いよいよ2023年3月12日(現地時間)の授賞式が迫ってきたアカデミー賞。この一年間の映画界の頂点に立つのは、どの作品、どの俳優、どの映画人でしょうか。今回は例年にも増して多くの部門で混戦が繰り広げられており、オスカーのゆくえはまだまだ最後まで予断を許さないところ。日々情報がアップデートされる中、最終コーナーを回りつつある賞レースの現状を分析する業界内の声などを基に、最もオスカー像に近い候補を探ってみましょう。(文・米崎明宏/デジタル編集・スクリーン編集部)

超大ヒット作から女性監督作、外国語作品にも逆転受賞の可能性が?

画像: 『トップガン マーヴェリック』 © 2022 Paramount Pictures.

『トップガン マーヴェリック』

© 2022 Paramount Pictures.

残り5つの候補作を見ていくと、まず注目されるのがジョセフ・コシンスキー監督の『トップガン マーヴェリック』(2022)とジェームズ・キャメロン監督の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(2022)という大手スタジオのビッグバジェット作品だ。世界興行収入10億ドルを超える超大ヒット作が同時に2つも作品賞にノミネートされることはオスカー史上初という。そして特に『トップガン…』は作品賞受賞の可能性が決して低くない。もし受賞すれば製作者の一人であるトム・クルーズのオスカー初受賞ともなる。

『アバター…』の方は『ゴッドファーザー』(1972)『ロード・オブ・ザ・リング』(2002)に続いてシリーズで2作以上が作品賞候補になった3例目だという。いずれも世界中で鑑賞した人の数を考えると、アカデミー賞のゆくえに興味を持ってもらうために大きな影響を持つ枠組みの作品として、こうした商業的成功作品もオスカーの新たな潮流になっていくかもしれない。

画像: 『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(公開中)  © 2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(公開中)

© 2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『エブエブ』に次いで『イニシェリン島の精霊』と同数の9部門という大量候補となり、驚かされたのがドイツ映画でNetflix作品の『西部戦線異状なし』(2022)だ。第一次世界大戦の若きドイツ兵の苦難を描いたレマルクの原作を映画化した本作は、90年以上前の1930年に作品賞を受賞した同名作品(アメリカ映画)の本国版リメイクでもあるが、オリジナル版よりかなり生々しい戦闘シーンが展開し、鮮烈な印象を残す。また『パラサイト 半地下の家族』(2019)のように外国語映画の受賞という流れと『コーダ あいのうた』(2021)(アップルTV+作品)のように配信系作品受賞という二つの潮流を汲んでいて無視できない存在だ。

画像: 『西部戦線異状なし』 Netflix映画『西部戦線異状なし』独占配信中

『西部戦線異状なし』

Netflix映画『西部戦線異状なし』独占配信中

今回監督賞5人の枠に女性候補が入らなかったことが一部で取り沙汰されたが、サラ・ポーリー監督の『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(2023)は10作の中で唯一の女性監督による作品だ。本作は監督賞に選出されなかったポーリーが脚色賞でノミネートされている。キリスト教のある一派で、集団コミュニティを営む信徒たちに広がる疑惑。男性信徒たちが女性信徒をだましてレイプしているという噂に、自分たちがどう振舞うかを議論する女性たちを描くドラマ。ナショナル・ボード・オブ・レビューなどでアンサンブル演技賞を受賞していて、脚色賞では本命の声がかかっている。

画像: 『ウーマン・トーキング 私たちの選択』 (初夏公開) © 2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved

『ウーマン・トーキング 私たちの選択』 (初夏公開)

© 2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved

そして最後の1本は日本でも公開され好評を得たバズ・ラーマン監督の伝説のロック歌手エルヴィス・プレスリーの伝記映画『エルヴィス』(2022)。8部門という大量ノミネートなのだが、ここで意外な記録が生まれている。製作者の一人キャサリン・マーティンは本作で美術賞と衣装デザイン賞にもノミネートされ、1年のうちに一人で三つの異なる部門で候補となる稀有な例となっているのだ。実のところ他の強力ライバルたちに比べ作品賞は難しいかもしれないが、美術賞などでは本命視されており、キャサリンも含む技術系部門で複数受賞が期待されている。

画像: 『エルヴィス』 ©2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

『エルヴィス』

©2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

先に作品賞受賞には監督賞、脚本(あるいは脚色)も候補に挙がっている方が有利と述べたが、昨年の『コーダ あいのうた』や、近年の『グリーンブック』(2019)『アルゴ』(2012)など監督賞候補を逃したものの、作品賞を受賞するというケースが増えてきたことも否めない。変動期にあるアカデミー賞では何が起きるかわからないというのが事実だ。そしてこの原稿を書いている時点でまだ発表されていない、全米監督協会賞(現地2月18日)、英国アカデミー賞(同2月19日)、全米製作者協会賞(同2月25日)、全米俳優協会賞(同2月26日)などの受賞結果がわかってくると、それまでの流れが変わるかもしれない。本当の本命、対抗がわかってくるのは、これらの賞が発表された後だ。アカデミー賞の会員による最終投票は3月2日から7日の間。ここまでの間にどんな逆転のドラマが待っているか、最後まで目が離せないのがアカデミー賞なのだ。

オスカー2023にまつわる3つの小話

ジミー・キンメル

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1.司会は3度目のあの人!

第95回の総合司会を務めるのは、第89回と第90回にも同役を務めた人気トーク番組のホストとして知られるジミー・キンメルに決定している。第91回から93回までは司会を置かず、昨年第94回はエイミー・シュイマー、レジーナ・ホール、ワンダ・サイクスの3人が務めていた。一時、前回の授賞式でウィル・スミスに平手打ちを食ったクリス・ロックが司会を打診されたが、断ったものと言われている。キンメルは「3度も司会として招待されるのは大変な名誉か罠のどちらかです」と冗談を交え感謝のコメントを発している。

2.今年はアイルランド・イヤー?

作品賞ほか9つの候補に挙がっている『イニシェリン島の精霊』が大きな話題を集めているが、今回は本作を含めアイルランド・イヤーとも言われている。アイルランドを舞台にした『イニシェリン島…』はアイルランドの国籍を持つマーティン・マクドナー監督はじめ、主要キャストもコリン・ファレル、ブレンダン・グリーソンらノミネートされた俳優全員がアイルランド出身者。またこの作品だけでなく、主演男優賞候補になった『aftersun/アフターサン』(2022)の新星ポール・メスカルもアイルランド出身。さらに国際長編映画賞にアイルランド候補として『The Quiet Girl』(2022)が初のノミニーとなっているのも注目されている。

3.特別賞を受賞した4人の顔ぶれ

本選を前に、特別賞に当たるガバナーズ・アワードが昨年のうちに発表されている。まずジーン・ハーショルト友愛賞が『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)で知られるマイケル・J・フォックスに、名誉賞が『いまを生きる』(1990)などのピーター・ウィアー監督、『白く渇いた季節』(1989)などのユーザン・パルシー監督、ソングライターのダイアン・ウォーレンに贈られ、2022年11月19日に授賞式が行われた。マイケル・Jは自身も患者の一人であるパーキンソン病研究への財団設立など長年に渡る貢献が評価されたもの。

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