世界興収300億円を突破、『ジョーカー』を超えて、全世界74カ国でオープニングNo.1興行収入を記録した『THE BATMAN-ザ・バットマン-』。本作は過去のバットマン映画と何が違う? チェックポイント&コラムから今作独自の魅力に迫ってみましょう!(文・平沢薫、杉山すぴ豊/デジタル編集・スクリーン編集部)

【コラム】ヒントは名作コミックにあり?
「バットマン:イヤーツー」との共通点(文・杉山すぴ豊)

上映時間175分(ほぼ3時間)! ホラー映画といってもいいぐらい怖いらしい等、今までのバットマン映画、いや、すべてのヒーロー映画の常識を超えてきそうな『THE BATMAN -ザ・バットマン-』。

元々、ベン・アフレック出演&監督のバットマンのソロ映画が企画されていました。しかしこの企画が頓挫し、マット・リーヴス監督×ロバート・パティンソン出演による本作となりました。これは非常に興味深いことです。というのもアフレック版バットマンということは『ジャスティス・リーグ』(2017)からの流れ、つまりバットマンをベテランのスーパーヒーローとして描くハズだったと思われます。

しかし『ザ・バットマン』は180度方向転換。パティンソンの起用からもわかるようにバットマンの若き日を描く。しかしそれではクリストファー・ノーランの『バットマン ビギンズ』(2005)と変わらなくなってしまう。ここでポイントなのは『ザ・バットマン』はバットマン誕生ではなく、主人公であるブルースがバットマンになった2年目を描く作品になるらしいこと。

なぜ2年目? 実はコミックには「バットマン:イヤーワン」「イヤーツー」という名作があります。イヤーワンはブルースがバットマンとしてデビューするまでの話。イヤーツーは犯罪者と戦うヒーローとして2年目を迎えたバットマンが、犯罪者を容赦なく殺すリーパーという殺人鬼と戦います。そこにブルースの両親を殺したチンピラが絡んでくる。

ここで誤解のないように言っておくと「イヤーワン」は映画『バットマン ビギンズ』(2005)に確かに多大な影響を与えています。いくつかのシーンは明らかにコミックで描かれた場面を映像化しています。けれど〝原作〞ではありません。なぜならストーリーがかなり違う。そういう意味では映画『ザ・バットマン』も「イヤーツー」の映画化ではない。「イヤーツー」のメイン・ヴィランはリーパーですが、映画『ザ・バットマン』にはリドラーという怪人が登場します。この時点で全く違うお話です。

しかしながら映画版リドラーは、汚れたゴッサムの名士たちを襲っていくらしい。これは犯罪者を次々と血祭りにあげていくリーパーを思わせます。またブルースの両親の死も物語に大きく関わってきそう。ここも「イヤーツー」に両親殺害の犯人が登場した展開に似ています。かなり「イヤーツー」の要素は活かされているのかもしれません。なによりもコミック同様、〝2年目〞に注目したことがポイント。

画像: 『ダークナイト』に登場するジョーカー 『ザ・バットマン』のリドラーは彼とはまた違った強敵になりそうだ

『ダークナイト』に登場するジョーカー
『ザ・バットマン』のリドラーは彼とはまた違った強敵になりそうだ

実は芸能人でもスポーツ選手でも社会人でも無事デビュー出来たとしても、次の年、2年目がポイントですよね。一発屋で終わるかそのまま続けられるか? つまりブルースことバットマンがこの先、ヒーローとして活躍できるかという大いなる試練を描く作品となりそうです。最後にリドラーというキャラについて。リドル=謎ときを絡めた犯罪を起こすIQの高いヴィラン。ジョーカーは犯罪をジョークと捉えていますが、リドラーにとって犯罪とはゲームなのです。

【コラム】似て非なるものになるか?
『 ダークナイト』三部作と『ザ・バットマン』(文・平沢薫)

クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』三部作は、スーパーヒーロー映画を激変させた。この映画以前のスーパーヒーローたちは、現実とは別の一種のファンタジー世界の住人だったが、『ダークナイト』三部作はスーパーヒーローを現実世界の住人に変貌させたのだ。もしバットマンが、今、この世界にいるとしたら、どのようにしてあの格闘能力や高性能兵器を手に入れたのか。それをリアリズムを重視し、現実にありそうな形で描いて、多くの観客に支持された。

画像: 『ダークナイト』に登場する“バッドポッド” 現実の延長線にあるデザインが観客の支持を得た

『ダークナイト』に登場する“バッドポッド”
現実の延長線にあるデザインが観客の支持を得た

今回の『ザ・バットマン』も、このリアリズム重視の姿勢は共通。マット・リーヴス監督が「現実的なトーンを意識した」と語る通り、バットマンの格闘は、スタイリッシュさより破壊力優先の無骨さで、カーチェイスもド派手だがリアル。現実感を表現するために、可能な限りVFX映像を使わず、現場で物理的なエフェクトを使って撮影するという手法を使っているも共通だ。

そして、背徳の都ゴッサム・シティの夜の暗さもおそらく共通だろう。その暗さは、映像だけでなく、物語に及ぶ。街の権力者たちの腐敗を描くのは両作共通だが、本作では病んだシリアルキラーのリドラーが暗躍し、どうやらウェイン家にも秘密があるらしく、本作の方が闇は深いかもしれない。また、キャットウーマンの登場も共通だ。

しかし、両者にはまったく異なる部分がある。まず、ストーリー。『ダークナイト』三部作の第1作『バットマン ビギンズ』は、主人公がバットマンになるまでを描くオリジン・ストーリーだったが、『ザ・バットマン』の主人公は、バットマンになって2年目でオリジン・ストーリーではない。

そして、もっとも大きな相違点は、主人公の価値観、精神的な状態だ。『バットマン ビギンズ』のブルース・ウェインは、バットマンになる以前の修行中にも、リーアム・ニーソン演じる師匠が自分は〝復讐〞によって怒りから解放されたと語ると「僕はイヤだ」と断言する。このブルースの善悪観は確立されていて、彼は絶対に悪人にはならない。しかし、『ザ・バットマン』のブルースは違う。犯罪者たちが怯えるほど相手を殴りまくり「俺は〝復讐〞だ」と言い放つ、悪人にも見えかねない人物だ。価値観は揺らいでいて、自分の行動を全面的には肯定できずに苦悩する。予告編で〝復讐〞の語を使ったのは『バットマン ビギンズ』と本作を対比させるためではないだろうか。

また、予告編には、また別のバットマンが登場したザック・スナイダー監督の『ジャスティス・リーグ』を連想させる言葉、〝正義(ジャスティス)〞も登場する。リドラーの「信じれば残酷になり、否定すれば凶暴になるもの、なーんだ?」というなぞなぞに、バットマンは「答は〝正義〞だ」と返す。この問答は、スナイダー監督の映画がヒーローによる〝正義〞の危うさを描いたことを示唆したものだろう。今回のバットマンは、こうして今までのバットマンたちを踏まえつつ、彼らとは別の姿を見せてくれるのに違いない。

『ダークナイト』
デジタル配信中
ブルーレイ 2,619円(税込)/ DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
©2014 Warner Bros. Entertainment Inc.

THE BATMAN-ザ・バットマン-
2022年3月11日(金)公開

アメリカ/2022/2時間55分/ワーナー・ブラザース映画
監督:マット・リーヴス
出演:ロバート・パティンソン、コリン・ファレル、ポール・ダノ、ゾーイ・クラヴィッツ、ジョン・タトゥーロ、アンディ・サーキス、ジェフリー・ライトほか
© 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

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