やまもり三香の人気コミックを実写映画化した『うるわしの宵の月』。容姿端麗で「王子」と呼ばれる市村琥珀と滝口宵、二人の“王子”が出会い、不器用ながら少しずつ距離を縮めていく姿を描く。竹村謙太郎監督が目指したのは、マンガならではの華やかさを再現するだけではなく、その奥にある二人の「普通の人間としての揺れ」を丁寧に映し出すことだった。道枝駿佑と安斉星来が生み出した琥珀と宵の魅力、言葉をあえて削ぎ落とし、視線や仕草、触れるか触れないかという距離感で描いた二人の感情、そして本作に込めた“微熱”のような青春について、竹村監督に聞いた。(取材・文/ほりきみき)

二人の芝居から生まれた、予想を超える感情

──「ここは自分が演出したというより、二人のリアルなお芝居や感情によって引き出された」と感じた印象的な場面があれば教えてください。

そうですね。個人的にすごく好きなのは、物語の中盤にある夏祭りのシーンです。出会いを経て、お互いの素直な気持ちやもどかしさを打ち明け合う大切な場面なのですが、本編の安斉さんはかなり感極まって涙ぐんでいるんですよね。

実を言うと、僕としては当初「ここはあえて泣かなくてもいいのかな」とも思っていたんです。ですが、実際にカメラを回していく中で、二人の中に積み重なっていたもどかしさや感情が自然と溢れ出してきて……。そこまで感情が極まるとは思っていなかったので、良い意味で裏切られましたね。

ずっと気持ちを我慢して抑えていた分、あの瞬間に感情が溢れ出たのがすごく効果的に効いていて、個人的にも大好きなシーンになりました。

それから、神戸のロケでの夜のシーンもそうですね。宵から「ハグしてほしい」と求めるような場面でも、それまでの我慢や葛藤があるからこそ、ふとした瞬間にこぼれ出る感情がすごく愛おしく見えてくる。そして、それを受け止める道枝くんの表情がまたすごくチャーミングで可愛らしかったんです。あの空気感や感情の温度は、まさに二人のリアルなお芝居によって作り出されたものだなと感じています。

画像1: 二人の芝居から生まれた、予想を超える感情

──道枝さんは映画単独主演を重ねられ、俳優として目覚ましい活躍をされていますが、撮影現場で見せた座長としての振る舞いや、お芝居に対する向き合い方で感銘を受けたエピソードはありますか?

彼は「俺が現場を引っ張るぞ!」と前に出るような、オラオラ型の座長タイプではないんですよね。どちらかと言うと静かに現場に佇み、自分がやるべき準備を黙々と完璧にこなしてカメラの前に立つタイプです。ただ、彼が持っているお芝居への集中力や佇まいには、周りのキャストやスタッフを自然と巻き込んで、現場全体を動かしていく確かなパワーがあるんです。ご本人は「自分はまだ座長として慣れていない」と感じている部分もあったのかもしれませんが、監督の目から見ると、若き座長として非常に頼もしく、安心して現場を任せられる存在でした。

──今後、道枝さんと再びタッグを組む機会があるとしたら「こんな役を演じてほしい」と思われるようなイメージはありますか?

何でもこなせてしまうポテンシャルがある方なので、いろいろな役を見てみたいですね。ただ、個人的には素の“関西弁の道枝くん”がすごく好きでして(笑)。関西弁でお話しされている時って、世間が持っているクールなイメージとはまた違った一面が覗いて、すごくチャーミングなんですよね。だから、関西弁で周囲と賑やかにわちゃわちゃ掛け合いをするようなキャラクターも見てみたいなと思います。

あるいはその真逆で、言葉をいっさい発しない無口な役……例えば殺し屋のような、まったく喋らないミステリアスな役柄も面白そうです。普段のイメージとはひと味違う、そうした両極端な道枝くんの姿をどちらも見てみたいですね。

画像2: 二人の芝居から生まれた、予想を超える感情

──では安斉さんはいかがですか?

安斉さんですか。宵役としての印象があまりに強烈に残っているのでパッと想像するのが難しいところもありますが(笑)。でも彼女って、実は「関西弁ノリの明るいおばちゃん」みたいな気さくで朗らかな一面もあるんですよね。だからこそ、そうした素の親しみやすさと、彼女自身が持っているスタイリッシュでクールなビジュアルとの“ギャップ”を活かした役柄を演じてもらえたら、すごく面白いんじゃないかなと思います。

画像3: 二人の芝居から生まれた、予想を超える感情

「自分は自分のままでいい」──二人が届けるメッセージ

──「周りから見られる自分(王子像)」と「本当の自分」とのギャップに葛藤する琥珀と宵の姿を通じて、観客の皆さんに一番伝えたいメッセージは何ですか?

