カバー画像:『ミナリ』 ©2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.
主要部門の本命と対抗は?
コロナ禍の影響により、多くの新作が公開延期となった2020年。そんな特殊な年に、限定公開されたり、配信公開された作品が競うことになった第93回アカデミー賞だが、いろいろな意味で異例ともいえるノミネーションが発表された。
そのリストを眺めてみると、従来のアカデミー賞の「当たり前」が通用しないターニングポイントに来ていることが感じ取れるだろう。本番まであと一か月弱となった現時点で今回の主要部門受賞予想を立ててみよう。
まず作品賞だが本命とされているのは『ノマドランド』。アメリカの遊牧民「ノマド」と呼ばれる人々の生きざまにスポットを当てた本作はあらゆる方向から現代社会の問題点、人間が一人で生きるという苦難などを美しい自然の風景と共に描いてまさにタイムリー。
これを猛追するのがA24とプランBが作り上げた新たな秀作『ミナリ』だ。米国移住した韓国人一家の物語を監督の実体験を基に描き、普遍的な感動を呼ぶ。『Mank/マンク』『シカゴ7裁判』などを送りこんだ配信系Netflix 作品の受賞は今回も難しいかも?
監督賞も『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督が最有力。対抗も『ミナリ』のリー・アイザック・チョン監督で、いずれにしてもアジア系監督としてアン・リー監督に続く2例目、ジャオ監督受賞であれば女性監督としても2例目、アジア人女性監督としては史上初という快挙になるかもしれない。
主演男優賞は『マ・レイニーのブラックボトム』のチャドウィック・ボーズマンが本命とされている。昨年急逝した彼が受賞するのは名優追悼の意味でも、黒人俳優への差別問題を回避するうえでも最も納得できる選択と言えそうだ。
対抗とされているのは『ファーザー』でこの部門では最高齢候補となったアンソニー・ホプキンス。記憶を失くしていく老父役は特筆ものの名演技と評判だ。
また主演女優賞は混戦。一応本命は『マ・レイニーのブラックボトム』のヴィオラ・デイヴィスとされている。これは彼女がオスカーを占う全米俳優組合賞で同賞を受賞したため。彼女は情熱的なブルース歌手を貫禄たっぷりに演じている。
対抗は『プロミシング・ヤング・ウーマン』)のキャリー・マリガンと『ノマドランド』のフランシス・マクドーマンドが挙げられる。
キャリーは昼と夜で全く違う顔を持つ女を持てる力の限りに演じ、フランシスはノマドとして生きる中年女性をリアルに好演。ゴールデングローブ賞で受賞したアンドラ・デイ(『The United Statesvs. Billie Holiday』(原題))も含めて誰に転がっても不思議はないかも。
部門 | 受賞予想 | 対抗作品 |
---|---|---|
作品賞 監督賞 | 『ノマドランド』 | 『ミナリ』 |
主演男優賞 | チャドウィック・ボーズマン | アンソニー・ホプキンス |
主演女優賞 | ヴィオラ・デイヴィス | キャリー・マリガン フランシス・マクドーマンド |
助演男優賞 | ダニエル・カルーヤ | サシャ・バロン・コーエン レスリー・オドム・Jr. |
助演女優賞 | ヨン・ユジョン | オリヴィア・コ-ルマン |
歴史的なセレモニーになる可能性も
助演男優賞部門ではゴールデングローブ賞でも受賞した『Judas and theBlack Messiah』(原題)のダニエル・カルーヤが本命視されている。
次いでGG賞では『続・ボラット…』で主演賞を受賞した『シカゴ7裁判』のサシャ・バロン・コーエンと、最初に本命と言われていた『あの夜、マイアミで』のレスリー・オドム・Jr.が並ぶ。
助演女優賞も最初は『Mank/マンク』のアマンダ・サイフリッドが最有力視されていたが、様子が変って『ミナリ』のおばあちゃん役ヨン・ユジョンが入れ替わり本命に。対抗には『ファーザー』の娘役オリヴィア・コールマンの名が挙がっている。
このように転がり様によっては監督・演技部門をすべて非白人が席巻する可能性もありうるのが、今回のアカデミー賞最大の特徴。配信系作品がどれだけ受賞数を重ねるかも見どころ。授賞式の様式も例年と変わった方式を取ることもあり、まさに歴史的転換セレモニーになりそうだ。
ちなみに国際長編映画賞ではマッツ・ミケルセン主演、トマス・ヴィンターベア(監督賞候補)コンビの『アナザーラウンド』が、長編アニメーション部門ではディズニープラスで配信公開された『ソウルフル・ワールド』が本命とされているのでこれらも注目したい。
第93回アカデミー賞 全23部門ノミネーションリスト
作品賞
『ノマドランド』
『ミナリ』
『ファーザー』
『Mank /マンク』
『シカゴ7裁判』
『サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~』
『プロミシング・ヤング・ウーマン』
『Judas and the Black Messiah』
監督賞
トマス・ヴィンターベア( 『アナザーラウンド』)
デヴィッド・フィンチャー( 『Mank /マンク』)
クロエ・ジャオ( 『ノマドランド』)
リー・アイザック・チョン( 『ミナリ』)
エメラルド・フェネル( 『プロミシング・ヤング・ウーマン』)
