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芸術かポルノかの大きな違い
── 素晴らしいキャステイングだったことの賜物なのでしょうね。ところで、一つには褒め言葉でもあり、また、意地悪く言ってみたくなるものなのでしょうが、今回の様な大胆な性描写がある優れた映画作品について、よく問われるのが、「芸術か、ポルノか?」ということでしょうか。
明らかに芸術の領域である表現とは、監督はどのようなものだと思われますか?また、それを意識した工夫などありましたか?
「私は、まず、ポルノには興味がありません(笑)。そして、今回は、映像から性愛のシーンのヒントは一切もらっていないのです。
彫刻とか、印象派の絵画などにインスパイア―されてイメージしていきました。特にフォトグラフ、写真にですね。光を意識した場面を作ろうと。それも白昼の光です」
── なるほど。劣情だけを高めようとするシーンとは大きく違ってきますね。
「そして、ベッドシーンや激しいセックスシーンであっても、感情が表現されていなくてはいけないのです。
ただ、快楽を求めての肉体的な悦びだけではない、不安や恐れや愛しむ気持ちを込めて、表現していくいくことが必要になります。二人は、それを理解してから取り組んだと思います。
恋愛と性愛が女性にとって、人生の中で幸せな時であるという気持ちを醸し出す瞬間、瞬間を描き、撮るために」
映画にとってのレバノンとパリ
── 17歳の時、レバノン内戦を機に、パリで文学やジャーナリズムについて学ばれ、その後に映画を手がける様になられたとのこと。今回の作品はレバノンにいたら作れなかったですか?
「そんなこともありません。『ファインダーの中の欲望』でも激しいセックスシーンを撮りましたし、制作はレバノンにいても出来るんです。
でも完成した映画を上映することについての制限が厳しいので、上映は出来ませんでした。作ることは出来ても、上映が出来ないと言えますね」
── そうなんですね。では、パリが最高のご活躍の場というわけですね。
「日本にも、東京にも行ってみたいですけれど」
──もちろん、大歓迎です
というお話をしたところで、インタビュー終了。
女性が恋に夢中になる時は、人生最大の幸せな時
自分の体験に通じることもあって、渾身の作品として『シンプルな情熱』を完成させたダニエル・アービッド監督。
お応えのすべてが理知的でセンスに富み、洗練されている。今までに作った映画の多くが、名だたる映画祭で上映され評価されてきたことも良くわかる。
女性が、素直に欲望を満たそうとする時や、そのことを赤裸々に語る時、同性ですら、それを罪悪のように捉えて来た「黒歴史」は今も続いているのかもしれない。
本作、『シンプルな情熱』が純粋に、女性自身から湧き上がる熱情であることを描き、観る者に真摯に受け止めるられるとしたら、それはアービッド監督のセンスの良さの賜物ではないのか。
彼女のみならず、本作を観た女性なら、誰もが自分の経験とよく似ていると、思わず自分を褒めたくなり、共感することだろう。
そして、時代が変わろうとも、女性が女性の肉体を持つ以上、どんなにあがいても、恋を深めるごとに男に服従していく形になるのだろうか、依存していかないとならないのだろうか……。そんな、女性が生きるための命題に取り組んだことにもなる、『シンプルな情熱』というこの映画。
最後まで観ることで、その結論は明らかにされる。女性のみならず、観るべき一本なのである。
『シンプルな情熱』
2021年7月2日(金)Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
監督/ダニエル・アービッド
脚本/ダニエル・アービッド
原作/『シンプルな情熱』アニー・エルノー著/堀茂樹訳(ハヤカワ文庫)
出演/レティシア・ドッシュ『若い女』、セルゲイ・ポルーニン『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』、ルー=テモー・シオン、キャロリーヌ・デュセイ、グレゴワール・コラン
2020年カンヌ国際映画祭 公式選出作品
2020年サン・セバスティアン国際映画祭 コンペティション部門出品作品
原題/Passion simple
2020年/フランス・ベルギー/フランス語・英語/99分/カラー/R18+/ヴィスタ/5・1ch/
日本語字幕/古田由紀子
配給・宣伝/セテラ・インターナショナル
宣伝協力/テレザ
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