『あの花』の別れから、百合を「救済」する続編へ
──まずは本作の映画化が決定した際、最初に湧き上がった率直な感想を教えてください。
まさか続編まで映画化されるとは全く思っていなかったので、本当にびっくりしました。前作『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』は戦争を描くことがメインでしたが、今回の続編は内容が少し違って、特に原作の方は「現代の学生の恋愛もの」という形でしたので、まさかこちらも映画化されるとは……という驚きが大きかったです。
ただ、前作が映画化された時に、続編まで読んでくださっている読者の方や、映画をきっかけに続編を読んでくださった方から、「続編も映像化してほしい」というお手紙やコメントをたくさんいただいていたんです。ですから、そうやって応援してくださる読者の方々はきっと喜んでくれるだろうなと思い、その点はとても嬉しかったですね。
──前作「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」の最後に百合が、「あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。」に登場する涼と思われる少年と出会います。前作を執筆された段階で、すでに続編の執筆を念頭に入れていらっしゃったのでしょうか。
「あの花」を書き始めた時は、全然そこまで考えていませんでした。当時はまだデビュー前で、小説投稿サイトに1ページずつ書きながら更新していたのですが、読んでくださる方に学生さんがすごく多かったんです。書き進めるうちに、「死に別れで終わってしまうのは、中高生のような繊細な年代にとって、ちょっと重すぎるかな……」と思うようになりました。私は当時、教員をしていましたし、自分自身が学生時代、そういう終わり方の本を読むと結構引きずってしまうタイプだったので、もうちょっと明るい未来が見える終わり方のほうがいいなと思い直したんです。
読んでくれた方が読後にあまり引きずらずに済むように、書きながらちょっとずつ「生まれ変わりとして、形は違うけれど再会できる」という終わり方にシフトしていって、それで涼という転校生を出しました。ただ、書き終わって完結した時点では、すぐ「続編」を考えていたわけではなく、まずは「後日談」として書き始めたんです。
小説投稿サイトに書いたときは、確か5万字くらいのすごく短いお話でした。ネット小説だと、本編が終わった後に少し後日談を書くのが定番の流れとしてあったので、本編を読んでくれた方へのおまけ、マンガでいう「描き下ろしのおまけページ」のようなイメージで書いたものでした。彰がいなくなってしまったことにものすごくショックを受けている子にとって、その続きを読んでもらうことで、少しでも気持ちが軽くなればいいな、と思って考えたお話です。
その後、ありがたいことに「あの花」がTikTokでバズって、それに合わせる形でこの「あの星」の書籍化が決まりました。その際に、ネットで書いていた短いお話をガッツリ1冊分のボリュームに書き直そうということになって。2人が大学生になってからの話を盛り込んだり、それぞれの葛藤を丁寧に描き足したりして……その段階で、ようやく「続編」というつもりでしっかりと書き直しました。
──「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」は先生が幼い頃に知覧特攻平和会館に行かれ、二度と戦争を起こしてはいけないと思ったことが作品の核にあると文庫本のあとがきで知りました。本作ではどのような思いを伝えたかったのでしょうか。
今回は戦争そのもののことよりも、やはり「戦争のことを知った百合がどう変化して成長したか」、そして「その百合と出会ったことで、涼という少年がどう影響を受けていくか」という部分を大切に描きました。
原作の涼は、サッカー選手になりたいという夢を持っているのですが、親から色々と反対されて諦めようとしています。周りの環境や社会を気にして、自分の本当の気持ちを抑え込んでしまうという、割と現代の学生にありがちな葛藤を抱えている子なんです。そんな彼が、悲しみを乗り越えて成長した百合と出会うことで変化していく、一種の「青春物語」として書こうと思いました。読んでくれる年代の読者さんにとっても、きっとそういう等身大のお話のほうが身近に感じてもらえるんじゃないか、という思いもありましたね。ですから、中心となるテーマが前作とは少し違っているかもしれません。今、自分が生きている環境を最大限に生かして、どう生きていくかを考えるきっかけになればいいなと思っています。
あとは、百合に対する「救済」のような意味合いもありました。これは、私自身が大人になったからこそ、こういう形にできたのかなと思っています。
結構、10代の子って「運命的な恋をしたキャラクターには、ずっとその人のことを忘れずに生きていってほしい」と願うところがあるんですよね。だからこそ、続編で涼が出てきたことに対して「ちょっと嫌だった」という感想をいただくこともありました。
でも、自分が大人になって思うのは、悲しい過去を引きずったまま生きていくというのは、とても大変で寂しいことだなということです。次第に、百合を見守る親や、周りの大人たちのような目線になっていって、あんなに悲しい経験をした百合が、過去にちゃんとケリをつけて、再生して未来に向かって新しい人生を歩み出す……そういうお話にしたかったんです。
過去は過去として、大切な思い出として胸に抱きながらも、過去のためだけに生きるのではない。自分の人生や自分の未来というものも同じように大事にして生きてほしいなという、百合に対する祈りのような思いを込めて書きました。

──涼のキャラクター設定において、先生がこだわった部分はありますか。
今回、涼というキャラクターを描くうえで大きな軸になったのは、「もし彰が現代のような平和な時代に生まれていたら、どんな人になっていたのだろう」という発想でした。
彰は、生きた時代背景もあって、自分の本心や弱さをあまり外に出さず、どこかそれを押し殺して生きている人物でした。でも、そうした制約のない現代に生まれていたら、もっと素直に感情を表に出せる人になっていたのではないか、という思いがあって。
もちろん、根底にある優しさや強さ、思いやりといった部分は共通しています。ただ、現代という環境の中では、それがもう少し自然に表に出て、少し明るく、柔らかい印象の人物になるのではないかと考えました。
そういう意味で、涼は「現代に生まれた彰」のような存在として、イメージを膨らませながら作っていったキャラクターです。ぱっと見はまったく違うタイプに見えるかもしれませんが、その根っこの部分では、確かに同じものを持っていると思っています。

