映画人の王冠、または勲章のように例えられるアカデミー賞。必ずしも受賞した人のすべてが後に大成功を収めるわけではないけれど、業界で一目置かれ、その後のキャリアに大きな違いが生じるというもの。となれば、まずは受賞者になりたいというのがほとんどの映画関係者の本音だろうが、ほしくてもなかなか受賞できないのがアカデミー賞。実力が保証されていても、大ヒット作をいくつも放っていても、最終的には運が味方してくれなければオスカーはゲットできない。そんな運にまだめぐりあっていない映画人は星の数。その意外な顔ぶれを探ってみよう。(文・米崎明宏/デジタル編集・スクリーン編集部)
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女優篇

今回のノミニーの顔ぶれを見ると、『フェイブルマンズ』のミシェル・ウィリアムズが5回目のノミネートとなる(主演3回、助演2回)が、今度こそ無冠のタイトルを返上できるかに注目が集まる。このように何度も候補まで行きながら受賞できないという俳優も少なくない。例えばグレン・クロース(主演4回、助演4回)、エイミー・アダムス(主演1回、助演5回)、アネット・ベニング(主演3回、助演1回)などがその例だ。すでに1回くらい受賞しているという印象が残るほど彼女たちは「オスカー常連組」なのだが、いつも対抗馬で終わってしまうのが可哀想?

男優同様、売れっ子スター、ビッグスターにかぎって無冠というセオリーも成り立つかもしれない。マーベル組のスカーレット・ヨハンソンは『マリッジ・ストーリー』(2019)と『ジョジョ・ラビット』(2020)で主演・助演W候補に挙がったが、どちらも一歩及ばなかった。W候補といえばベテラン、シガニー・ウィーヴァーも第61回で『愛は霧のかなたに』『ワーキング・ガール』(1988)で主演・助演W候補になったが受賞ならず。大物シンガーのマドンナ、ジェニファー・ロペスも歌とは別にオスカーを狙っているが、現時点では歌曲賞でも候補にさえなっていない。大物にも厳しいのがオスカーだ。

人気女優ではキャメロン・ディアス、ミラ・ジョヴォヴィッチ、メグ・ライアン、デミ・ムーアといったかつてのアイドルたちもオスカーに縁がない。ウィノナ・ライダーは2度、ミシェル・ファイファーは3度ノミネートされているが、やはり無冠のままだ。

また男優同様、英国の実力派女優たちでも、候補どまりの人が多い。ヘレナ・ボナム・カーター、キーラ・ナイトリー、ロザムンド・パイク、キャリー・マリガン、シアーシャ・ローナンなどはいつか受賞してもおかしくない実力の持ち主ばかりだが、今のところ無冠に留まっている。英国でなくても今回『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で初候補となったジェイミー・リー・カーティスのようなベテランもいるように、素晴らしい出演作に巡り会えれば…、というところだろうか。

またこのところ受賞やノミネートされる数が増加中のブラック系女優でも、昨年夫ウィル・スミスがようやく受賞者の仲間入りしたジェイダ・ピンケット・スミスはじめ、ナオミ・ハリス、ケリー・ワシントン、テッサ・トンプソン、タンディ・ニュートンなどは、いまだ無冠。ノミネートも未経験という女優もいる。アジア系、ラテン系なども含めてこれからもオスカーの変革は進められる必然性がありそうだ。

監督篇

巨匠、名匠と言われる人でも監督賞を受賞していない人は意外といるもの。たとえば映画史に残るサスペンスの神様、アルフレッド・ヒッチコック(特別賞は受賞)、『2001年宇宙の旅』(1968)などの鬼才スタンリー・キューブリック(『2001年』で特殊視覚効果賞は受賞)も肝心の監督賞は受賞していない。

映画史上最高傑作と言われる『市民ケーン』(1941)を撮ったオーソン・ウェルズも、『パルプ・フィクション』(1994)などで最高評価を受けたクエンティン・タランティーノも脚本賞を受賞しているが、監督賞はミスしている。脚本も書く監督は多く、昨年の『ベルファスト』(2021)のケネス・ブラナーも監督賞は逃したが、脚本賞で初受賞となっている。実は今回も監督賞と脚本賞の両部門で候補になっている人が多いのも注目。

秀作を何本も作っている現役の監督でもリドリー・スコット、デヴィッド・フィンチャー、クリストファー・ノーラン、ポール・トーマス・アンダーソンなどは、まだその機会に恵まれていない。彼らはいずれこのリストから外れる可能性も大だが、いくら名作を作ってもやはり最終的にものをいうのは「時の運」。アカデミー賞の面白さはそんな「運命の饗宴」を目撃するところにもある。今年はどんな運命のドラマが生まれるか楽しみだ。

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