昨年12月に公開されるや、幅広い映画ファンを熱狂の沼へ誘い込んだ『シャドウズ・エッジ』。SCREENでは12月号・1月号と2号にわたり紹介をしてきましたが、今回はボリューム大増で本作の魅力に改めて迫ります!(文・佐久間裕子(4つの理由)、林穂紅(キャスト紹介)/デジタル編集・スクリーン編集部)

秘話ラッシュ!設定の裏話も! ラリー・ヤン監督インタビュー

元々は出演を辞退しようと考えていたジャッキーが本作に参加した経緯から“ハンニバル”も参考にしたという傅隆生のキャラクター造形、さらには設定の背景まで。本作のメガホンを取ったヤン監督が語る貴重な制作秘話をお届けします。

“(レオン・カーフェイ演じる傅隆生は)私たちの作品における中国版「ハンニバル」のような存在を目指しました”

ジャッキーが本作への出演を決めた理由

──主演のジャッキー・チェンさんは「これまで多くの警察映画に出演してきたから」と当初はオファーを受けないつもりだったそうですね。本作の何がジャッキーさんを惹きつけたのでしょうか。

「ジャッキーさんが黄徳忠の役を選んでくれたのは、私や制作チームの、映画への姿勢を理解してくださったからだと思います。これは『ライド・オン』(23)のときからジャッキーさんが認めてくださっている部分です。また、ジャッキーさんには若手監督への信頼と応援の気持ちもあると思います。私にまだ挑戦の余地があることを理解し、支えてくれる。そのうえで、警察ものの物語を引き継ぎ、その精神を描き続けたいという私の思いを尊重して、この役を引き受けてくれたのです。

画像: ジャッキーが本作への出演を決めた理由

私が彼に物語やキャラクターの説明をしても、そのまま表現されるわけではありません。しかし、ジャッキーさんは直感でこのキャラクターに共鳴しました。スターや俳優としてこの役を表現するだけではなく、彼にとっては一人の人間として見せたい面を引き出せる役だったのです。それは、『ライド・オン』のときから見られた脆さや、歳を重ねたことでの衰え、そして後輩に伝えようとする姿勢など、ジャッキー・チェンさん自身の今の心境と重なる部分でもあります。

こうした要素が重なったことで、ジャッキーさんは黄徳忠という人物に惹かれ、この役をどう演じるかを理解し、最終的に自身の演技を通してキャラクターを生き生きと表現することができたのです」

──今回の共演で新たな化学反応はありましたか?

「ジャッキーさんと一緒に仕事をする現場では、実はどのシーンも火花を散らしました。彼は精力的で、創造力にあふれ、本当に映画を愛している人です。そんな人が現場にいると、その存在自体が光となり、周囲に火花を飛ばします。どんなに疲れていて注意力が散漫になっていたとしても、ジャッキーさんがいるだけで、現場にいる全員の注意が自然と彼に向かうのです。しかもそれを、楽しさや喜びをもって引き出してくれる。私たちが必要としているもの──例えばそれがエネルギーなら食べ物を、楽しさならば笑顔を、すぐに察して与えてくれます。

今回のアクションシーンは、『ライド・オン』の頃とは体力的にも難易度的にも全く違いますが、ジャッキーさんの没入感や絶え間なくアップグレードする姿勢は圧倒的でした。私たちは当初、ここまで激しく、ここまで深く演じるとは想像していませんでした。しかし彼がキャラクターを掴むと、自然と『もっとやれる』と思い、決して手を抜かず、誰にも手抜きを許さない、まさにチーム全員が彼のペースで、全力で演じます。つまり、私たちは常にジャッキーさんに『限界を押し広げられている』状態であり、彼自身も自分の限界を押し上げ続けています。そのおかげで、現場での創作体験は毎日が刷新されるような、新鮮な感覚で満ちているんです」

レオン・カーフェイの役には2人の“ハンニバル”の影響が

──アクションシーンではレオン・カーフェイさんがこれまでで最も多くのアクションを披露した作品ですね。特に孤児院での1対30のシーンは5日間かけて撮影したとのことですが、現場はいかがでしたか? 

