プロフィール:
クリストファー・ノーラン監督
「インセプション」(2010)「インターステラー」(2014)「ダークナイト」(2008)など作家性と娯楽性を兼ね備えた話題作を次々に生み出し、“今最も次回作が待たれる”といわれる名匠。新作「TENET」は「ダンケルク」(2017)以来3年ぶりの監督作品となる。1970年7月30日生まれの50歳。
プロフィール:
ジョン・デヴィッド・ワシントン
アカデミー賞作品賞を含む6部門でノミネートされた『ブラック・クランズマン』で映画単独初主演を果たし、脚光を浴びる。2012年までプロアメリカンフットボール選手として活躍し、俳優に転身。父親は名優デンゼル・ワシントン。1984年7月28日生まれの36歳。
プロフィール:
ロバート・パティンソン
「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」(2005)のセドリック役で注目を浴び、「トワイライト」(2008)シリーズで一躍スターダムへ。Netflix映画「悪魔はいつもそこに」がこの9月に配信開始され、2021年公開予定の『ザ・バットマン』で新バットマンに決定している。1986年5月13日生まれの34歳。
できないなんてあり得ないレベルまで練習するのがプロの仕事
クリストファー・ノーラン監督
ジョン・デヴィッドは、「主人公」のことをどう解釈してた?本読みを聞いたとき、私がこの作品に必要だと感じたものと正確に波長が合っていると感じたけど。
ジョン・デヴィッド・ワシントン
最初に脚本を読んだとき、さまざまな意味で“主人公”が観客だということに心を奪われた。彼が歩んでいく道のりは、観客も体験する道のりだと思ったよ。「主人公」には「人類はきっと前進できる」という信念があり、その前進のためなら自らの命を犠牲にしても良いとさえ思っているのだと思う。
それがまさに彼のTENET(信条)と原動力で、そこを買われて若い頃にスカウトされたんだろうね。その優しさこそが彼の強み。そういうことを意識しながら演じたよ。ただし、あのシーンは除いて。
ロバート・パティンソン
一緒にバンジーしたときだよね。
ジョン・デヴィッド・ワシントン
そうそう。ムンバイのシーンね。つりあげられ、バンジーで逃げるっていう。じつは高所恐怖症で、バンジージャンプなんて「は?」って感じだった。僕は基本的に監督の言うことに従順なんだけど、あの時はそう簡単に言う通りに動けなかったんだ。
クリストファー・ノーラン監督
高い所が苦手とは知らなかったよ。僕が出した指示に従ってくれていないだけと誤解してた。
ジョン・デヴィッド・ワシントン
たとえば、「乗馬できるか?」と聞かれたら「できるさ」と答えるのが俳優だと思ってるから。あとはやるのみ。あのシーンでは、クリスは辛抱強く付き合ってくれたよね。クリスにもロブにもとても感謝している。
ロバート・パティンソン
難しいアクションの撮影がたくさんあったけど、君はいつも前向きでさ。しかも正真正銘のアスリートだもんね。本物のアスリートであるだけでなく、真のアスリート・メンタリティがあるので、道を走り抜けていると、彼は自分の能力を最大限に使って、毎テイクごと、リハーサルをやるたびに毎回、何度も繰り返し全速力で走るんだ。
それに比べて僕ときたら、ソファでゴロゴロしたり、休暇にでかけたりするための34歳って感じ(笑)。今までで肉体的にダントツで最も大変だったと感じていたけど、本作の後は、すぐに『ザ・バットマン』の撮影が始まることになっているんだよね……。10歳も老けたんじゃないかと本当に思うよ。そう感じるんだ(笑)。共演者がジョン・デヴィッドでよかった。最高だったよ。
ジョン・デヴィッド・ワシントン
僕の方こそ。ロブの仕事の仕方を尊敬してたよ。現場ではほとんど演技の話をせず、撮影に関しては成り行きと脚本に書かれていたことに身を任せていたよね。だから、演技のなかで発生するニュアンスや驚きはその都度受け入れて、流れのまま演技を続ければよかったんだ。
自発性、アドリブ能力が素晴らしいし、僕にとって積極的で惜しみないパートナーだった。どの方向に行くのか分からない分、余計に楽しかったよ。良い意味で限界がないんだ。
まるで電話ボックスに押し込められているようだなどと感じることはなく、荒野にいるので、どこに向かって放浪しても良いのだと思えて嬉しかった。もちろんクリスに、「さあ、そろそろ戻ってくるように」と言われるまでは、ね(笑)。その点で、ロブは最高のパートナーだったよ。
クリストファー・ノーラン監督
肉体的にも精神的にも相当な訓練を積んでもらったし、物理的ルールが違ったから苦労したと思う。頭でルールを学ぶことで物事を思い浮かべられるはずだ、という既存の考え方が通用しない作品だからね。
だから全員、気を張り詰めていなければならなかったし、直感的には動けない。俳優とスタントチームはコンセプトを理解したうえで、演技やスタントの出来栄えや筋道を自分で確認する手順を作り上げる必要があったね。
ジョン・デヴィッド・ワシントン
撮影前にフィジカルなトレーニングをすることは普段通りの作業だったけど、なにせ動きのルールがね(笑)。まるでクリストファー・ノーラン・ユニバーシティに通うかのような準備期間だったよ。僕はアメフトの選手だったので、動きが体に染み込むまで練習を繰り返すことには慣れている。
でも、「できるようになるまで練習するのがアマチュアだけど、できないなんてあり得ないレベルまで練習するのがプロ」とはよく言ったもんで、この作品ではプロの仕事をするためにスタントチームとの練習が数ヶ月間もあったんだよ。
何も考えずに反応できるようになるまで、とにかく何度も訓練を重ねるんだ。自分の身体ならできるとわかってたんだけど、来る日も来る日も繰り返し練習することにさすがに疲弊したよね。でも、そうやって動きを徹底的に作り上げることができたので、撮影は臨機応変に対応することができたんだ。
また、肉体的な適応力を身に着けることが、“主人公”について深く知ることにつながっていった。この作品では、身体の外側から取り組むことが、役作りの大きな助けになったから、このハードなトレーニングから始めるアプローチ自体は正解だったね。