オリジナル音楽は2時間以上で『ラ・ラ・ランド』の2倍
──今作のために作られた多くの曲で中心的なもののひとつが冒頭のパーティでかかる「Coke Room」ですが、もっと静かな「Manny and Nellie」もありますね。あの曲について語っていただけますか。
あの曲には3つのピアノを使っています。きちんと調律がされているピアノ1台と、ちょっと音がずれたピアノ2台。それを混ぜることで、やや壊れたような雰囲気が出るのです。ふたりの関係が脆くて壊れていることを表現しました。
──女性のシンガーが歌う「My Girl’s Pussy」はどうやって生まれたのでしょうか。
あれは1920年代の有名な歌の歌詞に合わせて、僕が新たな曲を書いたのです。
──本作はデイミアンの作品の中でかなり野心的ですが、音楽も大変だったのでしょうか。
この作品には2時間以上のオリジナル音楽があります。音楽映画だった『ラ・ラ・ランド』が1時間でしたから、その2倍の音楽があるわけです。しかもこの作品はいろいろな層が重なるので、もっと複雑でした。これまでの作品なら、曲を書き、編曲をして、ミュージシャンに演奏してもらい、レコーディングをし、ミックスをする。それだけでしたが、今回は2年に渡って、いくつものセッションを行っています。
違うミュージシャンで試してみたりもしました。俳優をキャスティングするように、同じポジションを別のミュージシャンに演奏してもらったのです。トランペットにしても、サクソフォンにしても、ベストな人を見つけるまで、何人もの演奏家に来てもらいました。ロサンゼルス、パリ、ニューヨーク、フィラデルフィアなどでスタジオを予約し、多くの演奏家たちといろいろなことを試してみて、手に入った大量の素材の中からこの作品に合ったものを選んで、どこで使うかを決めていくというとても複雑なプロセスでした。
──演奏者に関して、そこまでじっくり選んだとは驚きです。
音楽にパーソナリティをたっぷり持ち込みたかったのです。シドニーのトランペットはもちろんですが、それぞれの曲に特別なものを入れたい。曲によっては攻撃性が求められることもありますし、詩的なものが求められることもある。そもそも演奏家はそれぞれに個性がある。だから演奏家の演奏をじっくり聴いて、作品に合った人を選ばなくてはいけなかったのです。このようなことをしたのは初めてでした。
それに、先ほどもお話しましたが、僕たちは20年代の音楽にはしたくなかった。ところが、サクソフォン奏者は直感的にオールドファッションで20年代風の演奏をしてしまうことが多い。もっとアバンギャルドでモダンにしてほしくて、何度も「これが20年代の映画だということは忘れてほしい」と伝えました。何人もの演奏家に会って、ようやくジェイコブ・セズニーというサクソフォン奏者を見つけました。彼はまさに僕が求める感じのソロをやってくれたのです。もうひとり、レオ・ペレグリーノというサクソフォン奏者はフィラデルフィアの出身で、バリトンを演奏してくれています。
──『ファースト・マン』は違いますが、『セッション』『ラ・ラ・ランド』、そしてこの作品は音楽映画です。作曲家として、これらの作品を手がけるのはエキサイティングでしたか。
作品全体に関われるのはうれしいこと。撮影前に多くの曲をレコーディングしておく必要がありますし、音楽が出てくるシーンを撮影する日は現場に行きました。ポストプロダクションでは、一般的な作品と同じように映像を見ながら曲を入れていきますが、すでにたくさんの素材がありましたから、その段階で一から曲を書いたわけではありません。すでにあるものをちょっと捻って、もっとドラマチックにしたりしたのです。全体を通すとかなり時間を要しましたが、充実していました。