やまもり三香の人気コミックを実写映画化した『うるわしの宵の月』。容姿端麗で「王子」と呼ばれる市村琥珀と滝口宵、二人の“王子”が出会い、不器用ながら少しずつ距離を縮めていく姿を描く。竹村謙太郎監督が目指したのは、マンガならではの華やかさを再現するだけではなく、その奥にある二人の「普通の人間としての揺れ」を丁寧に映し出すことだった。道枝駿佑と安斉星来が生み出した琥珀と宵の魅力、言葉をあえて削ぎ落とし、視線や仕草、触れるか触れないかという距離感で描いた二人の感情、そして本作に込めた“微熱”のような青春について、竹村監督に聞いた。(取材・文/ほりきみき)

安斉星来が作った「王子」から等身大の宵へ

──宵は容姿端麗でスマートな振る舞いから学校内外で「王子」と呼ばれていますが、恋愛に関しては初心者で、琥珀の言動に翻弄されていきます。安斉さんと宵の内面を作り上げていく際、どのようなことを話し合われましたか?

宵というキャラクター自体、本人は「自分は王子だ」なんて思っていなくて、周りからそう呼ばれるから期待に応えて「王子」を演じているようなところがありますよね。本質はすごく素直で等身大な女の子なんです。ただ、映画の冒頭ではまず“ファースト王子”としての格好よさや輝きをしっかり見せたいという思いがありました。スタイルも抜群ですし、女性から見ても思わず胸がキュンとするような佇まいを意識してもらいました。

──冒頭、電車の中で他校の女子高生に男の子と間違えられるシーンがありましたね。

現実にあんな格好いい男の子はなかなかいないだろうというレベルですよね(笑)。劇中でバスケットボールをするシーンがあるのですが、安斉さんは元々経験があったわけではないんです。でも「王子」として映る以上、単にバスケが上手いというだけでなく、ノールックパスを後ろ手でピュッと出せるくらいサマになってほしいとお願いして、かなり特訓してもらいました。格好いい動きを体得して見事に決めてくれたのは、彼女の頑張りの賜物ですね。

画像1: 安斉星来が作った「王子」から等身大の宵へ

──コミック原作の作品にはこれまでも「王子様タイプの女子」が登場することはありましたが、どこか孤高で近寄りがたい雰囲気を纏っていることが多かった印象があります。それに対して宵は、同級生の女の子たちに対して腰が低いというか、丁寧な受け答えをしていて、とても身近に感じられました。そのあたりの塩梅はどのように演出されたのでしょうか?

「演じ分けさせた」と言うと少し大げさですが、実は安斉さん自身の素の魅力が、そのまま宵というキャラクターにすごくぴったり重なっていたんです。サバサバとして男前な雰囲気がありつつも、決して気取らず、根がすごく真面目。カッコよく立ち振る舞いながらも、ふとした瞬間に考え込んで深く悩んでしまう…そんな繊細な部分も含めて、安斉さん自身と宵の波長がとても近かったんです。だからこそ、彼女には「深く考えすぎなくて大丈夫だよ」と伝えていました。

先ほどのお話と同じく、理屈で役を型にはめたり、「このシーンだからこういう感情にならなきゃ」と頭でっかちになる必要はない。現場で素直に感じたままの気持ちでお芝居をしてもらえれば、自然と魅力的な“宵”として画面に映し出されると信じていましたし、結果としてそれが観客の皆さんにも伝わる親しみやすさになったのだと思います。

──ビジュアル的に完璧な「王子様」である道枝さんと安斉さんに対して、リアルな人間らしさやギャップを引き出すために、どのような演出や工夫をされたのでしょうか?

お二人ともビジュアルの時点で「王子」として十分に美しくサマになっていたので、佇まいや見え方に関しては最初から何の心配もしていませんでした。

だからこそ演出として意識したのは、完璧に見える外見から、どれだけ「引き算」をして人間らしさを出せるかという点です。「そんなに気取った状態でいられないよね」「実は不器用で臆病なんだよ」という素の部分や弱さを、どうさらけ出してもらうかに注力しました。

安斉さんに関しては、物語の前半は「王子」として周囲の視線に対して警戒し、ドシッと構えている凛とした華やかさを見せつつ、琥珀と関わるにつれて少しずつ鎧が脱げて、等身大の「普通の女の子」になっていく心の変化を意識して演出していきました。

一方、道枝くんに関しては、最初はミステリアスで不思議な魅力を持つ王子様として登場しますが、途中からは「ポンコツ」をひとつのキーワードにしていたんです(笑)。現場でも「もうちょっとポンコツでいいんじゃない?」「かっこ悪い部分を出していいよ」と伝えていました。完璧に見える琥珀が、宵の前では焦ったり、カッコつかなかったりする。そのギャップを道枝くんがすごくチャーミングに演じてくれたので、結果として二人の素顔の可愛らしさが際立つ良いバランスになったと思っています。

画像2: 安斉星来が作った「王子」から等身大の宵へ

セリフを削り、視線と距離感で描く二人の感情

──本作では、言葉で多くを語るよりも「視線」や「表情の微かな揺らぎ」、「触れるか触れないかの指先」といった細部から感情が雄弁に伝わってくる場面がとても印象的でした。そうした繊細なお芝居はどのように演出されたのでしょうか?

