「文化祭はテロの後の掃除の日だと思っていた」――。衝撃の告白から始まった本インタビューは、吉田恵輔監督の凄まじい「作家の業」を物語っていた。最新作『四月の余白』は、監督自身のルーツや実在した「ヤバい奴ら」を繋ぎ合わせたリアリティの結晶だ。劇中の強烈なエピソードは、監督が出会い、圧倒された「本物の人間」たちの体温を宿している。なぜ今、過去を切り売りしてまで本作を撮る必要があったのか。一ノ瀬ワタル演じる西に託した「後悔」と、怪物・海斗に向けた「問い」、さらに次作『mentor』への展望まで。吉田恵輔監督が自身の核心をさらけ出した。(取材・文/ほりきみき)

監督がタイトルに込めた「のりしろ」としての余白

──『空白』(2021)『ミッシング』(2024)、そして今回の『四月の余白』と、愛知県蒲郡市を舞台にした作品が続いています。以前、『BLUE/ブルー』(2021)でのインタビューで「蒲郡三部作」を作りたいと仰っていましたが、今作で完結となるのでしょうか。 また、監督にとって蒲郡はどのような町ですか。

一応、これで完結かなと思っています(笑)。

実は蒲郡市の市長さんが毎回現場に来てくださるんですよ。クランクアップの時にも挨拶にいらして、一緒に記念写真を撮ったりするんですが、『空白』の時に「監督、また次も来てくれますよね?」と言われて。その場の雰囲気で「『空白』『蒼白』『わんぱく』の三部作を考えてます」なんて適当なことを言っちゃったんです。

ところが翌日、その冗談をきっかけに「『蒼白』っていうのを書いてみようかな」と思って書き始めたのが、結果的に『ミッシング』になりました。そして今回がその流れを汲む「わんぱく」枠ですね。

蒲郡という街自体は、最初から狙っていたわけではなく、たまたま行き着いた場所なんです。『空白』のロケハンで港を探して静岡から甲府へと走っていた時に、偶然たどり着いたのが蒲郡でした。そこで別の映画のロケハンをしていた知り合いにバッタリ会って、地元のフィルムコミッションを紹介されたのが縁の始まりです。

実際に撮ってみると、どこを切り取っても僕の好きな「昭和ノスタルジー」を感じるロケーションばかりで。それに何より、街の人たちの協力体制が凄まじかったんです。当時はまだフィルムコミッションが立ち上がったばかりでしたが、青年団も含めて応援してくれる体制にものすごく助けられました。街の魅力と人の温かさ、その両方があるからこそ、通い続けているんだと思います。

ただ……正直に言うと、最近はちょっと静岡の沼津に浮気し始めている自分もいます(笑)。『ミッシング』も蒲郡のシーンは4日間くらいで、実はほぼ沼津なんです。10月公開予定の『mentor』も沼津が舞台ですし。今は愛知と静岡、どちらの顔色もうかがいながら「どっちも大好きだよ」と言い訳しているような、二股男みたいな状態ですね(笑)。

画像1: 監督がタイトルに込めた「のりしろ」としての余白

──本作は『mentor』と二部作のような構造とのことですが、あえて「シリアス」と「ギャグ」という異なる視点でメンターを描き分けたのはなぜですか。 また、2作を通して描きたかったものとは何でしょうか。

実は、この映画こそが「mentor(メンター)」そのものなんですよ。一時は、今作のタイトルを『mentor』にしようか迷ったくらいですから。結局、次の方をそのタイトルにしましたが、あちらはメンターという存在をもう「いじり始めて」いるんです。

今作の『四月の余白』では、メンターという存在に対して僕がちゃんと真面目に向き合っています。でも、その先のステップとして、今度はメンターというもの自体が「だいぶ痛くないか?」と笑いたくなってしまった(笑)。

今作で何か問いを投げかけて、次の『mentor』でその答えを出しているというわけではありません。むしろあっちでは、もうふざけ始めています。真面目に考えることを超越して、「もはやそういう次元じゃないよ」というところまで突き抜けたものをやりたいなと思ったんです。

──『四月の余白』というタイトルには「新しいメンターと出会える余白」という意味が込められているとのことですが、監督自身にとって“余白”とはどのような時間や状態を指すのでしょうか。

