『ウエスト・サイド・ストーリー』のここが凄い!
押さえておきたいチェックポイント!
その1『キャストがすごい!』
オーディションを勝ち抜いた実力派キャストが大集合!
トニーを演じるのは『ベイビー・ドライバー』(2017)などで若手トップスターの地位を築いたアンセル・エルゴート。低音の声が印象的な彼の歌唱にも注目だ。約30,000人ものオーディションからマリア役を掴んだレイチェル・ゼグラーは、ディズニーの実写版『白雪姫』のヒロインも演じるハリウッド期待の新星。
その他のキャストもブロードウェイで活躍するトニー賞受賞者など、ミュージカル界の精鋭が結集している。さらに1961年の映画でアニータを鮮烈に演じ、アカデミー賞助演女優賞受賞のリタ・モレノが出演しているのは映画ファンには嬉しいところ。
その2『音楽がすごい!』
スティーヴン・ソンドハイムとレナード・バーンスタインの名曲たち
楽曲の素晴らしさは大きな魅力の本作。レナード・バーンスタイン(作曲)とスティーヴン・ソンドハイム(作詞)による名曲たちの中から、いくつかご紹介しよう。
- 「Maria」
ダンスパーティーで一目惚れしたマリアへの想いをトニーが歌う。ひたすら「マリア」と恋する相手の名前を呼び続けるシンプルな歌詞、胸の高まりを表すような高音に伸びていくメロディに心を掴まれるバラード。 - 「America」
アニータを中心とした≪シャークス≫の男女によるエネルギッシュなナンバー。「自由なアメリカがいい」という女性たち、移民として生きる鬱憤を歌う男性との対比が、ラテンのリズムとダンスによって表現されている。 - 「Tonight」
「ロミオとジュリエット」のバルコニーのシーンを彷彿とさせる場面で、トニーとマリアがお互いへの想いを確かめ合う。後半には、決闘に向かう2グループとアニタも加わり「今夜何かが起こる」と五重唱で歌われる。 - 「Somewhere」
許されざる恋をしたトニーとマリアが「2人だけの場所がどこかにあるはず」と静かに気持ちを重ねていく美しいデュエット。トム・ウェイツやバーブラ・ストライサンドなど多くのアーティストがカヴァーしている。 - 「Cool」
≪ジェッツ≫の仲間たちが、リーダーのリフを失った感情を抑えながら歌い踊る、WSSのトレードマークでもあるフィンガー・スナップが効果的に用いられたジャズ風のナンバー。途中に入る不協和音が不吉な未来を予感させる。
その3『製作陣が凄い!』
監督スティーヴン・スピルバーグ×脚本トニー・クシュナーの再タッグ!
オリジナル版のロバート・ワイズは社会派の映画監督として知られているが、スピルバーグも社会的メッセージを含んだ名作を世に送り出してきた。彼にとって念願だった「WSS」の映画化で脚本を手掛けたのはトニー・クシュナーだ。
1993年の舞台「エンジェルス・イン・アメリカ 至福千年紀が近づく」で1980年代のアメリカ社会の苦悩を描出。スピルバーグとは『ミュンヘン』でミュンヘン五輪イスラエル選手団襲撃事件を題材に、『リンカーン』では南北戦争時の人々の対立を描いているだけに、アメリカ社会が直面する人種・移民問題に鋭く切り込んだ『WSS』に期待大だ。
監督スティーヴン・スピルバーグ インタビュー
── 名作「ウエスト・サイド・ストーリー」を、なぜ今この時代に映画化しようと思われたのですか?
7年前、「ウエスト・サイド・ストーリー」の権利をコントロールする4つの遺産管理会社から、権利を取得し始めた。そして一旦、1957年のオリジナルのブロードウェイ・ミュージカルを基にした僕たちのバージョンの「ウエスト・サイド・ストーリー」を作れるように彼らが僕へその権利を与えてくれてから、脚本を作り、映画のキャストを揃えるのに5年かかった。8人の主要キャストと42人の重要な助演キャストをキャスティングするのには丸1年かかったよ。全員が、ダンスと歌と演技にとても優れていないといけなかったからね。
── 監督ご自身は、「ウエスト・サイド・ストーリー」からどんな影響を受けましたか?
何よりも僕に影響を与えたことは、これより良いミュージカルを見つけたことは一度もないということ。僕はずっとミュージカルを作りたかった。子供の頃に、両親に連れられてミュージカルを見に行って以来、もし僕が映画監督になることがあれば、いつかミュージカルを作りたいと思ってきた。そして、50年以上にわたって、僕はミュージカルを作ると約束し続けてきた。これは、僕が生涯ずっとやりたかったことなんだ。
── 初めてミュージカル作品を手掛けてみて、ミュージカルならではの表現方法にどんな魅力を感じましたか?
歌やダンスは、心への入口なんだ。それは、観客の中のとても強い感情やエネルギー、情熱をかき立てる。歌やダンスのシークエンスが、観客に作りものであることを忘れさせ、文字通りそれを信じさせるレベルに達した時にね。ミュージカルはリアリスティックなんだ。
── 本作は、57年のブロードウェイ・ミュージカルに直接基づいた作品だと聞きました。スピルバーグ監督版ならではの新しいアプローチについて少しお話いただけますか?