まさにそこが今作の大きなテーマですよね。「周囲や他人からどう見られているか」という自分と、「本当の自分」との間に抱くギャップです。主人公の二人も「自分は本当はそんな人間じゃない」と否定しながら葛藤していますが、そんな時に「そんなことないよ」「ありのままで素敵だよ」と、本当の自分を理解して寄り添ってくれる存在が現れる。他人の目ばかりを気にするのではなく、「素直に自分のままでいていいんだよ」と思えるようになっていくストーリーなんです。現代はSNSなどの影響もあり、良くも悪くも「他人からどう見られるか」を強く意識してしまう人が多い時代だと思います。だからこそ、「無理に飾らなくても、素直な自分、本当の自分のままでいていいんだよ」というメッセージが、まっすぐに届く作品になっているのではないでしょうか。周りから色々と評価されたり言われたりすることもあるかもしれないけれど、本当の自分を分かってくれる人は必ずいる。だから「自分は自分のままで大丈夫」と思ってもらえたら嬉しいですし、観てくださる方々にもとても伝わりやすいテーマになっていると感じています。

画像1: 「自分は自分のままでいい」──二人が届けるメッセージ

──竹村監督ご自身にとって、本作『うるわしの宵の月』はこれまでの監督キャリアの中でどのような位置づけの作品になりましたか?

最初にもお話しした通り、実写化にあたって非常に難しさを感じていた作品でした。ただ、いわゆる「キラキラした王子様が登場する少女マンガ」という枠組みとは一線を画す作品構造になっていたので、僕は今作を「地に足のついた一編の人間ドラマ」として真摯に撮ろうと決めていたんです。「少女マンガの実写化」というジャンルに対して、映画として真面目に人間を描くとはどういうことなのか──そこを深く突き詰めて表現したつもりです。だからこそ、ひとくくりにされがちな「少女マンガもの」「キラキラ映画」とは、少し異なる質感の作品に仕上がっているのではないかという自負があります。

ドラマを演出する際も「人を撮る」「人間の感情を伝える」という根本の姿勢は変わりません。ただ今作においては、感情の温度が急激に上昇してハイテンションになるのではなく、平熱より「0.5度」だけ上がっているような、どこか熱っぽくて心地よい揺らぎや愛おしさを表現したかったんです。若い観客の皆さんには「カッコいい」「可愛い」というトキメキだけでなく、「少し熱っぽいけれど、これって恋なのかな?」と戸惑いながら葛藤するその“微熱感”やぬくもりを感じてほしいですし、僕と同世代の大人が観ても「そういう甘酸っぱい気持ちってあったよね」と深く共感していただけるはずです。そうした微熱感を作品全体に漂わせる表現に挑戦できたという意味でも、これまでの少女マンガ原作映画とは一味違う、特別な一作になったと感じています。

画像2: 「自分は自分のままでいい」──二人が届けるメッセージ

<PROFILE> 
監督:竹村謙太郎 
「インビジブル」(2022/TBS)、「西園寺さんは家事をしない」(2024/TBS)、「対岸の家事~これが、私の生きる道!~」(2025/TBS)ではチーフ演出を務め、「中学聖日記」(2018/TBS)、「アンナチュラル」(2018/TBS)、「MIU404」(2020/TBS)、「トリリオンゲーム」(2023/TBS)など多数の作品に演出参加。2023年公開の『交換ウソ日記』で映画初監督。

『うるわしの宵の月』2026年10月23日(金)公開

画像: 『うるわしの宵の月』主題歌入り予告│2026年10月23日(金)公開 www.youtube.com

『うるわしの宵の月』主題歌入り予告│2026年10月23日(金)公開

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<STORY> 
滝口宵は、容姿端麗・スマートな「王子」と呼ばれる女子。でも内心では、その完璧な王子様像に複雑な思いを抱いていた。そんなとき突然出会ったのは、完璧なルックスを誇る高校一のイケメンで、同じく「王子」と呼ばれる一つ上の先輩、市村琥珀。  
「あんた、めちゃくちゃ美しいな」  
<一見チャラそうに見える琥珀先輩だが、彼は宵の心に真っ直ぐな言葉をぶつけてくる。琥珀先輩の強引なアプローチで2人は付き合うことになるが・・・。

<STAFF&CAST> 
原作:やまもり三香『うるわしの宵の月』(講談社「デザート」所載)  
出演:道枝駿佑、安斉星来、水沢林太郎、星乃夢奈、 鈴川紗由、大倉空人、阿佐辰美、与田祐希、藤木直人 
監督:竹村謙太郎
脚本:徳永友一  
音楽:兼松衆  
配給:東宝  
©2026映画『うるわしの宵の月』製作委員会 ©やまもり三香/講談社 

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