マーティン・マクドナー監督の『イニシェリン島の精霊』が公開されます。舞台はアイルランドの小さな架空の孤島イニシェリン島。『ヒットマンズ・レクイエム』でコンビを組んだコリン・ファレルとブレンダン・グリーソンを主人公に迎えて、友情が崩壊した男たちが引き起こす狂気の行く末を描き、賞レースを席巻。第80回ゴールデングローブ賞においては、作品賞(ミュージカル/コメディ部門)、主演男優賞(ミュージカル/コメディ部門)コリン・ファレル、脚本賞マーティン・マクドナーの最多3部門で受賞しました。本作について語ったマーティン・マクドナー監督のインタビューをSCREEN ONLINEでご紹介します(構成・ほりきみき)

ものごとの捉え方の違いから物語が始まる

──イニシェリンは架空の島ですが、大部分をアラン諸島で最大のイニシュモア島で撮られたとのこと。その雰囲気を言葉で表すとどうなりますか。映画を見ていると絶海の孤島という雰囲気があります。住人も、本国のことなどどこ吹く風、といった態度です。

本国ではアイルランド内戦の戦火が猛威をふるっていますが、この島では来る日も来る日も、同じことを繰り返し、同じ人としか会わない。日々の暮らしは偏狭になりがちです。この映画で描いているのは、そんな島で精神的に強く結ばれていた2人の間に起きる大喧嘩。ある日突然、楽しい毎日が破壊されたらどうなるのかという着想をきっかけにしています。

──主人公のパードリックとコルムはどんな人物でしょうか。

パードリックは優しくて、物腰が柔らかく、楽天的。実際のコリン・ファレルによく似ています。小さな畑とミニチュアロバを所有し、妹のシボーン(ケリー・コンドン)と一緒に親から受け継いだ家に住んでいます。人生唯一の楽しみは、親友のコルム(ブレンダン・グリーソン)と午後のパブで傾ける1杯のビール。この生活に何の不満もありません。

コルムも元々は親切で楽しい、気ままな好人物だったと思います。ただパードリックよりも15歳か20歳くらい年齢が高い。人生の引き潮を感じ、残りの時間の貴重さに気づき、一瞬でも無駄にできないと考え始めます。それまでの生活では飽き足らなくなり、好きだった音楽を追求し、すべての時間をアーティスト生活に費やしたい。それで、ビールを飲んで、おしゃべりすること以外に興味のないパードリックと一緒にいるのは時間の無駄だと感じるようになったのです。

ところがパードリックはそんなコルムの気持ちが理解できない。パードリックのそんなところがコルムにとっては受け入れられないのですが、そういった2人のものごとの捉え方の違いから、物語は始まります。

画像: (左から)パードリック(コリン・ファレル)、コルム(ブレンダン・グリーソン)

(左から)パードリック(コリン・ファレル)、コルム(ブレンダン・グリーソン)

──コルムが突然、絶交宣言するところから始まり、2人が仲良くしていた頃のパブの日常は描かれていませんね。

脚本を書きながら、仲が良かった頃から始めようかと考えたこともありました。でも「最初から争いの核心に迫りたい」と思ってすぐに止めたのです。見ている人もパードリックと同じように「なぜコルムはパードリックとの付き合いを絶つことにしたのか」、見当もつかないということが大事。それによって、映画が始まってすぐに物語のポイントが理解できます。しかも、どう展開するかが分からない。2人のその後が気になるはず。ただ、物語を語るときに過ぎた説明は不要です。映画では特にそう。見る人の想像に委ねる余地を与えるべきです。

──結末は最初から決めていらしたのでしょうか。

脚本を書き始めた時はこの話をどう決着させるか、決めていませんでした。私は普段から筋書きを構想したり、準備稿を用意したりしないのです。しかし、登場人物が映画のあと、どう生きていくかについては明確なアイデアはありました。それは結末がどうであっても違いはありません。

個人的には幸せな結末であろうと、悲惨な結末であろうと、事細かに説明した終わりは面白くないと思っています。映画が終わったあと「あの登場人物たちは、これからどうなるのだろう」と想像させられる、少し詩情のある映画が好きです。勧善懲悪のヒーローものではそうはいきませんけれどね。

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