〜今月の3人〜
金子裕子
映画評論家。映画ライター。昨年から悩まされていた腰痛対策に水中ウォーキングを開始して、気分は上々。
北島明弘
映画評論家。転んで顎を切った。血液さらさらの薬を服用している為か血が止まらず、半年ぶりに救急車のお世話になった。
米崎明宏
映画ライター、編集者。浜松町のラジオ局でよく聞いている番組に出演させていただき不思議な気持ちに。
金子裕子 オススメ作品
『おばあちゃんと僕の約束』

3世代に渡るアジアの典型的な家族関係を末期がんの祖母と孫の触れ合いを軸に描く
評価点:演出5/演技5/脚本4/撮影5/音楽4
あらすじ・概要
大学を中退したエムは、従妹が祖父の豪邸を相続したことを知り、自分の祖母を思い出す。ひとり暮らしの祖母はステージ4のガンを宣告されたばかり。彼女の世話をすれば遺産相続も夢じゃないと、同居を申し出るが…。
アジア全域を席巻したタイの大ヒット映画。祖母と孫の触れ合いを軸に、3世代に渡るアジアの典型的な家族関係を描いた人間ドラマだが、若い世代に圧倒的な支持を受けていることが嬉しい驚きだ。
祖母がステージ4のガンであることを知って、遺産目当てに同居を申し出た孫のエム。毎日を丁寧に慎ましく生きる祖母を好ましく思いながらも、遺産への執着が捨てきれない自分を「ロクデナシだ」とちょっと落ち込む。いっぽう祖母も孫の思惑もお見通しだが、それでも孫との生活が楽しく、長く抱いていた孤独が解けていく。時にユーモラスに、時に辛辣に描かれる祖母と孫の“珠玉の時間”が終わる時、見る者はなんとも言えない幸福感に包まれる。
エムを演じるのは、BLドラマ「I Told Sunset About You〜僕の愛を君の心で訳して〜」(2020年)でブレイクしたビウキン(ことプッティポン・アッサラッタナクン)。まばゆいスターオーラを封印して、将来に不安を抱く若者の未熟な屈折と優しさを好演。見事なイメージ・チェンジだ。
公開中、アンプラグド配給
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北島明弘 オススメ作品
『ラ・コシーナ 厨房』
レストランの厨房が社会の縮図となり、人間の持つ様々な問題が浮かび上がってくる

評価点:演出5/演技5/脚本4/撮影5/音楽4
あらすじ・概要
大衆向けレストランで、従業員の不平不満が愚痴、喧嘩となり、さらに昨日の売り上げ金の紛失が発覚する。料理はなかなか出来上がらず、客は文句を言い、給仕係とコックは口論し、厨房は混乱をきわめる。
1957年に発表されたアーノルド・ウェスカーの舞台劇「調理場」に基づいており、1961年のイギリス映画に続く二度目の映画化となる。ニューヨークの大規模レストラン“ザ・グリル”のキッチンを舞台に、経営者、マネジャー、人事係、シェフ、コック、その見習、皿洗い、ウェイトレス、ウェイターらの怒涛の一日が描かれる。
早朝、メキシコ系の若い女性が職を求めて地下鉄に乗る場面からスタート。コックのペドロはウェイトレスのジュリアとの仲がうまくいかず、いらいらして同僚と喧嘩になる。昨日の売り上げの一部が見つからず、経営者は犯人探しに乗り出す。休息時間に見果てぬ夢を語り合う従業員もいれば、ウェイトレスの着替えを覗き見する奴、食品備蓄室でいちゃつくカップルもいる。
レストランが社会の縮図となり、不法移民、ジェンダー、恋愛、育児、搾取…とさまざまな問題が浮かび上がってくる。モノクロ・スタンダード画面(ほんの数分だけビスタ、カラーあり)が、臨場感を高め、見る者の心を鷲掴みにしていた。
公開中、SANDAE配給
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米崎明宏 オススメ作品
『アメリカッチ コウノトリと幸せな食卓』
無実の罪で投獄された男の不遇な日々を前向きに輝かせたものは何だったのか?

評価点:演出4/演技5/脚本4/撮影4/音楽3
あらすじ・概要
1910年代、アルメニア人虐殺の修羅場を生き延びてアメリカに渡ったチャーリーは、第2次大戦終了後、自身のルーツを探して故郷に帰還するが、そこで善行をしたにも関わらず冤罪で投獄されることに…。
主人公は幼少期にオスマン帝国による迫害で故郷アルメニアを追われ、中年になって自身のルーツを求めてアメリカからソ連の統治下にある祖国に戻って来たチャーリーという男。そんな彼は無実の罪で収監されてしまうのだが、独房の窓から彼が見たのは一組の夫婦の日々の暮らし。チャーリーは彼らの生活の中に自分も一緒にいるような空想を楽しみ、理不尽な獄中の状況を忘れ、生きることの喜びを保ち続けるが…。
というと、あまりに悲惨な運命を背負わされた人物の悲劇に聞こえるが、いかに過酷な状況にあっても生きる希望を持ち続けることの重要さを肯定的に描いた作品で、監督・脚本・主演を務めるのはアルメニア系アメリカ人のマイケル・グールジャン。日本人にはなじみの薄いアルメニアという国に起きた2つの歴史的事件を背景にしているが、そうしたことを知らずとも、希望の尊さを描いた『ショーシャンクの空に』のような感動を味わうことができるはず。主人公と彼が観察する夫婦の夫に思わぬ絆が生まれていく描写にも温かみがある。
公開中、彩プロ配給
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