エメラルド・フェネル監督が再構築した『嵐が丘』は、もはや古典の枠を飛び越えた、五感を刺激するラブロマンス。あまりに過剰で、美しい愛の深淵を一緒にのぞいてみましょう。(文・スクリーン編集部、大森さわこ(コラム)/デジタル編集:スクリーン編集部)
カバー画像:『嵐が丘』より ©2026 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

エメラルド・フェネル監督インタビュー

“原作を知っているかどうかに関わらず、
映画を観た人たちにも、方向感覚を失うような体験をしてほしい”

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── この物語があなたに与えた影響、そしてなぜ映画化したいと強く感じたのかについて教えてください。

「私はこの本に、ずっと身体的とも言える反応を覚えてきました。『嵐が丘』の尽きることのない魅力は、突き詰めるとエミリー・ブロンテという芸術家そのものにあると思います。彼女は詩人でした。それも、超越的なまでに天才的な詩人であり、その作品は、他にはほとんどないほど強く人々と結びつく力を持っています。

だから私が本当にやりたかったのは、この作品と自分自身とのつながり、この物語が私にどんな感情を呼び起こしたのかを正直に受け止めることでした。それが、すべての読者に同じような感情を与えるものでなくてもいい、と理解したうえで。

初めて読んだときに私が感じたあの感覚─その“感触”にできるだけ近いものを形にしたかったのです。私にとって刺激的で、反骨的だと感じた要素をそぎ落としながら抽出し、なぜこの作品が二世紀を経た今でも人の心を揺さぶり続けているのか、その核心を映像化したいと思いました」

── 原作を読んだことがある人も、ない人も含め、観客にこの映画で何を体験してほしいですか?

「この映画を、誰もが静まり返って観ている、という状況にはなってほしくありません。私たちの『嵐が丘』は時代劇ロマンスではありますが、決してニッチな作品ではありません。これは、私が史上最高のラブストーリーだと信じている物語を原作にした、壮大で叙事的な、シネコンで観るべき映画です。

エミリー・ブロンテの物語は、文字どおり人の皮膚の下に入り込んできます。何度読み返しても、必ず新しい発見があったり、かつて覚えていた何かを思い出せなくなったりして、そのたびに、初めて読んだときと同じくらい心を揺さぶられるのです。

だからこそ、原作を知っているかどうかに関わらず、映画を観た人たちにも、心をかき乱され、方向感覚を失うような体験をしてほしい。良い意味で“肌の奥に入り込む”感覚を味わい、映画館を出るときには、電気を帯びたような高揚感を抱いていてほしいと願っています」

エメラルド・フェネル監督 Profile

1985年10月1日、英・ロンドン出身。ドラマ「ザ・クラウン」S3・S4 のカミラ夫人役で注目を集め、「キリング・イヴ」S2の脚本では緻密な物語構成が絶賛された。初監督作『プロミシング・ヤング・ウーマン』(20)では、アカデミー賞脚本賞を受賞した。

COLUMN
不朽の名作を鮮やかにアップデート!
なぜ「嵐が丘」は、いつの世もクリエイターを魅了するのか

英国の作家、エミリー・ブロンテが1847年に発表した「嵐が丘」は時代を超えて愛されるベストセラー小説。これまで何度も映像化されたが、『プロミシング・ヤングウーマン』(20)の期待の女性監督、エメラルド・フェネルの『嵐が丘』は現代的なエネルギーにあふれた解釈になっている。舞台は19世紀の英国・ヨークシャーの荒涼とした高台、嵐が丘。そこで育った令嬢、キャサリンと孤児、ヒースクリフの情熱的な愛の物語。ふたりは離れられない関係ながら、階級差や周囲の環境のせいで悲劇的な運命をたどる。

今回はマーゴット・ロビー(製作も担当)がキャサリンを演じることで、勝気でエゴの強い人物像になっている。彼女に裏切られ、復讐の鬼となるヒースクリフ役のジェイコブ・エロルディは、前半の薄汚れた使用人から後半のダンディな紳士への変身ぶりが鮮やかで、甘い官能性を秘めた人物像だ。今回の映画化はカラフルな衣装や人気アーティスト、チャーリーXCXのエレクトロニックな音楽の力で、21世紀的なライブ感のある華やかなラブストーリーに仕上がっている。

時代が映し出す「嵐が丘」
変容し続ける映像化の歴史

過去の映画化をたどると、1939年の古典『嵐が丘』はモノクロの映像ながら、ハリウッドの巨匠、ウィリアム・ワイラーの端正な演出によって王道のメロドラマとなっている。キャサリン役はマール・オベロンで、ヒースクリフ役は英国の名優、ローレンス・オリヴィエ。この役で彼はオスカー候補となった。

一方、英国のピーター・コズミンスキー監督の『嵐が丘』(92)は原作通り主人公たちの親子2代に渡る物語構成で、ヒースクリフに扮した(当時は新人の)レイフ・ファインズの存在感が光る。冷たい眼差しの向こうに静かな情熱と哀しみを秘め、凄みと繊細さが両立したヒースクリフ像。坂本龍一の哀切のテーマ曲と演技の個性が見事に調和する。キャサリン役はフランスの実力派女優、ジュリエット・ビノシュで母娘の2役を演じる。

異色の映画化としては、英国の才人監督、アンドレア・アーノルド『ワザリング・ハイツ〜嵐が丘〜』(11)がある。無名のキャストで、ヒースクリフは黒人男優(ジェームズ・ハウソン)を起用。原作では「浅黒い肌の放浪者」と書かれているので、この大胆な解釈も確かに成立。差別される者の孤独を手持ちカメラも駆使してリアルに切り取る。変形版には松田優作田中裕子主演、吉田喜重監督の『嵐が丘』(88)もある。こちらは能のイメージなども取り入れ、日本の封建的な閉鎖性もうかがえる解釈だ。

語られる話は同じでも、時代や監督、出演者によって個性が異なるそれぞれの『嵐が丘』。軸になるのは主人公ふたりの悲恋だが、もっと根源的な愛の正体、嫉妬、復讐、後悔、生と死、富と貧困、階級差など普遍的なテーマも込められ、ホラー映画の要素もある。人間の複雑な心の闇を見ることができる作品で、解釈の幅も広い。だから、いつの時代も題材として愛され、時代ごとに物語がアップデートされていくのだろう。

ウィリアム・ワイラー監督版『嵐が丘』(1939)
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画像: ピーター・コズミンスキー監督版『嵐が丘』(1992)

ピーター・コズミンスキー監督版『嵐が丘』(1992)

『嵐が丘』(1992)

DVD:4378円(税込)
発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング

TM & COPYRIGHT ©1992 BY PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. TM,® & COPYRIGHT ©2004 By Paramount Pictures. All Rights Reserved.

アンドレア・アーノルド監督版『ワザリング・ハイツ 嵐が丘』(2011)

『ワザリング・ハイツ 嵐が丘』(2011)

3月4日(水)発売
Blu-ray:4400円(税込)
発売元:ニューセレクト
販売元:アルバトロス

© 2011 Wuthering Heights Films Limited Channel Four Television Corporation and The British Film Institute. All Rights Reserved

『嵐が丘』
2月27日(金)公開
アメリカ/2026年/2時間16分/東和ピクチャーズ・東宝配給
監督:エメラルド・フェネル
出演:マーゴット・ロビー、ジェイコブ・エロルディ、ホン・チャウ

©2026 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

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