“守るべきもの”を描く物語――永瀬というキャラクターの深化
──「正直不動産」初の映画化に際して製作陣が絶対条件として挙げたのは、「正直不動産」ならではの持ち味をそのまま映画に移植すること。監督が本作のメガホンをとるにあたって、最も大切にした「正直不動産らしさ」とは何でしょうか。
まず、テレビシリーズがあれだけ愛されたから映画になったわけで、そこを根本から変えるのは絶対に違うと思ったんです。かつて「のだめカンタービレ」を映画化した時もそうでしたけど、テレビで築いてきた“良さ”を壊しちゃいけない。ドラマファンの方のためにも、そこは守らないといけない部分です。だから、登坂不動産のチームワークも、キャラクター同士の距離感も、何も変えない。“いつものことが、いつものように起きている”という世界を、そのまま映画でも見せたい。撮影を始めてもう4年半くらいになりますけど、その積み重ねの集大成を映画でちゃんと出したいというのが一番大きかったです。
ミネルヴァ側も同じで、ドラマではギスギスしていた神木と花澤の関係性が、スペシャルドラマを経て、少しずつ距離が縮まっていった。その“成長した関係性”を映画でちゃんと見せたい。ドラマで育ててきたキャラたちを、映画でもしっかり描きたいという思いがありました。だから“映画だからって大きく変える”ことはしたくなかったんです。あくまで“いつもの正直不動産”をやる。これは外せません。
ただし、映画ならではのスケール感は出したい。その一つが“風”ですね。劇場で見るなら、もっと大きく、もっと迫力のある風が作れる。音も映像も、映画館ならではの表現ができる。それもあって、山下さんから「どうせ映画をやるなら海外でやりませんか?」という提案があったんです。プロデューサー陣は一瞬「ひぇ〜」ってなってましたけど(笑)、原作にもアメリカの話があったので、「じゃあやってみよう」ということになりました。映画館なら5.1chのドルビーサラウンドで風の音も迫力を出せるし、映像もスケールアップできる。そこは映画ならではの広げ方ができたと思います。

あと、今回どうしてもやりたかったのが、キャラの“深掘り”です。特に桐山。スペシャルの時にちょろっとしか出せなくて、ずっと申し訳ないなと思っていたんです。でも市原(隼人)さんが毎回喜んで出てくださっていて…。だから今回は、“ドーン”と真ん中に持ってきました。市原さんだからこそできたのですけれどね。深掘りできて本当に良かったです。他のキャラも少しずつ成長を描きつつ、“テレビから映画になってこう広がりました”というのを見せられたらいいな、と思って作りました。

──永瀬はどのようにスケールアップされましたか。
永瀬をどうスケールアップするかという点では、まず山下さんと「永瀬が英語を喋れるようになったら面白いよね」という話をしたんです。アメリカロケがあるので、そういう小さなところからも永瀬の広がりが作れるなと。そこから改めて“永瀬というキャラって何だろう”という原点に立ち返りました。
やっぱり原作の “正直者がバカを見ない世の中であってほしい”というテーマが永瀬の根底にある。永瀬はずっとそのテーマに沿って旅を続けてきたキャラクターで、今回の映画ではその旅の延長線上にある“守るべきもの”として、“お客さんや周りの人たちの大切なものを守る”ということを描きたい。永瀬が持っている優しさを、ちゃんと映画の中で表現したかったのです。
例えば、市原さん演じる桐山の大事なものを守ろうとする姿だったり、月下を見守る優しい眼差しだったり、部長や社長に対する思いやりだったり。永瀬が人に向ける気持ちを丁寧に描くことで、今の世の中のギスギスした空気の中でも、観た人が“優しい気持ちになれる映画”になればいいなと。永瀬というキャラでそれを表現できたら、とずっと思っていました。映画の初号を見終わったあと、山下さんも福原さんも「すごく優しい映画になって良かった」と言ってくれましたが、まさにそこを目指していたのです。
ちょっと難しい話になっちゃいましたけど(笑)、そういう思いで今回の永瀬のスケールアップを考えていました。

──桐山を助けるためには登坂不動産を辞めないといけない、でも辞められない。その葛藤を永瀬は榎本美波(泉里香)に語ります。映画では永瀬が持っている「優しさ」だけでなく、「弱さ」や「情けなさ」も描かれていたように思います。
永瀬の“本当の内面”を出したい。これについては根本さんと何回も話したんですよ。で、「永瀬が素直に本音を出せる相手って、やっぱり美波で、彼女にだけは素直に相談できるし、弱さを見せられる」っていう話になった。あの場面があることで永瀬のキャラクターの幅がぐっと広がったんです。さすが根本さんですよね。
もともと永瀬って、ちょっと下品な言い方ですけど、“できる・できない”みたいな半端な基準でしか物事を考えていなかった男なんです。でも、ここにきてようやく、根っこの優しさとか、人としての“本当の部分”がちゃんと見えるようになってきた。年齢を重ねて、ようやくそういうところが出てきたんだろうなと。だから、あのシーンでは“ヒーローとしての永瀬”じゃなくて、“人間としての永瀬”をちゃんと見せたいと思っていました。完璧じゃないし、情けないところもある。だからこそ愛される。そのバランスを大事にしながら、山下さんとも呼吸を合わせて作っていきました。

──永瀬は桐山と自分が仲間であり、仲間とは何であるかを語ります。その言葉が胸にしみました。
あれは本当に、すごく大事な言葉だと思うんですよね。永瀬が最後に言っているように、一番大事なのって、一緒に働いている仲間だったり、その仲間の笑顔だったりするんだっていうこと。あれは、この4年間ずっと同じメンバーでやってきた中で、山下さん自身が感じてきたものが、自然と永瀬に反映されているんだろうなと思うんです。
市原さんとのお芝居も、4年ずっと積み重ねてきた関係があるからこそ、あの“心の底から仲間だと言える感じ”が出たんだと思います。ただの友だちじゃなくて、同じ方向を向いて、一緒に戦ってきた仲間。その空気がちゃんと伝わってきて、とても良かったなと感じました。

