サム役 コリン・ファース インタビュー
不思議なことに、この映画には心があり生き生きとして説得力があると思った
コリン・ファース
1960年9月10日生まれ、英・ハンプシャー州出身。舞台版出演がきっかけで1984年『アナザー・カントリー』で映画初出演。『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)、『恋におちたシェイクスピア』(1998)、『マンマ・ミーア!』(2008)、『英国王のスピーチ』(2010)、『裏切りのサーカス』(2011)、『キングスマン』(2014)、『ザ・シークレット・ガーデン』(2020)などに出演。待機作に『Operation Mincemeat(原題)』を控えている。
── 最初にこの脚本を読んだ時の印象は?
「僕は、このふたりの関係にすっかり心を奪われ、個人としてのふたりも、またカップルとしてのふたりも大好きになった。でもスタンリー(トゥッチ)以外の人が、僕を起用したいと思うとは思えなかった。
次のステップはハリー(監督)に会うことだった。幸いハリーは一芝居打って、『大歓迎ですよ』と言ってくれたんだ」
── スタンリーが関わってた?
「実は脚本はスタンリーから直接受け取ったんだ。茶封筒に入れてそっと渡してくれたんだ(笑)。個人的なルートで届いたことで、僕の中で、特別深く響いたんだ。最初に脚本を読んだときには、誰がどの役を演じるべきなのか分からなかった。
スタンリーは、サム役を依頼されたと思うと僕に話していた。彼はそれからハリーに会って、そういう意向だと知った。僕は、両方の人物に心を奪われていたから、全く疑念は抱かなかったんだ」
── 最初はサム役はスタンリーだったと。
「読み合わせでスタンリーがタスカーを演じるのを見たとき、彼がその役にふさわしく、ほかの誰も彼ほどうまく演じられないと思った。
問題は、彼がサムを演じたときにも、同じように思ったんだ。僕は、家に帰ろうと思ったよ(笑)。役柄にふさわしい演技をするという任務が目の前にある。少し大げさに聞こえるかもしれないが、神聖なことなんだよ。
最終的には、自然に決まった。読み合わせで、ある場面を演じたときに、部屋にいる人全員が、『このキャストで決まりだ』と言っているように感じたときがあった。タスカーを演じるも楽しみだったので、少しさみしい気もしたけど、きっぱりと気持ちを切り替えたよ」
── サムはどういう人物だと思います?
「皮肉だね、サムに何か起こったわけじゃないのに。サムはタスカーのおかげで、自己憐憫から解放される。タスカーの方こそ問題を抱えているのにだ。
そこが原動力になっていると思う。誰が介護者で、誰が誰を介護しているのかというのは、興味深い疑問だった」
── 撮影中はどう過ごされていましたか?
「僕たちはみんな、湖水地方に独特の雰囲気があると感じた。みんな息がぴったり合っていた。6週間、僕たちのほかに誰にも会わなかったんだ。
スタンリーと僕は、ずっと一緒にいたよ。スタンリーは料理を作るのが大好きで、すごく上手なんだ。僕も料理をするのが好きな方だけど、彼ほど上手ではない。夕食はほとんど彼のところで食べていたよ。
その日のことを話し合って、翌朝再開するんだ。それが非常に良い効果をもたらしたと思う。撮影でロケ地にいるときには、一緒に仕事をしている人たちが一時的な家族になるんだ。みんなが同じ目標に向かって努力していると感じていた。職場にいるような感じではなかったんだ」
── スタンリーとの関係性も相乗効果がありましたね。
「20年もつき合いがあったら、いいことも悪いことも含めて、相手が人生の様々なところを通るのを見ることになるよね。それが作品をさらに特徴づけたんだ。
僕がスタンリーをよく知っていたがために、個人的要素を足せるだろうと思った。そのことで、このふたりが生きる興味深い小宇宙的なこの世界が、もっと共感を呼ぶものになったんだ」
── 映画のなかでは、ふたりの関係は多く描かれていません。
「彼らの過去をどのくらい物語の中で表現するべきかという問題が、確かにあった。でも何かをここまで注意深く構築するとき、それは水晶を構築するのにちょっと似ていて、すごく簡単に壊してしまう可能性があるんだ。
僕たちが何かをつついて、『これを挿入するべきだ』と言ったときはいつでも、それが邪魔になってしまったんだよ。なぜか、生態系を破壊するような感じになってしまったんだ」
── ふたりとも同じアプローチでした?
「スタンリーは、僕よりもずっと大胆なんだよ。僕はスタンリーより疑い深い。スタンリーが疑問を抱くこともあったけど、多くの場合、僕の疑問とは違うものだった。
ハリーは、僕とスタンリーのバランスをうまく取ったと思うよ。初めてこの映画を見たとき、早い段階で不思議なほどに、この映画には心があり、生き生きとして説得力があると思った。すべてがあるべき場所にあるように感じたよ」