幼い娘を亡くした夫婦が骨董市で見つけた愛らしい人形に心を癒されるが、その人形にはある秘密が隠されていた…。長澤まさみ主演『ドールハウス』は110 分の間、怒涛の展開を見せるノンストップの“ドールミステリー”。「いつかオリジナル脚本でミステリーを撮りたい」とアイデアを温めてきた矢口史靖監督の念願の作品である。公開を前にSCREEN ONLINEでは矢口監督にインタビューを敢行。作品への熱い思いを語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

テンポよりもリアル感が大事


──本作はこれまでの矢口史靖監督の作品とはかなりテイストが違います。企画のきっかけから教えてください。

僕のところにカタギリさんという若い脚本家から「こんな企画があるのですが…」とプロットの持ち込みがありました。読んでみたところ、とても怖い話でしたが、すごく面白い。そこで、『WOOD JOB! 〜神去なあなあ日常〜』(2014年)のプロデューサーさんに見せたのです。すると彼も「面白い!」といってくれました。

しばらくしてから「東宝の遠藤学さんというプロデューサーにも読んでもらったら、面白いと言っていました」と言われ、あれよあれよといううちに話が進んだようです。やがて遠藤さんから「カタギリさんってどなたですか。いくら探しても見つからない」と問い合わせがあり、本当のことを白状しました。「カタギリというのは実は僕なんです」と。そこからこの企画がスタートしました。


──なぜ、最初からご自身の名前でお書きにならなかったのでしょうか。

これまでずっとお客さんを幸せにするタイプのコメディをやってきましたが、実はミステリー映画もやってみたいとずっと思っていました。ただ、今回はゾクゾクする話です。「矢口が撮った作品ならゾクゾクする話でも、結局、最後は幸せになるのではないか」、「ちょっとは笑えるのではないか」と期待して見に来てくれた観客を裏切るような気がして。「お客さんを幸せにするタイプのコメディだと思って見に来たのに、ひどいじゃないか」と嫌われるのが怖くて、保身に走ったんですね(笑)。

ただ、自分で考えた話ですし、すごく面白い話だと自信がありました。それをそんな理由で表現を曲げたり、鮮烈なシーンをソフトな表現にするという生温いことをしてしまったら、この作品のためによくないと気が付いたのです。「本当は僕が書きました。でも本気で怖くておもしろいエンターテインメントを作りました」と正直にやるしかないと覚悟を決め、そこからは隠し立てをせず、フルスイングで突き進みました。

画像1: テンポよりもリアル感が大事


──本作はラストで新たなゾクゾクが生まれ、起承転結ではなく、起承転転といった感じを受けました。これまでの作品とはテイストが違うということで、脚本を書く作法も違っていたのでしょうか。

これまでの作品とは脚本の構成が全く違います。起承転結云々ではなく、テンポよりもリアル感が大事だと考えていました。しかも、ファーストシーンから不幸な目に遭ってしまう主人公ですから、ユーモアを入れるすき間はありません。とはいえ、日本の怖い映画にありがちな湿度たっぷりで陰陰滅滅、間もたっぷりというものではなく、ゾクゾクしながらもワクワクする作品にしたいと思っていました。ですから、これまで書いたことがないタイプの脚本でしたが、書いていて楽しく、やり甲斐がありました。


──脚本を書く際に、何か参考にされましたか。

稲川淳二さんの「生き人形」という40分ぐらいの長編の怪談ですね。僕は大学生の頃に初めて聞き、その頃は「あやつり人形の怪」というタイトルでしたが、ものすごくハマったのです。稲川さんの実体験で、いまだにその人形はどこかにあるらしく、まだ続いているのです。

もう1つ、同じころに読んだ山岸涼子さんの「わたしの人形は良い人形」というコミックも僕のコアな部分にずっと残っていました。


──脚本の執筆は順調に進みましたか。

カタギリさんが書いたプロットがあったので、行き詰まることはなく、順調に書き進めることができました。そのプロットを最近、読み直したのですが、クライマックスが少し違うものの、ほぼそのままでした。やっぱりカタギリさんは優秀な若手でした(笑)。

画像2: テンポよりもリアル感が大事

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