アナス・トマス・イェンセン監督ステートメント
『さよなら、僕の英雄』は、
アイデンティティをテーマにした寓話的コメディだ。
人間は他者の視線によって形づくられる存在であり、
その中で「本当の自分」を見つけようとする多面的な存在である。
それを理解することで、他人にも自分にも寛容でいることができる。
また、自分のもつ顔が“ひとつではない”と知ることで、
他人の言葉に傷つきにくくもなるのだ。
イントロダクション

繊細な演技で世界中の観客を虜にし、ハリウッドの超大作からヨーロッパのアート作品まで縦横無尽に活躍を続ける“北欧の至宝”マッツ・ミケルセン。今年で映画デビュー30周年を迎える彼の最新作は、絶大な信頼を寄せる母国デンマークの鬼才アナス・トマス・イェンセン監督とのタッグ作品。『アダムズ・アップル』『ライダーズ・オブ・ジャスティス』などに続く、ふたりの6度目のコラボレーションとなる本作は、型破りなキャラクターに人間味を吹き込むマッツの魅力がこれまで以上に純度高く引き出された一作に仕上がっている。
マッツが本作で演じるのは、自らをジョン・レノンだと思い込み、周囲を戸惑わせるような言動を繰り返す男マンフレル。冷酷な悪役から寡黙なヒーローまでを自在に演じてきた彼にとっても、ここまで振り切れたキャラクターは異例。だが、その一見突飛にも映るキャラクターの裏にある孤独や哀しみを繊細に演じ、単なる怪演にとどまらない奥行きを生み出している。

物語は、強盗で服役していた弟アンカーが出所後、かつて隠した大金を取り戻すため兄マンフレルと再会するところから始まる。だが、金の在り処を知る唯一の存在であるマンフレルは、金の隠し場所を忘れてしまったばかりか、なぜか自分を“ジョン・レノンだ”と信じ込んでいた。兄弟は失われた金を探す旅のなかで、やがて封じ込めてきた過去とも向き合っていく。
2025年のヴェネツィア国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門でワールドプレミア上映された本作は、デンマークにおける実写映画の興収記録を塗りかえ、歴代一位に輝くメガヒットを記録。さらに同国のアカデミー賞にあたるロバート賞では13部門14ノミネートを果たし、観客賞を受賞するなど、批評と興行の両面で圧倒的な成功を収めた。
劇中を彩るのは、ビートルズ、ABBA、ビーチ・ボーイズの名曲の数々。「特捜部Q」シリーズのニコライ・リー・コスが、マンフレルの奔放な振る舞いに翻弄されるアウトローな弟アンカーを演じるほか、ソフィー・グローベール、ソーレン・マリンといった“イェンセン組”ともいえる実力派キャストが集結し、絶妙のアンサンブルを奏でる。
不条理でカオスなユーモアの奥底に“アイデンティティの探求”や“ありのままの自分を受け入れること”というテーマを忍ばせた本作は、社会のはみ出し者たちへの温かな眼差しに満ちている。多様で不完全な存在である人間そのものへの考察を促し、観客それぞれの価値観や倫理観を揺さぶる刺激的な寓話であり、マッツの新たな代表作と呼ぶにふさわしい珠玉の一本だ。
ストーリー

長い服役を終えて出所した元強盗犯のアンカー(ニコライ・リー・コス)は、兄・マンフレル(マッツ・ミケルセン)のもとを訪れる。アンカーの目的は、逮捕される直前にマンフレルに託した大金入りのバッグを取り戻すこと。しかし15年ぶりに再会したマンフレルは、大金の隠し場所を忘れてしまったばかりか、自分を“ジョン・レノン”だと信じ込んでいた。
生まれ育った田舎の実家を訪れた兄弟は、近くの森に埋まっているはずの大金を掘り起こそうとするが、思わぬ珍客たちが現れて事態は予期せぬ方向へ転がっていく。数々の騒動と混乱を経て、兄弟が探し当てた“本当に大切なもの”とは?
キャラクター紹介

マンフレル(マッツ・ミケルセン)とアンカー(ニコライ・リー・コス)
マンフレル(マッツ・ミケルセン)
心の病を抱えているアンカーの兄。自分のことをビートルズのジョン・レノンだと思い込んでおり、本名のマンフレルと呼ばれることに激しく抵抗する。弟に託された大金の隠し場所を忘れてしまった様子で、予測不能な旅の引き金となる。
アンカー(ニコライ・リー・コス)
強盗罪で15年の刑期を終え、刑務所から仮釈放された弟。かつて大金を託した兄マンフレルの元を訪れる。目的のためには手段を選ばない強引さを持つが、予測不能な行動を連発する兄に振り回され、カオスな旅の中で自分自身と向き合うことになる。
『さよなら、僕の英雄』マッツ・ミケルセンの制作秘話3

まさかの外見はマッツ本人の提案!
イェンセン監督作品では、“イケおじ”マッツが外見を大きく変えるのがお約束の一つ。今回ももっさりとしたパーマ髪に年季の入ったメガネという普段のイメージとはかけ離れた衝撃のルックスで登場する。実はこれ、マッツ本人のアイデアだったそうで、海外メディアのインタビューで監督は「誰もがマッツを美しい男だと思っているから、彼の一部には容姿を崩したい願望があるのだろう」と語っている。
当初は配役が逆と思われていた!?
ニコライ・リー・コス演じる刑務所帰りの弟と、マッツ演じる心の病を抱えた兄。実は脚本を読んだ関係者たちは、ふたりの配役は逆だと考えていたという。前作『ライダーズ・オブ・ジャスティス』での役柄(マッツがシリアスな武闘派、ニコライが内向的な学者)の印象が強かったためだが、監督は海外メディアに対し、「これは単に、彼らがどちらの役も演じられるということを証明しているにすぎません」と語っている。
実は「ぶっ飛んだ役」を演じる方がラク!?
ここまで風変わりなキャラクターを演じるのはさぞ大変かと思いきや、米エンタメ誌の取材に対し、マッツ本人は「あのカオスの中にいる方がラク」だと語っている。自身の役柄の世界(バブル)に入り込めるため、現場で思わず吹き出してしまうことも少ないのだとか。むしろ「完全なカオスの隣で、真面目にツッコミ役(常識人)を演じなければならないニコライの方が大変な仕事だ」と、本作ならではの裏話を明かしている。
『さよなら、僕の英雄』
2026年6月19日(金)公開
デンマーク=スウェーデン/2025/1時間56分/配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
監督:アナス・トマス・イェンセン
出演:マッツ・ミケルセン、ニコライ・リー・コス、ソフィー・グローベール、ソーレン・マリン、ボディル・ヨルゲンセン、ラーシュ・ブリグマン、カルド・ラザーディ、ニコラス・ブロ、ピーター・デュリング
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