カーフェイさんには『このキャラクターの持つ強さや凄み』を自在に表現する力があるので、演技に関しては何も心配する必要がありませんでした。しかし今回のアクションは一気に30人と戦う場面で、動きや武器が多く、出演者の距離も近く、スペースも限られていました。このような状況では、絶対的なチームワークと高いプロフェッショナリズムが求められます。アクション監督のスー・ハン(蘇杭)さんは成家班(※ジャッキー・チェンのスタントチーム)出身で、チーム全員に非常に高い要求を課し、カーフェイさんの安全と演技の迫力を両立させていました。

カーフェイさん自身も、その挑戦に応えるだけの力量がありますが、私は監督として、俳優の体力や安全、撮影のクオリティなど多くのことを考えるため、どうしてもハラハラしてしまいます。さらに、このシーンは夜間の野外で、午前3〜4時まで撮影が続いたため、疲労や集中力の低下も大きなリスクでした。その中で、カーフェイさんはアクションだけでなく、深みのある表現も見せなければなりません。私もよく冗談めかして『アクション監督さん、アクションの合間は私の出番です』と言いながら、瞬間的な表情や細かい演技を調整しました。たとえカーフェイさんが何十人に囲まれている場面でも、短い演技にキャラクターの感情や野性をしっかり出してもらう必要があります。こうした過酷な条件の中で、互いに磨き合い、表現の空間を与え合う経験は、とても興味深く、貴重な体験でした」

──レオン・カーフェイさんが演じる、非常に魅力的な悪役・傅隆生についても話を聞かせてください。

「アクション映画において、『強く戦うキャラクター』は魅力のひとつです。アクション自体がある程度誇張されるジャンルですし、その迫力や華やかさもキャラクターの魅力として重要です。今回、魅力的な俳優であるカーフェイさんにこのキャラクターを演じてもらうにあたり、私の創作の方向性として、ある人物像をイメージしました。それはアンソニー・ホプキンスが演じた『羊たちの沈黙』(91)のハンニバルのような人物です。『レッド・ドラゴン』(02)の精緻さも参考にしています。

画像: レオン・カーフェイの役には2人の“ハンニバル”の影響が

ハンニバルは料理を愛し、生活に高い基準を持つ人物で、危険な状況下でも市場に出かけ、自ら料理をするような人。そうした日常性と危険性の両立を、このキャラクターにも持たせたいと考えました。さらに、マッツ・ミケルセン版のハンニバルも組み合わせています。たとえば映画の中で、彼は表向きは大学教授のような服装や佇まいであり、戦争や殺しの経験を隠して暮らしている人物です。しかし内面には、精鋭としての野性や知性、そして貴族的な教養への憧れがあり、そうした二面性を表現したかったのです。

刺殺シーンの演出もアンソニー・ホプキンス版『レッド・ドラゴン』へのオマージュで、教授を狙う際の精密な手さばきや外科医の技術を応用したような正確さを意識しました。必要な時だけ命を奪い、そうでない時は冷静に制御する──この『究極のプロフェッショナル感』こそ、このキャラクターの本質です。こうして誕生したキャラクターは、私たちの作品における『中国版ハンニバル』のような存在を目指しました。観客に一瞬、彼が善人であったかもしれないと感じさせる瞬間もありつつ、常に計算され、冷静で、同時に危険な人物として描いています」

アクション監督を唸らせたチャン・ツィフォン

──チャン・ツィフォンさんにとって、初めてのアクションシーンだったそうですね。

「私たちにとってラッキーだったのは、チャン・ツィフォンさんは本作の撮影に入る前に『花漾少女殺人事件(原題)』という作品に出演していて、フィギュアスケートの選手を演じるにあたっての専門トレーニングを積んでいました。そのトレーニングこそが、今回のアクションシーンで必要な基本的なコア要素と重なっていたんです。具体的には、両足の筋力、そして身体の柔軟性です。フィギュアスケートは筋肉の負荷が大きく、同時にバレエのような表現力も求められます。ですからこの作品に入ってきた時点で、彼女はすでに完全に準備が整っていて、どんなアクションもこなせる状態でした。

画像1: アクション監督を唸らせたチャン・ツィフォン

ツイフォンさん演じる何秋果が銃を構えてスライディングするシーンも、彼女のために作り出したアクションでしたが、こんなに軽々とこなすとは思っていませんでした。かなり難しいだろうと思っていたんです。ツイフォンさんの撮影初日、アクション監督が彼女の能力を知りたがっていたのですが、撮影が終わった時に『これは(アクションを)すべて見直さないといけない』となったほどです。もはや単純な動きやカット割りのためのスタントに頼るレベルではありませんでした」