今作はあらゆる面で違う。何が違うかというと、キャラクターたちだ。もっと現実的で、もっと現代的で、もっと今の子供たちみたいなんだ。そして、ストーリーはもっとダーク。舞台よりももっとストリート(現実)的なものになっている。たとえば、ブロードウェイでは「America」の歌は、屋根の上が舞台になっている。でも、僕たちの映画では、真っ昼間のニューヨーク市のウエスト・サイドの4ブロック(に渡るストリート)を舞台にしている。すべての「ウエスト・サイド・ストーリー」と今作の間には、大きな違いがあるんだ。
(コラム)「ウエスト・サイド・ストーリー」がもたらしたもの
1957年9月26日にブロードウェイのウィンターガーデン劇場で初演が開幕。1961年に映画化(邦題『ウエスト・サイド物語』)され、世界中の人々に愛されてきた「ウエスト・サイド・ストーリー」(以下「WSS」)は、あらゆる意味でブロードウェイに革命をもたらしたミュージカルだった。
第1の革命は、そのダンス。貧しい移民たちが集まるニューヨークのマンハッタン・ウエストサイドの街中で〈ジェッツ〉と〈シャークス〉が激しく対立している状況、彼らの憎悪といった感情が、ダンスのみで表現されたオープニングから圧倒される。
振付(原案・演出も)のジェローム・ロビンスは名門ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)の創設期を支えたアメリカバレエ界のレジェンド。もともとミュージカル俳優としてデビューし「屋根の上のヴァイオリン弾き」(初演)の振付・演出も手がけた、ミュージカルとバレエを知り尽くした人物だ。その振付の魅力は、キャラクターや感情を〝語る〞ところにある。ジェッツとシャークスのダンス合戦、「America」のシーンの群舞など血湧き肉躍るダンスが炸裂。こうしたエンターテインメント性とドラマ性を兼ね備えた「WSS」のダンス表現は、マイケル・ジャクソンが「今夜はビート・イット」のPVでストリートギャングのナイフでの闘いを再現するなど、のちのアーティストにも影響を与えた。
今回のスピルバーグ版の振付家ジャスティン・ペックはNYCB出身で、ブロードウェイ作品の振付もしているロビンスの系譜を継ぐ才能でもあり、オリジナルをリスペクトしつつ、どんなダンスシーンが繰り広げられるかが楽しみだ。
「WSS」がもたらしたもう一つの革命は、音楽にある。作曲のレナード・バーンスタインは指揮者・ピアニスト・教育者や平和運動など、幅広い活動をした20世紀を代表するミュージシャンだ。「WSS」ではジャズ、クラシック、ポップス、ラテンなどあらゆる音楽を取り入れるという画期的な試みをし、それは〝人種のるつぼ〞といわれるニューヨークの当時の生々しい現実を伝える物語に見事にマッチした。
クラシック出身だけあって、楽曲はミュージカルというジャンルを超えた大きさ、ドラマティックさを感じさせる名曲ぞろい。さらに作詞を手がけているのは「スウィーニー・トッド」「イントゥ・ザ・ウッズ」をはじめ数々の傑作を生み、現代ブロードウェイでもっとも尊敬される作詞・作曲家のスティーヴン・ソンドハイムであるのも忘れてはならない。
「WSS」は、作品のテーマという点でもブロードウェイに革命を起こした。今でこそ社会問題を扱ったミュージカルはいろいろあるが、ミュージカルはかつて〝ミュージカルコメディ〞と呼ばれていたように、楽しく明るい作品が主流だった。それゆえに初演当時にはさまざまな反響を巻き起こし、ジェッツやシャークスの抗争の描写に退出する観客もいたという。それほど「WSS」は斬新な問題作でもあったのだ。
ロビンスがバーンスタインに「ロミオとジュリエット」の現代版ミュージカル化のアイデアを提案したことからはじまった「WSS」のストーリーは、当時、ニューヨークの新聞を賑わせていた移民の若者たちの抗争をもとに生まれた。まさにアメリカ社会を映し出した「WSS」がミュージカル界にもたらした革命は、社会の多様性を描いた名作「コーラスライン」や「ハミルトン」へと繋がっていく。
オリジナル版の脚本家アーサー・ローレンツは次のように語っている。「これは偏見、暴力の世界で生き抜いていくために、恋にもがく作品なのだ」。それを体現するトニーとマリア、二人の純粋な愛は、「ロミオとジュリエット」と同様にいつの時代も私たちの心を揺さぶる。そして新たに誕生したスピルバーグ版もまた、熱い感動と革命をもたらしてくれるに違いない。
『ウエスト・サイド物語』
2021年12月3日(金)発売
『ウエスト・サイド・ストーリー』
2022年2月11日(金・祝)公開
アメリカ/2021/ウォルト・ディズニー・ジャパン
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、リタ・モレノ
© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.