2000年代の戦争映画でブレイクした俳優たち
さて、それでは2000年代に入ってからどんなスターが戦争映画をきっかけにステップアップしていったかを見てみよう。
コリン・ファレル
「ジャスティス」のコリン・ファレル(左)。公開当時のチラシには“ 新鋭” と記されていた
ベトナム出兵前の兵士の姿をジョエル・シュマッカー監督が描いた「タイガーランド」(2000)はコリン・ファレルが主演したが、彼はその後も第二次大戦の捕虜収容所を舞台にしたブルース・ウィリス主演の「ジャスティス」(2002)や「戦場カメラマン 真実の証明」(2009・日本はDVD公開)といった戦争関連の作品に出ており、主演作を連発するようなスターに成長した。
ジョシュ・ハートネット
「パール・ハーバー」「ブラックホーク・ダウン」(写真)と相次いで戦争映画に主演した
リドリー・スコット監督がソマリア内戦に軍事介入した米軍の作戦で起こる悲劇を描いた「ブラックホーク・ダウン」(2001)はジョシュ・ハートネットが主演。この作品ではトム・ハーディとニコライ・コスター=ワルドーがハリウッド・デビューしていることも忘れてはいけない。ハートネットは同じ年に第二次大戦開戦の様子を描いた「パール・ハーバー」(2001)にも出演している。
朝鮮戦争を舞台にしているのはチャン・ドンゴンとウォンビンが主演した「ブラザーフッド」(2004)。ドンゴンはこの作品以降、チェン・カイコー監督の「PROMⅠSE/プロミス」(2005)のような大作に出たり異色西部劇「決闘の大地で」(2010)でハリウッドに進出するようになった。
チャン・ドンゴン&ウォンビン
両者それぞれのターニングポイントとなった「ブラザーフッド」
また、ウォンビンはそれまで主にTVで活躍していたのだが、これを機にポン・ジュノ監督の「母なる証明」(2009)、サスペンス・アクション「アジョシ」(2010)と映画に軸足を移していった。「1917」のサム・メンデス監督が湾岸戦争を舞台に米海兵隊員の姿をほぼ戦闘シーンなしで描いた「ジャーヘッド」(2005)に主演したジェイク・ギレンホールも、この後「ブロークバック・マウンテン」(2005)でオスカー候補になり演技派として認められていった。
ジェイク・ギレンホール
「ジャーヘッド」の主演を経て、オスカー候補になったギレンホール。本作で見事な肉体美も披露している
少女の嘘が悲劇を呼び起こした「つぐない」(2007)で最前線に送られる兵士となったジェームズ・マカヴォイは、この作品でゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞の候補となって演技力を認められ、「ラブストーリーズ」二部作(2013)のような文芸的作品から「X–MEN」シリーズのようなブロックバスターまで、幅広い作品に起用されるようになった。
ジェームズ・マカヴォイ
ある一つの嘘から人生を狂わされる青年を繊細に演じた「つぐない」で、その名を世界に広めた
アカデミー賞で作品・監督賞などに輝いた「ハート・ロッカー」(2008)に主演したジェレミー・レナーは自身も初の主演男優賞ノミネートとなり、「アベンジャーズ」や「ミッション:インポッシブル」といった人気シリーズにも起用されるようになっていった。この「ハート・ロッカー」には、後にMCUで共演するアンソニー・マッキーも出ていた。
ジェレミー・レナ―
自身初のオスカー候補にもなった「ハート・ロッカー」への出演が「アベンジャーズ」など大作への足掛かりに
スティーヴン・スピルバーグ監督の「戦火の馬」(2011)で主演に抜擢されたジェレミー・アーヴァインは、この後「追撃者」(2014)「ストーンウォール」(2015)などを経て「マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー」(2018)「ビリオネア・ボーイズ・クラブ」(2018)といった話題作に出演している。
ちなみに「戦火の馬」にはブレーク直後のベネディクト・カンバーバッチ、トム・ヒドルストンも出ているのでお忘れなく。
「パーシー・ジャクソン」二部作(2010、2013)などのボーイズ・スターだったローガン・ラーマンも、ブラッド・ピット主演の第二次大戦ドラマ「フューリー」(2014)に新たに配属された戦車兵役で出演、一皮剥けた魅力を見せた。
ローガン・ラーマン
ブラッド・ピットと共演した「フューリー」では日々成長する戦車兵として、新たな一面を見せた
エル・ファニングと共演したサスペンス「シドニー・ホールの失踪」(2017・日本はDVD公開)では製作にも進出、最近はTVシリーズ「ナチ・ハンターズ」(2020)でアル・パチーノ、レナ・オリンらと共演している。
アカデミー賞二度受賞のマハーシャラ・アリも、マシュー・マコノヒー主演の南北戦争が舞台のドラマ「ニュートン・ナイト 自由の旗を掲げた男」(2016)に出演して注目され、この後は続けて「ムーンライト」(2016)「ドリーム」(2016)「グリーンブック」(2018)と一気に花開いていった。
マハ―シャラ・アリ
「グリーンブック」の気品あふれるピアニスト役がハマっていたアリ。「ニュートン・ナイト」でも気高い魂を持つ逃亡奴隷を存在感たっぷりに演じた
アン・リー監督作なのになぜか日本では劇場未公開でDVDスルーだった「ビリー・リンの永遠の一日」(2016)で主演に抜擢されたジョー・アルウィンは、以後「女王陛下のお気に入り」「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」「ある少年の告白」(いずれも2018)「ハリエット」(2019)と話題作に立て続けに出演している。こうして見ると、やはり戦争映画は若手ブレイクのかっこうのテーマと言えるだろう。