営団地下鉄日比谷線の脱線事故から20年。かつての初恋相手に書いた一通のラブレター。実話に着想を得た石井裕也監督の最新作『人はなぜラブレターを書くのか』が公開される。主演の綾瀬はるかをはじめ、妻夫木聡や佐藤浩市ら、監督が「彼らでなければならなかった」と断言する盤石のキャストが集結。効率が優先される現代において、なぜ人はあえて「手紙」という非合理な手段を選ぶのか。監督はそこに、理屈では捉えきれない人間の面白さを見出した。自身の亡き母への想いも重なったという本作。映画を通して描かれる、生きていくことの輝きと、創作の舞台裏についてたっぷりと語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

“綾瀬はるかをいかに輝かせるか” 妻夫木聡という不可欠な存在がナズナに命を吹き込んだ

──寺田ナズナ役を綾瀬はるかさんが演じています。綾瀬さんの柔らかな雰囲気がナズナに通じるものがあるということでキャスティングされたそうですが、現場で綾瀬さんを見て、「ナズナだ」と強く感じたのはどちらでしょうか。

やっぱり綾瀬さんって、実際に撮影していても感じるんですが、すごく不思議な方なんですよ。ざっくり言ってしまうと、どこか掴みきれないというか、簡単には言葉で説明できない存在なんです。その“よくわからなさ”みたいなものが、そのままナズナという人物の魅力にも重なっていると思います。

──世間では親しみを込めて「天然」と称されることも多い綾瀬さんですが、現場で実際に対峙してみて、その不思議な佇まいの正体はどこにあると感じられましたか。

その“天然さ”とも称される、彼女の「底知れない資質」が正直なところ、僕にもよくわからなくて(笑)。

とはいえ、つかみどころのなさがありながら、同時にすべてを包み込むような大きさがあるんです。そういう佇まいの人はなかなかいないと思いますし、その独特なオーラは現場でも強く感じていました。

画像1: “綾瀬はるかをいかに輝かせるか” 妻夫木聡という不可欠な存在がナズナに命を吹き込んだ

──綾瀬さんは脚本を読み込んで、ナズナを作ってきたのではなく、もう存在そのものがナズナだったのでしょうか。

そういう印象はありましたね。もちろん実際にどういう準備をされていたか、細かいところまでは確認していないので断言はできませんが、少なくとも現場で見ている限り、頭で組み立てて演じているようには感じなかったんです。

むしろ、自然とそこに“ナズナとして在る”ような感覚がありました。

──ナズナと良一がファミレスで話し合うシーンで、感極まった綾瀬さんが2テイク目で号泣の芝居をされ、スタッフも思わず涙ぐんでしまったとき、監督は「泣かないでください」と演出し、綾瀬さんもすぐに“泣かない演技”に切り替えたと聞きました。監督の演出を聞き、頭で考えるというよりも、心で何か「こうなんだ」と感じて反応したのかもしれませんね。

本当に不思議なんですよ。演出する側としては、脚本も書いていますし、役者の芝居を見れば、ある程度「こういう意図でやっているんだな」とか、「これはテクニックなのか、それとも本能的な反応なのか」といったことは見えてくるものなんです。

ただ、綾瀬はるかさんに関しては、それがほとんど見えない。いい意味で、何を考えて演じているのかが掴めないんです。

だからこそ、ああいう瞬間にスッと切り替えられるのも含めて、本当に稀有な存在だと感じますね。

画像2: “綾瀬はるかをいかに輝かせるか” 妻夫木聡という不可欠な存在がナズナに命を吹き込んだ

──夫・良一役を監督の作品に何度も出演している妻夫木聡さんが演じています。妻夫木さんに良一をお願いしたのは、自分の思い描くナズナを引き出してほしいと妻夫木さんに託した部分があるのでしょうか。

まさにその通りです。今回は、“綾瀬はるかをいかに輝かせるか”がひとつのゴールでもありました。そのためには、妻夫木さんの存在が不可欠でした。彼がいることで、ナズナという人物の魅力がより際立つ。二人の関係性の中でこそ成立するものを狙っていました。

──今回、ナズナが家族と語り合う、長回しのシーンが何度もありました。長回しはキャストの方々も緊張されると思いますが、そういったシーンでの綾瀬さんと妻夫木さんはいかがでしたか。

緊張はしていたと思います。特に妻夫木さんは、その場から離れず、ずっと現場に居続けていました。常にそこにいて、シーンの緊張感を保ち続けてくれるような存在でしたね。

一方で、綾瀬さんは、ふっとどこかに行ってしまうこともあったりして、その在り方も対照的でした。ただ、最後の長い夜のシーンはかなり重要だったこともあり、綾瀬さんもその場を離れることはなかったと思います。あの場面は、誰が見ても作品の勝負どころだとわかるシーンでしたから、現場全体の集中度も一段と高まっていました。

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