最初の脚本づくりの段階から「セリフで説明しすぎないようにしよう」ということは意識していました。登場人物たちの感情や“気持ちの現在地”を言葉で語らせるのではなく、エピソードや出来事を通して観客の皆さんに感じ取ってもらいたかったんです。

さらに実際の撮影現場や編集の段階でも、脚本に残していた言葉を「やっぱり削ろう」と引いていきました。「このお芝居があればセリフはなくても伝わるよね」「あえて言わない方が効果的だよね」と判断した部分は思い切ってカットしていったんです。

今作には心の声を伝えるモノローグも存在するのですが、あえてモノローグを入れないことで「いま、どっちの気持ちなんだろう?」「なぜドキドキしているんだろう?」と観客の想像力を掻き立てる表現を目指しました。言葉を削ぎ落とした分だけ、二人の『間(ま)』や一瞬の目線の交錯、指先が触れ合うか触れ合わないかといった繊細な一瞬一瞬を画面の中に残していくことができたと感じています。

──宵が図書館から教室に戻る際、周囲を気にして「じゃっ」と小さく手を挙げて琥珀に挨拶するシーンがありました。琥珀だけでなく(大倉空人さん演じる)仙太郎もときめいていましたが、あの宵の初々しさと可愛らしさがとても印象に残っています。

あのシーンも安斉さんが本当にチャーミングに演じてくれましたね。ロケーションとしても実際の図書館をお借りして撮影していたのですが、当然「静かにしなきゃいけない場所」なわけです。エキストラの皆さんにも「声を出せない場所だからね」と伝えて撮影を進めていく中で、キャスト陣も自然と周囲を気遣うような空気感になっていきました。そうした現場のリアルな状況も相まって、あのような「声を潜めて小さく手を挙げる」という自然で可愛らしい仕草が生まれたんだと思います。モニター越しに観ていて、僕自身も思わずドキッとしてしまいましたね(笑)。

画像1: セリフを削り、視線と距離感で描く二人の感情

──宵から「ちゃんと好きって言われてないですから」と言われた直後の、琥珀の表情や視線の微かな揺らぎも非常に印象的でした。

あのシーンも、元の脚本には琥珀の気持ちを説明するようなセリフがいくつか書かれていたんです。ただ、そこもあえて言わせない表現を選びました。「セリフに頼らず、琥珀が今どれだけ心が揺れていて、どれほどのショックを受けているのかを表情だけで表現してみてほしい」と道枝くんに委ねて撮影した部分ですね。

琥珀がどう受け止め、この後ふたりの関係がどう動いていくのか──あえて言葉で答えを出さないことで、観客の皆さんそれぞれに「この時の琥珀の心境」を感じ取り、自由に判断してもらえたらいいなという思いがありました。言葉がないからこそ、彼の眼差しや表情の揺らぎがより一層深く届くシーンになったと感じています。

──先ほどお話しいただいた「セリフや要素を削ぎ落としていった」というのは、まさにその「ちゃんと好きって言われてないですから」のシーンにも通じる演出だったのですね。

まさにそうなんです。映画1本の尺の中に収めるという理由だけでなく、全体のバランスを見て削いでいった部分がいくつかありました。例えば図書館のシーンでも、撮影現場では声にならないようなやり取りを実際に少し演じてもらっていたんです。でも編集でそれらを大胆に削ぎ落としていった結果、二人の関係性や感情の動きがより研ぎ澄まされて届くようになりました。

一方で、物語のキーとなるシーン……例えば、二人の距離が急接近してふいに触れ合ったり、お姫様抱っこをしたり、ギュッと抱きしめ合ったりするような、物理的に大きく距離が縮まる大事なシーンについては、クランクイン前の段階で事前にしっかりとリハーサルを行いました。

「この二人の関係性なら、どのくらいの距離感で近づくのが自然か」「どういう抱きしめ方ならしっくりくるか」といったことを、実際に動いて検証しながら二人と一緒に作っていったんです。事前にそうして二人の“距離感のベース”を掴めていたことが、現場でセリフを削ぎ落としても成立する絶妙な空気感に繋がったのかもしれません。

画像2: セリフを削り、視線と距離感で描く二人の感情

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