マイアとカミラが醸し出す空気感が決め手
──アンジェラを演じたマイア・ミッチェル、今回映画初主演となったジェシー役のカミラ・モローネ。キャスティングの決め手はどんなところだったのでしょうか。
コロナ禍でしたから、まずビデオオーディションを行い、最終候補を絞っていきました。同じ部屋にいるマイアとカミラの2人を見た時点で、迷う余地はありませんでした。他に集まってくれた役者さんも素晴らしかったのですが、この作品では素晴らしい役者を2人ではなく、2人で素晴らしい役者をキャスティングすることが大事でした。マイアとカミラは部屋に入ってきた瞬間から「この2人しかない」と分かりました。それぐらい2人の醸し出す空気感が完璧だったのです。
正直言って2人は私が書いた脚本のイメージとは違っていましたが、2人が役にぴったりだと思ったので、逆に彼女たちに合わせるように脚本に手を加えました。また、当初は反対の役を演じることも考えました。というのも両方の役のオーディションとして受けてくれたのです。しかし、いろいろ考えて、それぞれの役柄で落ち着きました。
キャスティングは本当に難しい。役者同士の相乗効果はあるか、ないかのどちらかです「この人とこの人ならうまくいく」と想像して、「お互いにもう少し近くに座って」とか「相手のことを長く見て」と言って、親密さを演出することはできますが、本来起こるべき相乗効果がなければ、ダメなのです。
──マイアとカミラとはどのように役を作っていきましたか。
大切だったのは、アンジェラとジェシーがどんなに大変な状況になろうとも彼女たちの明るさを決して失わないようにすること。未来に対する可能性を失わせたくなかったのです。
役作りの参考になるよう、90年代のパンクやポップ、現代のラップが入った音楽のプレイリストを渡した上で、まとめとして1週間の集中的なリハーサルを行いました。マイアとカミラは怖気づいたり、戸惑ったりすることはなく、いつも楽しそうで、本当の親友同士のようでした。とても素晴らしかったです。
間違った選択をすることもあるけれど
──アンジェラとジェシーはドラッグしたり、バイトの遅れに嘘の言い訳をしたりすることがありましたが、仕事をして家賃を払おうとし、お互いに支え合っています。彼女たちの倫理観について、どのように考えていらっしゃいましたか。
若いときは誰でも失敗をします。安定した家庭で暮らしていれば、間違った道を歩もうとすると親が正してくれます。アンジェラとジェシーのバックストーリーを詳細に描いていませんが、15、16歳にもかかわらず、導いてくれる人が誰もおらず、自分たちしか頼れる者がいないという状況です。それでも「仕事をして家賃を払う」「仕事の制服を洗濯して、きれいにして身につける」など、自分たちなりに正しいことをしようとしています。
ドラッグについては私自身、今はしていないし、するべきではないと思っています。ただ、誰かがしたいと思うのならば、それはその人の選択。アメリカの場合は若いときにちょっとやってみるのは珍しいことではありません。ジェシーの兄のようにドラッグをビジネスにするのは深刻な犯罪で、投獄されることもありますけれどね。兄は仕事をしておらず、家賃も払えず、ジェシーたちが水道代を渡したのに払っていなかった。部屋もきれいにしていない。そういう兄を見て、「自分たちは彼らとは違う。正しいことを自分たちなりにしたい」と思っている。兄はジェシーにとって反面教師的な存在として描きました。
アンジェラとジェシーは基本的には自分たちが正しいと思うことをしている。ただ、選択するときに間違ってしまうこともある。人生で最善の選択をしていないとはいえ、彼女たちはある意味真っ当な人間なのです。
──パーティや下ネタ、泥酔、成長など、若者の夏の通過儀礼を描いていますが、SEX描写だけはありませんでした。
確かに10代の子たちにはそういう状況はあります。2人が性行為をしているシーンを入れ、彼女たちのセクシャリティを出していくかどうかで、実はかなり悩みました。2人の間に性的な関係があることを作品の中で匂わせていますが、それを出してしまうと友情を描いた作品にも関わらず、「かわいい女の子がキスしている、あの映画だよね」とレッテルを貼られてしまうのではないかということが気になったのです。
この作品のテーマは2人が置かれた状況の中でいかに楽しく過ごすかということ。彼女たちのセクシャリティを描く必要はありません。