主演男優賞
チャドウィック・ボーズマン (『マ・レイニーのブラックボトム』)
アンソニー・ホプキンス( 『ファーザー』)
ゲイリー・オールドマン( 『Mank /マンク』)
リズ・アーメッド (『サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~』)
スティーヴン・ユァン( 『ミナリ』)
主演女優賞
ヴィオラ・デイヴィス( 『マ・レイニーのブラックボトム』)
フランシス・マクドーマンド( 『ノマドランド』)
キャリー・マリガン( 『プロミシング・ヤング・ウーマン』)
アンドラ・デイ( 『The United States vs Billie Holiday』)
ヴァネッサ・カービー( 『Pieces of a Woman』)
助演男優賞
ダニエル・カルーヤ (『Judas and the Black Messiah』)
サシャ・バロン・コーエン( 『シカゴ7裁判』)
レスリー・オドムJr.( 『あの夜、マイアミで』)
ポール・レイシー (『サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~』)
ラキース・スタンフィールド (『Judas and the Black Messiah』)
助演女優賞
ユン・ヨジョン( 『ミナリ』)
アマンダ・サイフリッド( 『Mank /マンク』)
グレン・クロース( 『ヒルビリー・エレジー ‒郷愁の哀歌‒』)
オリヴィア・コールマン( 『ファーザー』)
マリア・バカロヴァ (『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』)
脚本賞
『プロミシング・ヤング・ウーマン』
『シカゴ7裁判』
『ミナリ』
『サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~』
『Judas and the Black Messiah』
脚色賞
『ノマドランド』
『ファーザー』
『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』
『あの夜、マイアミで』
『ザ・ホワイトタイガー』
国際長編映画賞
『アナザーラウンド』(デンマーク)
『Quo Vadis, Aida?』(ボスニア=ヘルツェゴビナ)
『Collective』(ルーマニア)
『皮膚を売った男』(チュニジア)
『少年の君』(香港)
長編アニメーション賞
『ソウルフル・ワールド』
『ウルフウォーカー』
『2分の1の魔法』
『映画 ひつじのショーンUFOフィーバー!』
『フェイフェイと月の冒険』
撮影賞
『Mank /マンク』
『ノマドランド』
『この茫漠たる荒野で』
『シカゴ7裁判』
『Judas and the Black Messiah』
編集賞
『シカゴ7裁判』
『ノマドランド』
『ファーザー』
『サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~』
『プロミシング・ヤング・ウーマン』
美術賞
『Mank /マンク』
『マ・レイニーのブラックボトム』
『この茫漠たる荒野で』
『TENET テネット』
『ファーザー』
衣装デザイン賞
『Emma』
『ムーラン』
『マ・レイニーのブラックボトム』
『Mank /マンク』
『ピノキオ』
メーキャップ&ヘアスタイリング賞
『Mank /マンク』
『マ・レイニーのブラックボトム』
『ヒルビリー・エレジー ‒郷愁の哀歌‒』
『Emma』
『ピノキオ』
オリジナル作曲賞
『ソウルフル・ワールド』
『Mank /マンク』
『ミナリ』
『この茫漠たる荒野で』
『ザ・ファイブ・ブラッズ』
オリジナル歌曲賞
Speak Now( 『あの夜、マイアミで』)
Io Si( 『これからの人生』)
Fight for You( 『Judas and the Black Messiah』)
Hear My Voice( 『シカゴ7裁判』)
Husavik (『ユーロビジョン歌合戦~ファイア・サーガ物語』)
音響賞※
『Mank /マンク』
『ソウルフル・ワールド』
『この茫漠たる荒野で』
『サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~』
『グレイハウンド』
視覚効果賞
『TENET テネット』
『ミッドナイト・スカイ』
『ムーラン』
『ゴリラのアイヴァン』
『ラブ&モンスターズ』
長編ドキュメンタリー映画賞
『タイム』
『Collective』
『83歳のやさしいスパイ』
『オクトパスの神秘:海の賢者は語る』
『ハンディキャップ・キャンプ:障がい者運動の夜明け』
短編ドキュメンタリー映画賞
『Colette』
『ラターシャに捧ぐ ~記憶で綴る15年の生涯~』
『Hunger Ward』
『Do Not Split』
『A Concert Is a Conversation』
短編実写映画賞
『Feeling Through』
『白い自転車』
『The Letter Room』
『プレゼント』
『隔たる世界の2人』
短編アニメーション映画賞
『愛してるって言っておくね』
『夢追いウサギ』
『Opera』
『Yes People』
『Genius Loci』
※今回から音響編集賞と録音賞が統合