日本のレジェンドである織田信長。信長の正室として共に歩んだ濃姫。乱世に生きた2人の夫婦としての知られざる姿を描いた『レジェンド&バタフライ』が1月27日(金)に公開されます。脚本は大河ドラマ「どうする家康」で注目を集めている古沢良太の完全オリジナル。メガホンを取った大友啓史監督に、「劇薬」として期待されたという自らの役割や、本作の注目点、木村拓哉の役作りなどについて語っていただきました。(取材・文/ほりきみき)

第一稿で撮れると思えるレベルの脚本は初めて

──古沢良太さんの脚本はいかがでしたか。

脚本は肝の部分がちゃんと抑えてあるかどうかが大事。古沢さんの脚本は、信長と濃姫、2人の関係性の変化に何より重心を置いていて、一切ブレがない。信長と濃姫には最初から愛があったわけではない。時代の必然性によって政略的結婚をし、時と状況を共有することで自然に愛情が生まれていく。そういった夫婦の感情の流れが年代を追って、しっかり描かれていました。もちろん補足しなければいけないところもありましたが、それは現場の工夫でどうとでもなるものばかりで、設計図としては申し分ない。第一稿で撮れると思えるレベルの脚本は私のこれまでのキャリアの中で初めてでした。

画像2: 『レジェンド&バタフライ』©2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会

『レジェンド&バタフライ』©2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会

──濃姫との感情のすれ違いは現代の夫婦にも通じるところがありました。

酔い潰れた信長に濃姫が各務野(中谷美紀)から聞いた話をするシーンがあります。ピンとこない信長が「何の話じゃ」と聞くと、濃姫が「夫婦(めおと)の話じゃ」とブチ切れます。結構身につまされる男性は多いと思いますね。「今日ね、こういうことがあったのよ」と奥さんが話しても、上の空で「それ、何の話 ?」と言ってしまい、「家のことにも、もう少し興味持ちなさいよ」と怒られる、みたいなことですね(笑)。時代に関わらず、どの家庭でもあるんじゃないかなあ、と。あの信長でも自分たちと同じなんだ、ということですよね。

そうかと思うと、塞いでいる濃姫に対して、「ああ、言っちゃったよ。それ、いちばん言っちゃいけないことだよね」というひとことを言ってしまったりする。長年連れ添った男女間のちょっとした綾が、二人の個性の中に十二分に描かれている。魅力的な脚本でしたね。

──敵側の武将が出てこないのに驚きました。

『トップガン マーヴェリック』でも敵方は出てきませんからね(笑)。

古沢さんの脚本には、今川義元などの敵方の武将を出さなくても、合戦に赴くまでの逡巡や戦ったことで生じた信長の苦悩がちゃんと描かれていました。ただ、相手側が見えてこないからこそ、信長と濃姫が背負っているものを大きな仕掛けできちんと映像化しないといけない。

長篠の戦いの後の死屍累々の光景をスケールアップして見せ込んでいくことで、戦に勝った信長が何を背負うことになったのか、何を得て、何を失ったのかを表せると思いました。長屋の夫婦ものではない、国の趨勢を左右する一国の主とその妻の話ですからね。

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