“明るいことが おそろしい”という従来のホラーの歴史を覆す斬新さで、ロングランを記録した「ミッドサマー」が、いよいよブルーレイ&DVDで発売されます。監督のアリ・アスターは前作「へレディタリー 継承」で衝撃の長編デビューを飾り、現代ホラーの旗手として今もっとも注目を集める存在。「ミッドサマー」に夢中になったアナタ、「へレディタリー」も合わせて鑑賞することでよりアスター監督を理解することができるはず。SCREENでおなじみ塩田時敏先生の解説のもと、その理由を探ってみましょう。(文・塩田時敏/デジタル編集・スクリーン編集部)

一部ネタバレを含みますのでご注意ください!

アリ・アスター監督

1986年7月15日、ニューヨーク出身の34歳。2011年から7本の短編を発表し、2018年に「へレディタリー」で長編デビュー。2020年1月には「ミッドサマー」のPRで初来日を果たし、にこやかな笑顔を振りまいてくれた。次回作は4時間を超える“ナイトメア・コメディー”になるのだそう。

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「ミッドサマー」とはホラー的な怖さがないホラー映画である

闇の恐怖という常識を覆し、明るい陽ざしのホラーとしてヒットした「ミッドサマー」。ご覧になった方も多いでしょう。だがしかし、狭義の意味あいで「ミッドサマー」はホラーではない。これは監督のアリ・アスター自身も発言している。その趣旨は〝ホラーには収まりきらない上質な作品〞的な自負なのだろうが、そもそも「ミッドサマー」は怖くないのだ。

画像: 「ミッドサマー」とはホラー的な怖さがないホラー映画である

確かに「ミッドサマー」にも、72歳になり崖から飛び降りた老人が死にきれないと、村人たちがハンマーを手に手に、頭部粉砕の手助けをする、という衝撃のスプラッター場面もある。そもそもが、〝能天気な若い衆が田舎に入り込んだら、エライ目に遭ったとさ〞(この場合ならアメリカの大学生たちが、スウェーデンのホルガ村の夏至祭で災難に見舞われる)、というホラーのクリシェに則っている。ホラーで間違いないのだが、しかしホラーな怖さがない。

画像: ホラーのクリシェにのっとってスウェーデンの小さな村にやってきたのんきな若者たち。でもこの後、彼らは予想のはるか斜め上にいきます…

ホラーのクリシェにのっとってスウェーデンの小さな村にやってきたのんきな若者たち。でもこの後、彼らは予想のはるか斜め上にいきます…

怖くはないが、その代わり物凄く不気味で、薄気味が悪い。思えば、アリ・アスター監督のデビュー作「ヘレディタリー 継承」もそんなホラーだった。この作品を現代ホラーの頂点と見る向きもあるが、果たしてそうか。「ヘレディタリー」もホラーというよりホームドラマである。それもとびきり嫌〜な味わいの。

「へレディタリー」とは不気味で嫌らしき味わいのホームドラマである

とにかく表情が不気味な「へレディタリー」の登場人物。母親役のトニ・コレットはもちろん、息子(アレックス・ウルフ)と娘(ミリー・シャピロ)も負けていません!

祖母が他界し、残された一家四人に次々と呪いの如き災難が降りかかる。フォーマットはホラーだ。演出の端々にも名作ホラーへのオマージュが匂う。確とは見せず、一瞬何かが画面をよぎる。うむ、Jホラーの影響も強そうだ。

だがしかし、浮かび上がってくるのは奇妙な人間関係、歪に壊れた家族関係なのである。また、役者の表情が揃いも揃って不気味で、明らかに狙ってキャスティングしている。見るからに薄気味悪い。

演出力も画作りも抜群に上手い。土中に下ろされる棺に合わせ、カメラが下に沈んだり、疾走する車に合わせ、横にパンするカメラが突然、電柱を画面の真ん中にして止まったり。後にこの電柱が、兄の運転する車で妹が首を撥ねられてしまう伏線なのだが、嫌〜な雰囲気の熟成の仕方が並ではない。妹が小鳥の首を切ったり、母が自らの首に糸鋸を当てて引いたり、伏線が幾重にも錯綜する。

嫌な描写を見せられているのに、なぜか最後まで目が離せないのもアリ・アスター作品あるある

精神を病んでいる母は、治療も兼ねて自宅のミニチュアを作っているのだが、映画は冒頭、そのミニチュアにカメラが寄ると、中のミニチュアドールが実際の人間になって動き始める、という映画史に残る名ショットから始まる。まさに人形の家か。家族間の憎悪は観客の心も逆撫でするのだ。

嫌なものを見せられてるなぁと、途中で投げ出したくもなるが、しかしそうはさせない作品の強さに引かれラストに至ると、兄は地獄の魔王ペイモンに祀り上げられるという、予想だにしない結末が待ち受けている。

家庭のメタファーとしてのミニチュアから、リアルな家庭のドラマへと突入し、再びミニチュアの中で繰り広げられるカルト邪教の儀式。見事な構造と展開である。この作品にはアスター監督の実際の家族に対するトラウマが反映されているそうで、成る程単純に怖がらせるだけの映画ではなく、その根深さが観客を悪寒させる、嫌らしき作品の奥深さだ。

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