先ほどもお話ししたように、一つの言葉に対して、その前提から疑ってみるような「のりしろ」のようなものですね。「人は変われるのか」というテーマがあるとして、そもそも「変わる」とは何なのか、自分はどの程度の位置にいて喋っているのか。そういったことを、もっと深く考えるための余裕というか。

例えば、「人の痛みがわかる・わからない」という二元論的な言葉の間に、本当は何があるのか。そもそも「共感」や「感受性」って一体何なのか。そういった、一つの言葉の定義をさらに広げて考えられるような状態ですね。

単にテーマを受け取るだけでなく、その周辺にあるものまで含めて思考を巡らせる。そういった「もっと考えられることがあるんじゃないか」という問いかけ自体が、僕にとっての“余白”の意味合いとして含まれています。

画像2: 監督がタイトルに込めた「のりしろ」としての余白

──これからご覧になる方に本作の見どころやメッセージをお願いします。

これ、何を見どころと言えばいいんでしょうね(笑)。言葉にするのはなかなか難しいです。

今の「令和」という時代は、いわゆる「Z世代」も含めて、すごくクリーンできっちりしすぎているというか、どこか窮屈なイメージを僕は持っています。この映画は、そんなクリーンな世界からはみ出した人たちの話です。でも、そもそも「クリーンであること」だけで人を語れるのかどうか、僕にはわからない。

今の時代が昭和から引き継げずに忘れてしまったもの、でも、どこかで「見ておいたほうがいいもの」がこの作品には詰まっている気がします。

とりあえず一度見てもらって、特に若い子たちや、その親世代の方々に見てほしいですね。この映画を見て何を感じるのか、僕自身も知りたいです。見どころは、見終わった後に自分なりの場所で、いろいろ見つかるんじゃないかなと思っています。

<PROFILE> 
吉田恵輔 ※吉田恵輔監督の吉は<つちよし>が正式表記。 
1975年生まれ、埼玉県出身。東京ビジュアルアーツ在学中から自主映画を制作する傍ら、塚本晋也監督作品の照明を担当。2006年、自主制作映画『なま夏』(06)で、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門のグランプリを受賞。同年、『机のなかみ』 で長編映画監督デビュー。2008年に小説「純喫茶磯辺」を発表し、自らの手で映画化。2021年公開の『BLUE/ブルー』、『空白』で、2021年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第34回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞で監督賞を受賞。『空白』は、第76回毎日映画コンクール・脚本賞、第43回ヨコハマ映画祭で作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞と4冠に輝いた。『さんかく』 (10)、『ばしゃ馬さんとビッグマウス』 (13)、『麦子さんと』 (13)、『犬猿』(18)、『神は見返りを求める』(22)などオリジナル脚本の作品を数多く手がけるほか、人気漫画を原作とした、『銀の匙 Silver Spoon』 (14)、『ヒメアノ〜ル』 (16)、『愛しのアイリーン』(18)などの話題作も監督している。

『四月の余白』2026年6月26日 新宿ピカデリーほか全国公開

画像: 2026年6月26日公開映画『四月の余白』本予告(60秒) www.youtube.com

2026年6月26日公開映画『四月の余白』本予告(60秒)

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<STORY> 
元半グレで元受刑者の過去を背負う西健吾は、海の見える地方都市で全寮制更生施設「みらいの里」を運営している。実体験を糧に道を踏み外しかけた子供たちを体当たりで指導するが、体罰も辞さない更生方針は教育関係者から批判されていた。ある時、中学教師の冬子から手に負えない生徒の海斗と、鑑別所帰りの悠について相談を受ける。2人に会った西は、一瞬で海斗の狂気を見抜いた。激しい家庭内暴力に疲れた母も息子を「みらいの里」に託すと決意するが、海斗は施設でも寮生とトラブルを起こして脱走。さらには傷害事件で逮捕されてしまった。  
西は海斗の父から責め立てられた。若い頃、西にリンチされ、左脚に障害が残ったというのだ。記憶のない過去と向き合う西にできる贖罪は、海斗を更生させることだけ。「ひとは変われる」と信じて新たな取り組みに踏み出すが――。

<STAFF&CAST> 
監督・脚本:吉田恵輔 
音楽:世武裕子 
出演:一ノ瀬ワタル、夏帆、上阪隼人、篠原 篤、占部房子、山﨑七海、和田 庵、髙田万作、松木大輔、小沢まゆ、パトリック・ハーラン 
配給:アークエンタテインメント 
© 2026 N.R.E.  
公式サイト:https://shigatsu-yohaku.com/

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