。音の使い方で意識されたことはありましたか。

 

音響効果はベテランの伊藤瑞樹さんでしたが、ファンタジーに見えないようにしてもらいました。特に後半、特殊な装置が登場しますが、それが本当にあったらどんな音がするのかということをベースにして作っていただいています。


──先程、佳恵の精神的状況に応じて衣装に色の変化をつけたとのことでしたが、作品全体の画としても佳恵の状況に合わせて、色味に変化がつけられていたように思います。

佳恵の気持ちがダウンしているところは発色を落としています。しかし立ち直ってくると原色が見える明るい色になってきます。例えば、2人目の娘が5歳になって、幼稚園から帰ってきたところはパキッと明るくて、原色がちゃんと出ています。後半、また人形に翻弄されていくと色味も段々落としていき、一件落着したと観客が思うところでまた原色が復活するというように全体を設計しています。

画像2: 少しずつ表情が違う人形のアヤ


──カラリストはカチョロフスキ・カロルさんですね。

カラリストの方と仕事をするのは今回が初めてでした。カロルさんは台本を読んでから仕事を引き受けるかどうかを決める方で、読んでいただいたら「死ぬほど怖い」といって、喜んで引き受けてくださいました。その「死ぬほど怖い」をカロルさんがどうやって緩急つけてやってくれるのかを楽しみにしていました。

カロルさんはポーランドの方ですが日本語がペラペラ。邦画作品をたくさんやっていて、色の付け方がすごく面白いです。


──今回はこれまでとはまったくテイストの違う作品になりましたが、今後もこういった作品を作っていかれるのでしょうか。

ハートウォーミングな作品がホームグラウンドです。いつもとテイストの違う作品は今回で出し尽くし、骨が全部砕けてしまったような感じです。でも、「続編が見たい」という声が大きかったら、また黒矢口が戻ってくることがあるかもしれません(笑)。

<PROFILE> 
矢口史靖監督 
1967年5月30日生まれ。神奈川県出身。東京造形大学時代に映画制作を始め、90年に『雨女』でぴあフィルムフェスティバルPFFアワードのグランプリを受賞。93年に第7回PFFスカラシップ作品『裸足のピクニック』で劇場映画監督デビューを飾る。01年の『ウォーターボーイズ』で第25回日本アカデミー賞の優秀監督賞と脚本賞を受賞。04年の『スウィングガールズ』では同賞の第28回最優秀脚本賞を受賞した。ほか、監督作に『ハッピーフライト』(08年)、『WOOD JOB! 〜神去なあなあ日常〜』(14年)、『サバイバルファミリー』(17年)など。これまでの軽妙なコメディ作品とは一転し、今作は劇場長編11作目にして初のオリジナル・ミステリーとなる。

『ドールハウス』2025年6月13日(金)公開

画像: 映画『ドールハウス』予告2【6月13日(金)公開!】主題歌:ずっと真夜中でいいのに。「形」 www.youtube.com

映画『ドールハウス』予告2【6月13日(金)公開!】主題歌:ずっと真夜中でいいのに。「形」

www.youtube.com

<STORY> 
5歳の娘・芽衣を亡くした鈴木佳恵(長澤まさみ)と夫の忠彦(瀬戸康史)。  
哀しみに暮れる佳恵は、骨董市で見つけた、芽衣によく似た愛らしい人形をかわいがり、 元気を取り戻してゆく。  
だが佳恵と忠彦の間に新たな娘・真衣が生まれると、2人は人形に心を向けなくなる。   
やがて、5歳に成長した真衣が人形と遊ぶようになると、一家に変な出来事が次々と起きはじめる。
佳恵たちは人形を手放そうとするが、捨てても捨てても、 なぜかその人形は戻ってくる……!
人形に隠された秘密とは?そして解き明かされる衝撃の真実とは――!?

<STAFF&CAST>  
原案・脚本・監督:矢口史靖   
出演:長澤まさみ、瀬戸康史、田中哲司、池村碧彩、本田都々花、今野浩喜、西田尚美、品川徹、安田顕、風吹ジュン   
配給:東宝   
©2025 TOHO CO., LTD.

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