──本作には接近戦以外にも、変装やエレベーター内での戦闘など、多くのサプライズシーンがあります。

カーフェイさん演じる傅隆生率いる『養子団』の少年たちはまるで『ミュータント・タートルズ』のようで、私はこの子たちがどう遊ぶかを考えました。彼らは逆探知や追跡回避のテクニックを持っているけど、そのテクニックの枠を超えて、彼ら自身の『見せ場』を彼らの個性の一部としてどう加えられるか、挑戦したいと思いました。私に影響を与えたもうひとつのオマージュ作品『グランド・イリュージョン』(13)に、変装のシーンがあります。もちろん、変装の元祖はジャッキーさんで、以前は服を着た状態から別の服に変わるスタイルでした。でも今回は『服を着た状態から脱ぐ』という逆向きのオマージュにしたんです。アクション映画で変装をここまで多用する作品は少ないですし、面白い挑戦だと思いました。もちろん衣装チームにはデザインなど手間をかけてもらったけど、彼らも楽しんでいました。単にきれいな服を着せるだけより面白いですから。たった一瞬、服がなくなるだけの演出でも、毎日みんなでどうやって見せるかを考え、開発してデザインする。これこそが創作の楽しさです。この過程で、『服を着ている状態から脱ぐ』の次は、『男の子を女の子に変える』『少年を老人に変える』といった試みにもチャレンジしました」

画像2: アクション監督を唸らせたチャン・ツィフォン

オリジナル版の“もしも”が原点!傅隆生たちの前日譚にも期待!?

──映画からは読み取れない背景設定があれば教えてください。

これはカーフェイさん演じる傅隆生と子どもたちの出会いをもとにした私のストーリーの延長です。オリジナル版である『天使の眼、野獣の街』(07)の結末で、レオン・カーフェイ演じる陳重山がもしあの時死んでいなければ、警察に追われ、寂れた漁村のゴミ置き場に逃げ込むことになります。そこには、経営が立ち行かなくなった孤児院の子どもたちが数人、食べ物を探していました。双子の兄、熙旺は彼らのリーダーで、陳重山を目にした瞬間に『「助けを必要としている人だ』と直感します。警察と犯罪者の正義や悪の区別ではなく、ただ助けたいと思うのです。彼らの目と彼の目が合った瞬間、まるで狼同士が目を合わせるかのような感覚が生まれます。将来的にこの物語が続くなら、このエピソードを撮るかもしれません。

画像: オリジナル版の“もしも”が原点!傅隆生たちの前日譚にも期待!?

熙旺はゴミの中でこの負傷者を隠し、警察の目をかいくぐって助けます。子どもたちは自分たちが見つけた食べ物や水で傷を清め、奇跡的に彼を生かすのです。子どもたちの手厚い世話のもと彼は回復し、孤児院に連れて行かれます。目を開けると、そこには汚れた顔をした子どもたちがいて、まるで夢の中にいるかのように感じます。傷が癒えると、彼は子どもたちを守り、彼らの尊敬と憧れを得ます。その後、彼は子どもたちの背景を理解し、得た資金の一部で彼らを養い、子どもたちは彼を『お父さん』と呼びます。孤児院は少ないお金で運営され、子どもたちは自分の好きなことを学ぶ機会を得ます。1999年に大きな失敗が起こりますが、彼は逃亡前に子どもたちに『父さんは戻る』と言い残し、しばらくして再び彼らを別の場所に連れて行き、訓練を施します。この訓練は犯罪者にするためではなく、生き抜く術を教えるためです。こうして、彼と6人の子どもたちからなる新しいチームが形成されます。新旧のスキルが混在し、警察の通常の捜査手段にも対抗できる体制ができあがります。もし機会があれば、このチームが初めて任務に出る前の物語や子どもたちそれぞれのエピソードも描くことができるでしょう

画像: photo by Getty Images

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ラリー・ヤン プロフィール

1981年2月11日生まれ。北京電影学院を卒業後、英国エジンバラ大学で映画制作を学ぶ。2012年に長編監督デビューを果たし、恋愛ものからスポーツものまで多彩なジャンルで人間ドラマを描いてきた。2023年にはジャッキー・チェン主演『ライド・オン』で脚本・監督を務めた。本作はジャッキーとの再タッグ作である。

公開中 『シャドウズ・エッジ』

監督:ラリー・ヤン
出演:ジャッキー・チェン、チャン・ツィフォン、レオン・カーフェイ、ツーシャー、ジュン(SEVENTEEN)
配給:クロックワークス
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