1980年に映画第1作目が公開された「映画ドラえもん」シリーズ。42作目の『映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)』は空に浮かぶ、誰もが幸せに暮らせて何もかもが完璧な理想郷<パラダピア>を舞台に、ドラえもん達が空をかける大冒険へと飛び立ちます。本作で声優初挑戦したのがKing & Princeの永瀬廉。オリジナルキャラクターの“パーフェクトネコ型ロボット・ソーニャ”役を務めました。脚本は2023年放送のNHK大河ドラマ「どうする家康」で話題の古沢良太。「映画ドラえもん」の脚本を初めて手掛けます。TVアニメ「ドラえもん」の演出を数多く担当し、劇場版で初めて監督を務めた堂山卓見監督に作品への思いをうかがいました。(取材・文/ほりきみき)

当たり前のことの大切さを気付かせるための対比としてユートピア

──世界各地で紛争が続いている今、ユートピアの在り方を問う、この作品のメッセージがとても心に響きました。『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』の作品プロットはいつ頃から、どのように作っていかれたのでしょうか。

僕がオファーされた時点ではすでに古沢(良太)さんが最初のプロットを立てていて、第一稿が上がってくるくらいのタイミングでした。コロナ禍に入った直後くらいのことです。子どもたちが遊びに出られないという状況を古沢さんが強く意識されて、そういうときでも子どもたちに楽しんでもらうにはどうしたらいいのかというところが企画のスタートでした。

堂山卓見監督

舞台は二転三転しましたが、ずっと通底していたのが、「のび太はダメな子と言われているけれど、ダメな子って本当にダメなのか。ダメと言われている子の中にもいい部分があるのではないか」ということ。最初に古沢さんが「今の子たちはいい子過ぎる気がする。周りの目を気にする時代になっていて、それは子どもも大人も同じ。それでいいんだろうか」とおっしゃったのです。それを聞いて、みんな、はっとしました。古沢さんはこの時代を生きている子どもたちが直面している問題をしっかり捉えていらっしゃったのです。あとは、どういう物語にしたら説教臭くなく、古沢さんの思いが伝えられるのか。それをみんなで考えていきました。

その頃はまだユートピアという話は出てきていませんでした。「映画ドラえもん」はのび太くんたちがどんな大冒険に出掛けても、最後は必ず日常に戻ってくる。戻って来たときに自分たちが今住んでいる環境の良さ、隣にいる人の大切さに気付くようにするにはどうしたらいいか。当たり前のことの大切さを気付かせるための対比としてユートピアが出てきました。

──ドラえもんといえば、毎回、何か新しいひみつ道具が登場します。本作ではタイムワープ機能付きの飛行船“タイムツェッペリン”でしたが、どんなきっかけで思いつかれたのでしょうか。

コロナ禍で自由に出掛けられないというところからスタートしているので、映画の舞台は自由度が高いところ、開放感のあるところにしたい。そうなると宇宙や空になりますが、前作が『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ) 2021』でしたから、「今回は空を飛行船で駆けていくような話がいいのでは」となったのです。とはいえ、飛行船が空を飛ぶだけでは面白くない。古沢さんがいろいろお考えになって、タイムワープはドラえもんの中で何度も使われているシチュエーションということで、それを取り込んだお話になっていきました。

画像: 当たり前のことの大切さを気付かせるための対比としてユートピア

──1929年(昭和4年)8月19日、霞ヶ浦に巨大飛行船グラーフ・ツェッペリン号(LZ-127)が来訪しました。この飛行船をモデルにされたのでしょうか。

飛行船を出すことが決まって取材することになり、いろいろ調べていくうちに、土浦ツェッペリン倶楽部の方にたどり着きました。

お話をうかがうまでは“飛行船は飛行機の前段階の飛ぶ乗り物”という認識でしたが、貴重な資料をいろいろ見せていただいて、当時の最先端の科学技術が詰まっていたことがわかったのです。もちろん、スピードは飛行機ほど出ませんが、その分、余裕を感じます。グラーフ・ツェッペリン号が飛んでいたころの飛行船はまるで豪華客船のよう。当時の写真を見るとタイタニック号かと思うくらい、客室や食堂のデザインが豪華です。移動用ではなく、余裕を楽しむ人たちの乗り物だったわけです。

今回のタイムツェッペリンは未来の道具ですが、昔の名残をどこかに入れておきたいということで、グラーフ・ツェッペリン号などの内装をいろんなところにデザインモチーフとして仕込んであります。趣味で楽しむために作られたものであることも感じられるようにしました。映画的にはストーリーに深く関わってほしいと思い、いろいろな使い方をしています。

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