言葉を重ねなくてもわかってくれる女性スタッフたち
──スクリーンサイズは横長のシネスコ(2.35:1)ですが、アンジェラとジェシーの2人のシーンが中心ですので、ビスタ(1.85:1)という選択もあったかと思います。シネスコを選んだのはどんな意図があったのでしょうか。
彼女たちの育った環境がすべてにおいて影響を与えています。だからこそ、彼女たちの世界をより広く見せたいという気持ちからシネスコを選びました。
──スタッフには女性が多かったそうですね。男性中心の現場とは違いましたか。
普通なら言葉を重ねて説明しなくてはならないことも、すぐにわかってくれるということはありました。例えば、美術のオリビア・ピーブルズは10代の女の子の部屋がどういうものなのか、すぐに理解してくれて、こちらから映像資料などを見せる必要はありませんでした。撮影のグレタ・ゾズラはカメラワークにさりげなく遊び心を取り入れ、10代の頃はあっという間に時間が過ぎる感覚を表現してくれました。グレタは照明テクニックも素晴らしく、蒸し暑い夏の雰囲気は見事でした。
最近は仕事の規模が大きくなり、男性スタッフと仕事をする機会も増えてきました。気がつくと各部署のトップが男性になってしまう環境であることは実感しています。パイロット版として作った『ユーフォリア』や今、手掛けているテレビドラマはカメラマンが男性で、コミュニケーションの取り方が女性のカメラマンとはちょっと違う。女性がそういった仕事になかなか選ばれないのは残念ですし、女性がたくさんいる現場で仕事がしたい。女性スタッフだと旧友とコミュニケーションしているように仕事ができるような気がします。
──監督が作品の頃に一緒に過ごしていたご友人はこの作品をご覧になられましたか。
映画に登場する親友とは今でもとっても仲がよくて、お互いに生涯の親友と思っています。別の州に住んでいるので、気軽に会えるわけではないのですが、この作品を気に入ってくれて、周りの人たちに「自分の親友が自分たちの若いころを映画化したから見てね」と宣伝してくれています。
──本作を撮ることで過去に対する思いは変わりましたか。
この作品を撮ったことで過去との向き合い方が変わったということはありません。もっと若かった頃には、自分が安定した環境で育っていないことを不公平に感じ、未来を考えるときにスタート地点が違うことは不利だと思っていました。しかし、映画を撮るようになって、あの過去が自分という人間をとてもいい形で作ってくれたことがわかったのです。周りの人に話を聞いても、私と同じような経験した人はいません。それって実はとても貴重な体験だったかもしれない。それに気づいてからは、自分の過去に感謝しています。
自分の若いころを映画にしたことで監督を生業にすることができました。撮影中はこの作品が成功するかどうか、わかりませんでしたが、作っていて楽しかったです。ご覧いただいた方に、この楽しい気持ちや役者の素晴らしさが伝わればと思っています。
PROFILE
オーガスティン・フリッゼル
テキサス州ダラス生まれ。現在、夫と娘1人、猫2匹と暮らしている。本作が長編デビュー作で、2014年のオースティン映画協会(AFS)の助成金を受け、2016年のAFSアーティスト・インティンシブというイベントでワークショップが行われた。最初の短編2本はサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)始め、多くの映画祭でプレミア上映されている。女優としても15年以上ものキャリアがある。長編2作目は日本ではNetflixで配信されている『愛しい人から最後の手紙』。
映画『Never Goin' Back / ネバー・ゴーイン・バック』
12月16日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
<STORY>
高校を中退した親友同士のアンジェラとジェシーは、兄とその友人と4人で共同生活を送っているが、バイト三昧の日々でも、家賃を払うのがやっとの極貧生活を送っている。だが、ジェシーの誕生日に一週間のビーチリゾートのバカンスをプレゼントしたいアンジェラは、家賃を支払はなければならないお金で二人分の夢のチケットを購入する。不足分の家賃を稼ぐために無茶苦茶な追加シフトを入れるも、家に泥棒が入るわ、兄のせいで刑務所に入れられるわ、誤って大麻入りクッキーを食べてハイになるわ、挙句の果てにバイトもクビになりそう…。二人の追い求める憧れのバカンス、テキサスのリゾートビーチへ無事に辿り着くことは出来るのか!?
『Never Goin' Back / ネバー・ゴーイン・バック』
12月16日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
監督:オーガスティン・フリッゼル
出演:マイア・ミッチェル、カミラ・モローネ、カイル・ムーニー、ジョエル・アレン、ケンダル・スミス、マシュー・ホルコム、アティーナ・フリッツェル
2018年/アメリカ/英語/86分/カラー/シネスコ/5.1ch/原題:Never Goin’ Back/日本語字幕:安本熙生
配給:REGENTS
公式サイト:https://nevergoinback.jp/